「お、俺っ、ホントは猫なのですっ!!」
陽射しも暖かになり桜が咲き始める季節、4月という新たな年度の始まりの日のことだった。
残業続きだった俺が久し振りに定時に仕事を終えて帰宅すると、志摩が走って玄関まで出迎えに来た。
「………。」
「あっ、信じてないんでしょ!ホントなんだよー?」
隼人に隠してたことがあるの…と、もじもじしながら何を言い出すかと思えば…。
出会って一番最初にもそんなことを言って、嘘だということが判明しているのに、また同じ嘘が通用するとでも思っているのだろうか。
おまけにそわそわして落ち着かない様子が丸わかりだし…。
今日がエイプリルフールだということは知っていたものの、まさかそんな嘘を吐かれるとは思ってもいなかった。
「そうか…。」
「ね?ね?驚いた?びっくりでしょ?」
「いや…まぁ…。」
「えー?!驚かないのですかー?!」
驚くも何も…嘘だとわかっているのに、どういう反応をすればいいと言うのだろう。
志摩は俺に、何を望んでそんな嘘を吐いたんだ?
俺が「ホントか?」なんて言って、焦るところを見たかったのだろうか…。
「あー…えぇと…。」
「ご、ご飯準備します…。」
俺はまだ、こういう時にどうしていいかわからなくなることが多い。
俺と志摩とでは性格が違い過ぎて、志摩がどうして欲しいのかわからないのだ。
しゅんとしてキッチンへ戻ろうとする志摩を見て、初めて罪悪感を覚えるぐらいなのだから。
「志摩…。」
そんな罪悪感と共に俺の中に芽生えたのは、またしても悪戯心だった。
俺はいつも、志摩がバカなのをいいことに、志摩の言動を利用して、何かしてやろうと思いついてしまうのだ。
志摩のバカに付き合ってやればいいのに、一緒になってバカをやってやればいいのに、まったく逆のことをしようとするなんて…バカなのは俺の方だ。
しかし志摩の後ろ姿を見て、視線が身体のラインをなぞると、「これではいつ嫌われるかわからない」という不安もどこかへ消えてしまった。
気が付いた時には、俺は志摩の腕を引っ張って引き止めていた。
「隼人…?どうしたの?」
「猫なんだよな…?」
「あ…、は、はいっ!志摩は猫ですっ!今はねー、隼人とラブラブになったから人間の姿に……わぁっ!」
「おかしいな…。」
春になって暖かくなったせいか、志摩は短い丈のズボンを穿いていた。
細い腿のせいでぶかぶかになった裾から手を突っ込むと、びくりと身体を震わせた。
「あ…あのっ、隼人…っ?」
「尻尾は?」
「ほぇ?」
「猫なんだろ?尻尾はどこに行ったんだ?」
ズボンの中で手を動かしてみても、そんなものは見つかるはずがない。
志摩が猫だということは明らかに嘘で、尻尾なんてものは絶対にあるわけがないのだ。
俺はそれをわかっていながら、志摩の嘘を利用して、その身体に触れようと思ったのだ。
「し…尻尾はその……っ、わぁ…っ!」
「本当に猫なのかどうか、確かめたいんだけど…。」
「そ…れは…っ、あ……!」
「猫なら尻尾があるはずだよな…?」
志摩の柔らかな肌に触れるのは、久し振りだった。
指先を撥ね退けるような弾力性を持つ肌は、何度触れても飽きることなんてない。
志摩の口からは次第に荒くなっていく息づかいと共に、甘くて高い声が洩れ始めた。
「は…やとっ、あ……!ん……っ!」
「おかしいな…どこにもない…。」
「尻尾は…っ、な…いの…っ!」
「どうしてだ?猫なんだろ?」
「う…ふぇ……違…っ。」
「志摩…これは…?」
ずるりとズボンを下ろされ、下着まで脱がせられた志摩は、下半身が露になってしまった。
壁に手をついて背中を向けているけれど、見えない部分がどうなっているかなんて、容易に想像がつく。
俺は後ろから手を伸ばして、変化を遂げているであろう部分を、ぎゅっと握った。
「わぁ…っ!は、隼人…っ!あ…、ん……!」
「変だな…、志摩はこんなところに尻尾があるのか…?」
「や…っ!違いま……ぁんっ!」
「違う?じゃあこれは何だ…?尻尾じゃないなら何だ…?志摩…。」
俺が触れる度に、志摩のそこは角度を変えていった。
先端から滲み出る液体は量を増し、気が付けばぐちゃぐちゃに俺の手を濡らしてしまっている。
言い訳をしようにも、志摩の口から洩れるのは、ほとんど喘ぎ声だけだ。
「ごめ…なさ…っ、…そで……っ!あ……!」
「聞こえない。」
「ごめんなさい…っ、嘘…でした…っ!隼人っ、俺…嘘吐きまし…っ、や…もうダメぇ…っ!」
「嘘…?」
「エイプリルフール…っ、今日っ、あっ!やぁ…っ、隼人っ、も…いっちゃ…う…っ!」
「志摩はえっちなだな…。えっちな上に嘘吐きなのか…。」
志摩の膝はがくがくと震え、触れた部分は今にも爆発してしまいそうだった。
涙目になって振り向いて、この先を願っている。
俺はこんな志摩の顔が好きだ。
俺だけに見せる、泣き顔が好きだ。
恋人以外には見ることが出来ない、セックスの時の志摩の顔が大好きだ。
変態だの意地悪だの何だのと、責められてもいい。
この顔を見ることが出来るのなら、俺はどんな叱責も罵倒も恐くない。
「やああぁっ!ダメぇっ!隼人っ、い…く……っ!!」
耳元で熱い息を吹きかけながら手の動きを速めると、志摩は一気に絶頂へと駆け上がった。
そして数秒もしないうち、床にはびしゃりと勢いよく白濁液が放たれた。