「柊ーいるかー?」
「柊ー?」
恋だと気付いてしまうと、もうそれしかないんだ、と断定的になる。
今までは普通に接してたのもできなくなる。
恥ずかしくて、気まずくて。
もちろんそうなってしまっているのは自分だけだから、尚更どうしていいのかわからない。
一也が声を掛けたり2階の部屋に向かって呼んだりしているのに、何度かいない振りや聞こえなかった振りをしてしまった。
このままじゃ、いけないっているのはわかっているんだ…。
「どうしよ…。」
窓際にある机に伏せて、そんなことばかり考える。
学校が休みでこれほど困ったことはなかった。
寒くてもいいから、ここから逃げたい…。
「どうしよう…。」
「何が?」
「だからかず……!!な、何やってんの!!」
「やっぱりいたんだな。」
悩みながら独り言を呟いていると、なぜか会話になっている。
びっくりして窓のほうを見ると、そこには一也がいて、窓まで開けてるし。
…っていうか俺、窓の鍵、閉めてた…よね…。
「冷たくするなよ。」
「い、いいから早く入ってよ!落ちちゃうよっ!」
「そうか?悪いなー。」
「だって落ちて死んじゃったらどうするのっ!」
一也がいなくなっちゃたら…。
そんなこと、考えたくないけど、ここは2階なんだ。
万が一ってことだってある。
もう…、心臓が止まるかと思った…。
「心配してくれるんだ?」
「あ、当たり前だよ。」
「なんだ、嫌われてたんじゃなかったのか。安心したな。」
「えっ。」
やっぱり避けてるの、気付かれてたんだ。
どうしよう…気まずい上に一也目の前にしたら、ドキドキして顔合わせられないよ…。
好きだって気付かれたら、俺のほうこそ避けられて、絶対嫌われる。
でも、それだけのために一也、こんなところまで…。
勘違いしちゃったらどうするの…?
「大丈夫だよ、俺、サンタクロースだから。」
「……え?」
今、一也なんて言った…??
オレ、サンタクロースダカラ??
サンタクロースって、あのサンタクロース??
俺、なんか考え過ぎて夢でも見てるんじゃ…。
「まだひよっこだけどな。高いところは慣れてるし。あ、窓の鍵もな。最近の家は煙突ないし。」
「何言ってるの…?」
「あー、信じてないだろー?」
「…うん。」
半分放心状態で、一也の言葉を聞いていた。
頬を自分の指でつねってみると、痛くて、どうやら夢ではないことはわかったけど。
だけど一也の言っていることは夢のようなことで。
そんな話は、到底本当のことなんて思えない。
「あ、でも内緒な。一応バレるとマズいんだ。」
一也はまた子供みたいに笑いながら、俺の口元に指を当てた。
俺より長くて男っぽい指…。
その肌の温度が、ますますこの心臓に悪い。
「俺にはバラしていいの…?」
信じてなんかいないけど。
あんなにサンタクロースいないって否定したからか、内緒なんて言いながら教えてくれたことがなぜか嬉しくなってしまった。
二人だけの、秘密みたいな感じで。
「うん、俺、柊が大好きだから。」
「大好きって…。何それ、変だよ。」
「そう?こっちも本当だけど。」
「本当って………。」
頬を一也の両手が優しく挟んだ。
顔が熱くて、きっと真っ赤になってると思う。
心臓なんか今にも破裂しそうなぐらい。
だってそんなこと本当だって言われたら、きっと俺、誤解しちゃう。
自分のいいように誤解しちゃうよ…。
「柊、大好きだよ。」
「え、何、一也…?かず……っ。」
一瞬何が起きているのかわからなかった。
あんまり一也の顔が近くなって恥ずかしくて、ぎゅっと目を閉じた。
目を閉じていてもわかったのは、唇に何かが触れているということ。
したことがなくても、それはキスだってわかった。
「考えた?プレゼント、何欲しいか。」
「…ううん……。」
「ダメだろー?明日だぞ、イブは。」
「…うん……。」
唇が離れるのを感じて、やっと目を開けた。
何を言われてもうん、とううん、しか答えられない。
一也はいたって普通っぽくて、サンタクロースの話より、今のキスのほうが夢みたいだった。
「明日までには決まるか?」
「わかんないよ…。」
「ダメ、決めなさい。」
「わかんないけど…。」
わかんないっていうのは、プレゼントのことと、あとは一也のこと。
大好きって言ったのは、どういう意味なのか。
本当だって言って、キスしたことも。
避けてた時より、もっと気まずくなったらどうしよう。
「また明日、夜来るから。」
「うん…。」
明日は、クリスマス・イブ。
一也が楽しみにしていた日だ。
サンタクロースだって言うなら、あの格好をしてくるのかな…。
信じてるわけじゃないけど、信じたい自分もいる。
一也は嘘なんか言わない人だって思いたい。
大好きだっていうのも、本当だって思いたい。
一也が行ってしまった後、さっきよりももっとモヤモヤしてしまっていた。