「まだ30分ですよ!リゼ殿!王子もなんですかだらしのない!」
「いってぇ!何すんだてめぇ!うわっ足触んなって!!」
「リゼぇ~、僕もうダメぇ、足痛いよぅ~。」
しかし翌日から、地獄のような日々が待っていた。
何をどう間違えているのか、俺達は正座なんてやらされている。
朝起きて迎えに来られて、わざわざ和室まで用意して待ってるんだもんな…。
しかもそれだけでは済まされなかった。
お茶だの花だの、やったこともないことをやらされた。
マナーはマナーで、食事から何まで叩き込まれて、王室の常識、これまでの歴史なんてものまで。
朝から晩まで、特別に用意された部屋で俺達はスパルタ特訓を受けさせられた。
そのファボルトの特訓から4日目。
ついに俺もロシュも限界を超えてしまった。
毎日の特訓で足は痛いわ堅苦しくて肩は凝るわ。
久々に勉強なんてものをさせられて頭の中はパンパンだわ。
とにかくもう限界で、どうやって逃げるか、それを考えるしかないところまで来ていた。
「王子、リゼ殿、失礼しますよ。」
その日もドアをノックした後、ファボルトの声が聞こえた。
俺とロシュはそのドアの近くに潜んで、ドアが開く瞬間の勝負に賭ける。
「いくぞ、ロシュ。」
「う、うん!」
ガチャリとドアが開いて、俺はロシュの手を引いて飛び出した。
部屋の中に入ってくるファボルトを思い切り突き飛ばして、そこから走って逃げる。
「王子!リゼ殿!!」
床に叩き付けられたファボルトが起き上がって、俺達の名前を叫ぶ。
怪我はしない程度にやったつもりだったけれど、腕の一本ぐらい折ってもよかったかもしれない。
すぐに追い掛けて来るファボルトから猛ダッシュで逃げる。
「おい、どっかないのかっ?隠れるところ、あいつが知らねぇところっ。」
「リゼぇ、僕もう走れないよ~…。」
「ったく、だらしねぇ奴だな!」
「あっ、そうだ…!こっち、こっちだよリゼ…!」
ヘトヘトになっているロシュがなんとか俺の手を掴んで走る。
そう言えば日本にいる時もこんなことがあった。
俺が学校に行こうとして、ファボルトと一緒に無理して走ってついて来て。
あの頃からこいつは体力もなくて頼り甲斐もなかった。
それでも俺を好きだとか守るとか言って、それで俺は落ちてしまったんだ。
「なんだここ…物置きか?」
「えへへっ、僕の秘密の場所だよ。」
「ふぅーん…。」
「よくここに隠れたりしたんだ、今みたいにファボルトの特訓が嫌で。」
そこは、数ある一室の中の物置きみたいな場所だった。
扉を開けると一畳ぐらいの天井の狭いところに、掃除道具なんかが置いてある。
普段俺達が暮らす部屋から随分と離れているせいなのか、人の声も、物音すらしない。
多分ここは空き部屋なんだろう。
「もう追って来てねぇみてぇだな…。」
「リゼ…。」
「あ~あ…、なんか眠くなった、ここんとこ疲れがたまって…ん?」
「リ、リゼ…。」
足音が聞こえないのを確認すると、ホッとしたのか俺は急激な疲労感と眠気に襲われた。
ところがすぐ隣に座っているロシュを見ると、なんだか様子がおかしい。
物凄く嫌な予感がするのは俺の気のせいだろうか。
「おい…、なんだよ…。」
「リ、リゼ、なんだか僕興奮しちゃって…!」
「はぁ?ふざけん…、バカっ、触るなっ、ロシュっ!」
「狭いところがムラムラするって本当だったんだねぇ…ね?リ・ゼ♪」
「─────…!!」
「リゼぇ~、エッチしようよ~。」
嫌な予感は見事に的中した。
どこからそのテの情報を仕入れているのか、ロシュの知識はだいたいどこかズレている。
それで俺がダメだ怒ると、法を変えるとか無茶苦茶なことをする。
本当にバカでアホで救いようのない奴だ。
「バカ言ってんじゃねぇ、今何してると思っ…、ロシュ…っ!」
「今?リゼとエッチしてる~♪」
「ふざけ……っあ!」
「愛してるよ、リゼ。」
下半身に潜り込んで来たロシュの手を掴んで退かそうとするのに出来ない。
こういう時だけ男らしくなるロシュに勝てないんだ。
そのお決まりの台詞を言われると、お決まりだとわかっていても反抗出来なくさせてし まう。
「す、するなら早くしろよ…っ。」
「うふふ、リ~ゼ、可愛い…えへっ。」
こんな奴に組み敷かれるなんて悔しい。
俺みたいな奴にとっては屈辱以外の何物でもないはずなのに。
それなのに許してしまうのは、やっぱり俺もこいつが好きだからだと思う。
覆い被さってくるロシュの体重を感じながら、固い床にゆっくりと沈んだ。
「見つけましたよ。」
「…う、うわあぁ!!」
「ひどーいファボルト!!せっかくいいところだったのにぃ~!!」
「何がいいところですかっ、まったく破廉恥な!さ、出て来て下さい王子、リゼ殿!」
「てめぇすぐ見つかってんじゃねぇか!!このアホたれ!!」
「ちぇー、いっつもファボルトには見つかっちゃうんだよねぇ。」
早く気付けばよかった。
よく隠れていると言うのはイコールよく見つかるということに。
俺もいつの間にかロシュのアホがうつってしまったらしい。
ファボルトに見つかったのはよかったのか悪かったのか。
悪かった、残念だ、なんて言ったらまた調子に乗るだろうからロシュには黙っていることにし た。
「もう準備は出来ていますからね。お急ぎ下さい。」
「準備…?」
昨日までと違っていつものファボルトがそこにいた。
俺達を物置きから出すと、普段俺達のいる部屋の方へと急かす。
「さぁ、どうぞ。」
「??なんだよ、一体何が……、うわ…。」
笑顔で俺の背中を押すファボルトに不信感を抱きながら、部屋に入る。
指差された大きな窓から見る庭には、霧のような雨。
その雨が雫になって、窓に無数に張り付いている。
外は天気で、太陽まで強く照っているというのに。
ちょうど一年前と同じ風景がそこにあった。
「いかがですか?」
「いかがって…、ファボルトがやったのか?これ…。」
あまりに綺麗な雨に、俺は感動すら覚えてしまった。
この雨が止んだら、きっと空には虹がかかっている。
一年前みたいに、くっきりと七色に分かれた、見たこともないぐらい綺麗な虹。
「はい!僕でーす!やったのは僕!!僕だよリゼぇ~。」
「そうですよリゼ殿、王子が貴方のためにリュウノスケ殿より送って頂いたのですよ。」
「もう、ずるいよファボルト、自分がやったみたいに言うんだもん。」
「申し訳ありませんでしたね、リゼ殿。計画がわかってしまうのを防ぐためにあのような特訓を…。」
「リゼ最近元気なかったもんね、やっぱり日本が恋しくなるよね?」
「ちょうど日本は今頃梅雨の時期ですからね。」
結局あの特訓というのもロシュの計画の一部だった。
そりゃあ、この部屋にいたら準備も出来ないだろう。
だから暗くなるまで俺達を他の部屋にいさせたということだ。
本当に、呆れるぐらいバカなんだから。
俺のためにいちいちアホな計画たてて、大金使って。
俺が思いつかないようなことばっかり。
そのアホさ加減に呆れるのに、その思いの深さが嬉しくて、俺はどうしたらいいって言うんだ。
一人で怒っていたのがバカみたいに思えてくるじゃないか。
「綺麗だな…。」
「なんだか今年は豪華だねぇ。紫陽花もいっぱいだし。」
「リュウノスケ殿のお父上の会社はこちらでも大変な活躍ですからね、今年は降雨用ヘリコプターまで。」
「ヘ、ヘリって…。」
「え~、そんなのうちにあったのにね。リュウってば優しいねぇ。」
「カタツムリも今年は倍の数ですよ、それから傘だとか…それはもう色々と。」
金持ちの考えることはやっぱりわからない。
でも今俺の隣にいるロシュという一人の人間の気持ちはわかる。
それは多分、俺と一緒だから。
「あ、ファボルト、そろそろ出て行ってくれない?」
「そうですね、お二人水入らずで梅雨を楽しむのもまた…。」
「いや俺は別に…。」
「ううん違うよ、エッチするから見ないでって言ってるの。」
「お、王子っ!!な、なんと言うことを…!!」
「こ、このアホっ!!なんでそうなるんだよ!!」
せっかく人が感動しているのに、これだ。
どこまで俺を怒らせる気なんだろう。
そしてどこまで俺をこんなに揺さ振る気なんだろう。
それはきっと、この先も変わらない。
ロシュがくれた薔薇色の人生は、ずっと続いていくと思うから。
END.
■カウント40000番…まさよ様リクエスト
「薔薇色☆王子様の二人」
久々の「薔薇色~」でした。
リゼは相変わらず強気、ロシュは相変わらずアホです。
何気なく一年程前に書いた「虹色☆雨上がり」の続きっぽいような…。
それにしても今回ファボルトが出過ぎた感じがします(笑)
まさよ様、どうもありがとうございました!