今年ももう7月に入った。
相変わらず俺はリーベヌ王国にいた。
まぁその、口に出して認めたくはないけど、嫁に来たわけだし。
別に日本に未練もクソもねぇから、これでよかったと思う。
今頃日本はあのジメジメした梅雨の時期なんだろうな…。
ここはあんまりそういう季節の激しい変動がなくて、わりと過ごしやすい。
「…‥ん…。」
なんだ?なんかいつもと違う…?
朝、いつものように目を覚ました俺は、肌で感じる空気に違和感を覚えた。
日本のことを思い出していたせいだろうか、なんだかしっとりとして…そしてロシュが隣にいない。
なんだ、なんか嫌~な予感がするな…。
いつも俺より先に起きてるのに。
人の寝顔眺めてるなんて趣味悪いったらありゃしねぇ。
『おはよう、僕のヒメ』
その後必ずキスしてくるのに…‥って、別にしたいわけじゃないけど。
「あっ、リゼ~!」
窓の向こうから、ロシュの声がして、外を見ると雨が降っていた。
これまたド派手な装飾の薔薇柄の傘をさして。
俺はバルコニーから外へと出た。
「朝っぱらから何やってんだよ。」
「えへへ~、見て見て。」
「雨がどうかしたのか…ん?紫陽花?」
ロシュが指差した先にはそれぞれ微妙に色の違う、紫陽花が咲き誇っていた。
その葉っぱにはカタツムリまでいて、なんだか日本にいた時見ていた光景のようだ。
「へぇ、この国にも紫陽花って生息して……‥‥おいロシュ、あれなんだ?」
俺は降り続く雨の先の空を見ようと上を向いて、溜め息を吐いた。
「え?梅雨セット。昨日徹夜で組み立てたの。」
「お前はまったく…。」
「嬉しい?ねぇ、感動した?」
「嬉しかねーよ!」
その天井は巨大ビニールハウスのような透明な屋根になっていて、そこから霧のような雨が降り注いでいた。
まったくなんでこいつはこういうくだらないこと考えるかな。
どうせ俺のため、とかまた恥ずかしいことぬけぬけと言うんだろ。
そう、俺はあれから相変わらず素直になれないでいる。
だって仕方ないだろ、ずっとこの性格で来たんだから。
「え~、リゼのために僕も手伝って頑張ったのに~。」
「うるさいっ、俺は頼んでないっ!」
「日本の雰囲気出したかったのになぁ…。」
「頼んでねぇけど…。」
あぁちくしょう!なんだってそんな顔すんだよ。
わかってるよ、そうやって俺を喜ばせることしたかったってのは。
「頼んでねぇけど…、ありがとうっ!」
「リゼ…!」
くっそーなんだよ、俺、めちゃめちゃ恥ずかしい人じゃんか。
こ、こんな、ロシュとラブラブ~、みたいで。
俺がそっぽを向いて半分ヤケクソになって礼を言うと、案の定ロシュは後ろから抱き付いてきた。
「離せ…って、暑いから…っ。」
「じゃあ部屋入ろ?冷房つければいいよ。」
「そういう問題じゃ…。」
「それでえっちしようよ~。」
「はぁ?何言ってんだアホっ!」
「え~、だって梅雨は部屋に籠もってえっちするんじゃないの?」
こ、このバカは…。
日本の知識どっか間違って覚えてるんだよ。
「そんなわけあるか!」
「え~、だってリュウから聞いたよ?」
「リュウ?誰だそれ??」
「前に話したよー、僕の友達。」
その友達らしき人物からの手紙を見せられた。
ピンクのさくらんぼ柄の乙女ちっくな便箋に達筆で書かれている。
そういや前に花見のシーズンにそいつから桜の木送ってもらってたっけ。
『親愛なるロシュへ。
元気か、俺は元気だ。ついでに恋人の名取も元気だ。
この間手紙に書いてあったものを今夜空輸する。
日本の名水(雨用)、紫陽花一式、カタツムリ一式、俺の愛読書セットも送る。
ロシュも恋人とラブラブな梅雨を満喫してくれ。
じゃあまた、今度メールでもくれ。
俺のアドレス⇒natorilove@tohnophone.○○.jp
遠野龍之介より。』
な、なんだこの手紙…つーかこいつ何者だ?
なんかちょっと変わってるな…。
親愛なる、のわりには短い手紙だな。
愛読書セット…??なんだそりゃ。
「リュウもね、恋人と梅雨を楽しんでるらしいよ。」
「わっ、なんだその本っ。」
いわゆる俺たちのような男同士のその、なんつーかエロ漫画だ。
そんな変な知識教えるんじぇねぇよまったく。
「ね、えっちしよ。」
「嫌だ、こんな明るい時間からんなこと…。」
いや、時間の問題じゃねぇだろうが。
でもそういう言い訳しかできない。
今でも考えられないんだ、このお俺が男に喘がされてるなんて。
「大丈夫、見えない見えない♪」
「そんなわけ…ちょっ、ロシュっ、下ろせっ!」
実は俺よりも身体がデカくて力のあるロシュに、俺は軽々持ち上げられて、部屋の中へと運ばれてしまった。
「リゼ、愛してる~。」
「ちょっと待てって!お前えっちえっちって、することしか頭にねぇのかよっ!」
「え、うん。」
「はぁっ?!」
まさか身体目的とか言うんじゃねぇだろうな。
そんなふうに見えないフリして、とか。
「えっちは愛のバロメーターでしょ?」
「何言ってんだよバカ…。」
「ね?だからしよ?」
「……ったく…。」
そんなこと笑顔で言われて、拒めるかっての。
本当にそう思って、純粋に俺のこと好きだから、それがロシュのその笑顔でわかるから、俺はいつも流されてしまう。
違う、本当は俺だってそんなふうになりたいって思ってる。
「…は…っ、んん…っ。」
見かけによらず激しいキスを何度もされて、そのキスは首筋へと降りてくる。
着ていたパジャマを脱がされ、ロシュの手が胸の辺りを撫でる度に、俺は身体を震わせて反応してしまう。
その先端をきつく吸われて、そこは硬く腫れ上がり、その快感によって下半身まで反応してしまっていた。
「リゼえっちだね、ほら。」
「…っ、誰がしてんだ…っ、…あ!」
変化した下半身に手を伸ばされ、下着を下ろされて、俺のそれは露になった。
こんなちょっと胸弄られて勃つなんて、俺ってそんな敏感だったんだな…。
感心してる場合でもないけど。
「…んっ、あぁっ。」
既に滲み出していた先走りはロシュの行為によって量を増し、静かな朝の寝室に濡れた音は響き渡る。
「リゼ、もうこっちいい?」
「…んんっ!ちょ…やだって…。」
「じゃあ僕目隠ししようか?そしたら見えないし。」
「アホ…、それじゃ変なプレイみた…っ、あっ!」
俺の脚が持ち上げられて、濡れた指が後ろの入り口へと進入してきた。
こんな恥ずかしい格好、見せられるか…。
ロシュ、お前以外誰にも見せない。
「は…っ、あぁっ、ロシュ…っ、もういいから…っ!」
指で少し弄られたぐらいで、俺は我慢できなくなって、その先を要求してしまう。
そんな、人に頼む、なんてこともお前だけだ。
「早く来い…って…っ!」
「うん、じゃあ入れるね。」
喉がゴクリと鳴って、瞳を閉じた。
この瞬間、いつも覚悟が必要だ。
だってそうだろ、あれがあんなところに入るんだ、無理に決まってんだろ。
「───っ!!…あっ、ああっ!」
「リゼ、可愛い。」
「うるせ…っ、あっ、あぁ…っ!」
「リゼ、愛してるよ。」
愛してるだの可愛いだの、男が男にそんなこと言われて嬉しいハズないのに、この瞬間の俺はもう何も考えられなくなっている。
考えられるのは、ロシュのことだけで、俺までそんな台詞を無意識に言ってしまっている。
「ロシュ…っ、好きだ…っ、あ…っ!」
「リゼ、もういい?」
いい?とか聞くんじゃねぇ。俺の顔見てわかんねぇか。
わかってんだろうな、俺もお前が余裕ないのわかるんだ。
「───あぁぁ……!!」
「リゼ…っ!」
俺はバカみたいな声を出して、絶頂に達して、同じ瞬間にロシュも俺の中に放ったのがわかった。
「あー…最悪だな…。」
「え?何が?」
「知らばっくれんなよ、…ったく…。」
「えへへ、リゼ、照れてるんだね。」
当たり前だっつーの。
朝っぱらからこんなことして、恥ずかしくないわけないだろ。
それでも俺は後悔することはない。
最終的に俺もしたいと思って、受け入れるんだから。
それにロシュは俺が本当に嫌がったらしないと思う。
「…あ、見てリゼ。」
「…ん?あぁ…。」
ぐったりと横たわったベッドからも窓の外が見えて、雨が上がって太陽が照らし始めていた。
その青く澄んだ空に、薄っすら七色の橋がかかって、俺は思わず溜め息を漏らした。
こんなに綺麗な虹を見たことがなかった。
なんだかその虹がロシュの心そのものみたいに綺麗で、そんなこと思ってる俺は実はこいつにベタ惚れなんじゃないかと思う。
もちろんそんなこと言ったら調子に乗るだろうから、俺の胸の内だけに留めておくけど。
「また見ようね、虹。」
「あぁ、そうだな。」
毎年やる気なんだろうか…やるだろうな…。
でも毎年ロシュとこうして過ごせたら、と思う。
例え人工の雨でもいい、人工の虹でもいい。
お前が俺のためにやってくれた、その思いは本物だから。
END.
■前サイト5555番キリバンリクエストであゅ様より頂きました。
「薔薇色☆王子様」の梅雨、虹、をテーマに、ということで…。
さり気なく(全然さり気なくない)「Love Master.」の遠野も手紙出演してます。
当たり前ですが、文中の遠野アドレスは架空です。(笑)
テーマとあんまり関係なかったような…。(汗)
遅くなりましたが、あゅ様ありがとうございました!