「メリー・クリスマス、柊。」
「一也…?!」
「待ちきれなくて開けちゃった、ごめん。」
「開けたって…!」
俺、まだ鍵開けてないよ…。
手で触れたら、勝手にガチャって音がして、一也が現れたんだ。
しかも一也の服、あの赤と白の、サンタクロースの…。
真っ白なひげは、ないけど。
「雪、降ったな。」
「うん…。」
「あんまり似合わないだろ、俺。この服。」
「ううん、そうでもないよ…。」
「そう?嬉しいなそれは。で、信じた?」
「…うーん……。」
そんな服が、どこにでも売ってるのを知っている。
パーティーとか、子供にバレないようにお父さんが着たりして。
一也は似合わないって言ってるけど、その帽子とか、結構似合ってて、なんだか可愛い感じもして、可笑しくなってしまった。
「なんだ、まだ信じてないのか?」
「だって、トナカイがいないもん。」
「いるよ、ほら、見てみろよ。」
「えっ!」
一也が持っていた手綱を引っ張ると、暗闇から茶色い物体が現れた。
一瞬それが何なのか、わからなかった。
「トナカイ不足でさー、今はこんなのも出てるんだぜ?」
「な、な、何それ…?!」
「まんまだよ。トナカイマシーン。カッコいいだろ?」
「トナカイマシーンって…!…ははっ、あはは!変なの!」
トナカイ不足なんて、初めて聞いた。
普通で言う人不足みたいなものだろうけど…。
カッコいいだろ、なんて一也は自信たっぷりに言うし。
もう、どこまで本当で、どこまで嘘かわからない。
可笑しくて、笑いだけが漏れる。
「立派なサンタクロースになれば本物のトナカイにも乗れるけどな。」
「まだひよっこって言ってたね。」
「そうそう、すっげぇサンタクロースは上に山ほどいる。」
「一也はどうしてサンタクロースなの?家系とか?」
「違う、なりたくてなった。まだ修行中ってところだな、うん。」
「修業ー?!そんなんでなれるんだ!」
全然知らなかった、サンタクロースのシステム(?)に、俺は次々に質問をする。
一也がなりたかった理由とか、色んなところにサンタクロースはいるのか。
どれぐらい、サンタクロースがいるのか、なるのは難しいのか。
昨日から今日に、悩んだことなんて忘れてしまうぐらい。
「小さい頃からの夢だったんだ。プレゼント貰った時のこと、忘れられなくて。」
「そうなんだ…。」
「その時のサンタクロースに憧れてってのもあるけど。」
「へぇ…、憧れなんてのもあるんだ…。」
学者でも作家でもスポーツ選手でも、そういうのはあることで、
芸能人なんかも○○さんに憧れて、なんてよくテレビで言ってる。
奥が深いなぁ、サンタクロースの世界って。
「お前の父さん。」
「へ?父さんがどうかしたの?」
「俺の憧れのサンタクロースだよ。お前の父さんだよ。」
「と、父さん?!父さんがサンタクロースなんて聞いたことないよ!」
「おばさんは知ってると思うけど。結婚するぐらいだからな。」
「そんなの知らなかったよ…。」
バレるとマズいって言ってたもんね…。
まぁ自分の子供に、「父さんはサンタクロースです」なんて言うのもおかしいもんね。
だからうちの父さん、クリスマスはいなかったんだ…。
一也のこと、同じサンタクロースって知ってるのかな。
最初不審に思ってたみたいな父さんの態度が、なんだか可笑しい。
「いい名前って言ったろ、お前の名前。」
「…あ。ひいらぎ、って…。」
「お前の父さんがこっそり意味を込めて付けたんだろうな。」
「うん…、そうかもしれないね…。」
なんだか、嬉しくなった。
今まで名前のことなんか何も気にしてなかったのに。
そんな意味があるなんて、もっと早くに知りたかったな。
でもそれも、一也が教えてくれたから…。
どうしよう、俺、やっぱり凄く一也が好きだよ…。
「で?考えたのか?プレゼントは。」
「…うん……。」
「お、やっと決まったのか。で?なんだ?何が欲しい?この中にあるかな…。」
一也はソリに置いていた大きな袋をガサガサとし始めた。
本当にあの袋って、プレゼントが入ってるんだ。
大きくて、白い袋に、たくさんの子供達にあげるプレゼントがいっぱい。
なんだか、すごくロマンチックだ。
「その中には、ないと思う…。」
「え?ないってなんでわかるんだ?サンタクロースをナメんなよー?」
「違うんだ…!」
「柊?どうした??」
ふざけて笑いながら探す一也の袖を引っ張った。
赤くて、外でも寒くないような、分厚い服だ。
俯いたまま、何も言えなくなってしまう。
でも今言わないと、いけないんだ。
「だって俺が欲しいの、一也だもん…。」
「だ、大胆なこと言うんだな…、お前…。」
「またバカにするんだ…。もういいよ。」
「バカになんかしてないよ。言われる前に言うけど、子供扱いもしてない。」
ふわりと一也の袖の白い部分が、頬に触れた。
綿みたいな生地でできているそれは、頬を手で挟まれると、顔を覆ってしまうぐらい、ふかふかの、温かいものだった。
外では、一層雪が強くなって、寒さで凍えそうになる。
でもこんなに身体が熱いのは、頬に触れる手と、一也に対する思いが強いせい。
それから、2度目のキスのせい。
「俺も欲しいもの言っていい?」
「サンタクロースもプレゼント欲しいの?」
「うん。欲しいよ。」
「何?俺の家にある?あっ、母さんの料理とか…。」
柊だよ、なんて、信じられないぐらい恥ずかしい台詞を耳元で言われて、もう1度だけ、キスをした。
触れるぐらいのを、長い間して、凄くドキドキした。
好きな人とキスするって、こんなにドキドキするんだ…。
「また後で来るから。」
「えっ…。」
このままずっと触れていたかったけど。
困ったような顔をして、一也が離れる。
キスに夢中で、忘れてしまってたけど、一也は仕事だったんだ。
「頑張って早く終わらせるから、待っててな。」
「うん、頑張ってね。遅くなってもいいよ、俺、待ってるよ。」
よかった、と呟いて、今度は頬に軽くキスをして、一也は行ってしまった。
トナカイマシーン…、よく見たらカッコいいかも。
ちょうどそのソリの後ろのところから、星屑が出ている。
よく絵本とかにある、絵の中のソリそのものだ。
一也がまた来るのを、さっきとはまったく逆に、楽しみに待った。