「う…ふぇ…っ、隼人…ずっと忙しかったから…っ。」
「え…?」
「疲れてるみたいだったから…っ、俺…元気になって欲しくて…っ、楽しいことしようと思って…っ。」
「志摩…?」
「でも嘘吐いたの怒ってるから…ごめんなさいなの…っ。」
「志摩……。」
志摩は途切れ途切れになりながら、嘘を吐いた理由を白状した。
確かに年度末ということもあって、俺はこのところ忙しくて、疲れていた。
鈍感な志摩が見破ってしまうほど、俺は表情に出してしまっていたのだろう。
だけどあれだけ寂しがりやで甘ったれな志摩は、自分の思いを我慢してまで、俺のことを考えていたのだ。
俺はこの時になってようやく罪悪感でいっぱいになり、床に崩れ落ちて座り込む志摩を、ぎゅっと抱き締めた。
「隼人…?」
「その…ごめん…。」
「あ、あの…うんと、えっと、大丈夫です…。」
「ぶ……何がだよ…。」
嘘を白状して安心したのか、腕の中にはいつもの志摩がいた。
えへへと照れたように笑いながら、意味不明なことを言っている志摩だ。
しかし俺がした悪戯は、思った以上に効いてしまっていたみたいだった。
「でもあの…、も、もうぎゅーはいいです…っ。」
「……?」
「ご、ご飯にしなきゃ…ダメなのです…っ。」
「志摩…?」
いつもならもっともっとと甘えてくるはずの志摩が、俺から身体を離そうとしている。
こんなことは初めてというぐらいで、俺も最初はその行動に疑問を感じた。
もしかして俺のことを嫌になったんじゃないか…一瞬そう思ったけれど、そうではないことはすぐにわかった。
「志摩…興奮しちゃったのか…?」
「ちっ、ちが…っ!違いま…っ!」
「じゃあそれ…、何でそこ…押さえてるんだ?」
「こ…これはその…うにょうにょ…。」
志摩は下半身を押さえて、俺から見えないように隠していた。
一度放ったはいいものの、止まらなかったのだろう。
どう誤魔化したって誤魔化しようがないのに、無駄なことをする志摩は、やっぱりバカだ。
「その…何?」
「わっひゃあ!!は、隼人何す…や、やだ…っ!」
もぞもぞとしている志摩の手を退けて、無理矢理服を捲り上げると、そこには放つ前と変わらない状態のものがあった。
それどころか、もっと触れて欲しくて、前よりも酷い状態になって疼いているように見える。
「大丈夫…じゃないよな…?」
「う……。」
「志摩?大丈夫なのか…?そのままで…。」
「うぅ……ふえぇ…。」
志摩は再び服の裾でそこを隠しているけれど、そんなことをしても今更だ。
何をどうやっても治まるはずがないことは、志摩自身も、俺もよく知っていた。
知ってはいたけれど、俺はただ、志摩が俺にお願いするのを、その先を強請る言葉を聞きたくて仕方がなかった。
「う…大丈夫……じゃない…です…。」
離れてしまった志摩がもう一度俺にしがみ付き、小さな声で囁いた。
顔を真っ赤にしながら涙を溢れさせて、続きを強請ったのだ。
俺はそれ以上からかうことはせずに、志摩を抱いたまま床に押し倒した。
「隼人…っ、も…ダメぇっ!…ちゃうっ、いっちゃう……!!」
その後の俺達は、時間も場所も忘れて、ひたすらセックスに没頭した。
何度も達して意識が飛びそうになっても、止まることを知らないみたいに、夢中になった。
寂しかったのは志摩だけではない。
触れて欲しかったのは、触れたかったのは、志摩だけではない。
お互いその寂しさを誤魔化しながら過ごしていたけれど、そろそろ限界が来ていたのだろう。
志摩が吐いた嘘は、そのことに気付かせるためのきっかけだったのかもしれない。
「あっ、ご飯…!隼人、お腹すきました…。」
「色気のないこと言うなよ…。」
「だってぇー…。だってね、今日はエイプリルフールのお祝いなんだよ?俺、頑張ってご馳走作ったんだもんー…。」
「お祝いってな…。」
日付けが変わった頃になって、ぐったりと横たわったまま、志摩が思い出したように言った。
クリスマスや正月は今までにもあったからまだしも、エイプリルフールでお祝いだのご馳走だのというのは、聞いたことがない。
それでもきっと、志摩は何かをやりたかったんだろう。
疲れている俺が元気になればと、俺のために何かしたかったのだろう。
「隼人、いつまで忙しいのですか…?」
「え…?」
「あっ!ご、ごめんなさい!お仕事なのに俺…我儘言っちゃって…。」
「いつまでって…今日は普通に帰って来ただろ?」
「……へ?あ、あれー?」
「忙しかったのは年度末だったからだ。まぁ4月も忙しくないわけじゃないけど…。」
「なぁんだ!そうなの?!ホントに?」
「そんなことで嘘なんか吐くわけないだろ…。」
そんなことは我儘には入らない。
俺は志摩が寂しくて帰って来てくれと言うなら、仕事を放り出して帰って来たい気持ちでいるんだから。
こんな小さなことで、そんな風に笑ってくれるなら、他には何もいらないと思っているんだから。
「じゃあ隼人お帰りなさいのお祝いにしよー?」
「何だそれ…。」
いつも帰って来ているだろう?
そう突っ込もうとしたけれど、志摩があんまりにも楽しそうだったから、やめておいた。
「えへへー、隼人、お帰りなさいっ!」
「あぁ、ただいま…。」
よろけながらもしっかりとしがみ付いてくる志摩を愛しく思う気持ちでいっぱいになりながら、俺はご馳走達が待つ台所へ向かった。
そこには志摩が俺のためにと長い時間をかけて作った料理が、テーブルに溢れんばかりに並んでいた。
END.