時間なんて、同じ刻みで動いているのに、その時によって長さが違うように感じるのは、どうしてなんだろう。
一也が行った後は長く感じて、朝までは凄く短かった。
ほとんど眠ることができずに、クリスマス・イブの朝を迎えた。
「眠い…。」
ボソリとそんな言葉を無意識に呟きながら、布団からなんとか出る。
今年のクリスマスは、11年だかそれぐらい振りに、休日に当たった。
本当に、運がいいのか悪いのか、わからない。
「あら柊、すごい顔。」
「えっ!すごい顔?何が?」
「目の下、それクマじゃないの?こんな遅くまで寝てたくせに、変な子ねぇ。」
「変で悪かったね…。」
時計を見ると、10時ちょっと過ぎを指している。
母さんにとってはこの時間でも遅いんだもんなぁ…。
別に学校がないんだから、いいじゃないか。
それに、昨日のことでちっとも眠れなかったんだから、仕方のないことで…でもそんなこと言えるわけもなくて。
結局気持ちはすっきりしないまま、眠れなかった時間はなんのためだったんだろうと考える。
「一也くん呼んで来てくれる?お茶煎れるから。」
「母さん!いいよ、なんであいつにそんな…。」
「なんであんたが言うのよ…。昨日遅くまで電気点いてたし、疲れてるみたいだし、いいじゃない。」
「う~、だって…。」
今顔合わせたら、どんな顔していいのかわかんないんだ…。
避けるのも失礼だし、かと言って何事もなかったようにはできないし。
一也にとっては大したことじゃないかもしれない。
でも、初めてのキスだったんだ…。
やっぱりあれは嘘だったのかな…。
俺をからかうためとか、サンタクロース信じなかった罰とか。
それにしたって質が悪いよこんなの。
俺ばっかりこんなに悩んで、バカみたい。
「じゃあ母さん呼んでくるからいいわ。」
「あ…。」
黙ってご飯を食べる俺に、母さんは行く気がないものと判断して、自分からダイニングを出て呼びに行ってしまった。
そういえば忙しいって言ってた…。
今日はクリスマス・イブだから、今日に届けるようなものがいっぱいあるってこと??
それってサンタクロースも同じだ…。
そんなことあるわけない、そう思っても、一也が嘘言うなんて嫌だ。
でもどうやって信じればいい??
俺にはわからないから、一也が教えてくれればいいのに。
「あーあ、残念、忙しいんだって。」
「ふーん…。」
数分して、母さんは一人で帰って来た。
本当に忙しいんだ…。
でも、それは嘘で、俺と顔合わせたくないから、だったらどうする?
ちょっと前は顔合わせられないって思ってたのに、俺って、やっぱり一也の言う通り、子供なんだ…。
休日だと言うのに、父さんは仕事が忙しくて帰って来れなかった。
前から聞いてたから、別にいいけど。
それに、父さんとクリスマスを一緒に過ごした記憶があんまりないから、別に今更いなくてもなんとも思わない。
母さんと二人でクリスマスをやった記憶もない。
だから俺、クリスマスに対してもなんとも思わなかったのかな…。
楽しいっていうこと、味わったことがないから。
でも寂しいわけでもない。
それが普通だと思ってるから。
特にすることもなく、日も暮れて、住宅地ではチラホラと明かりが灯り始める。
いつもは普通の蛍光灯だけど、クリスマスは、赤や緑や、他にも色んな色のライトが、庭や部屋から漏れている。
やっぱりうちは何をするわけでもなくて、普通に晩ご飯を食べて、普通に自分の部屋で寛いでいる。
いつもと何も変わらない、クリスマス・イブだ。
ベッドに寝転がって、音楽をかけてぼうっとしていた。
窓の外の暗闇に、ちらほらと白いものが舞っている。
「…あ。雪。」
この間の雪はまだ地面にちょっとだけ残っていた。
その後何日かはまったく降らなくて、今になってまた降り始めている。
積もらないといいな…、寒いのは嫌だから。
でもきっと一也は、喜んで庭から声を掛けるんだろうな…。
「おーい。」
コンコン、と窓を叩く音と同時に、たった今考えていた人物の声が聞こえた。
まさか…、まさかまた窓から…?!
まさか本当にサンタクロースっだっていうの…?!
ドキドキしながら、その窓を開けようと、鍵に手を掛ける。