「うっうっう…隼人~…。隼人~…うえっえっ…。」
翌日になって俺は、志摩がめそめそと泣いている声で目を覚ました。
昨晩以上に目を真っ赤に腫らした志摩が、ベッドの上で身体を丸くして泣いていた。
「志摩…その…ごめん…。」
情けないことに、俺は謝ることしか出来なかった。
志摩がこんな風に顔を歪めているのは、すべて俺のせいだから。
毎回こういうことをする度に反省をして謝るものの、未だにその後に生かされたことはない。
志摩には申し訳ないけれど、多分この先も直ることはないだろう。
「謝らなくていいの…隼人のせいじゃないもん…。」
「でも…。」
「お、俺もその…い、いっぱい頑張っちゃったから…。」
「が、頑張ったってな…。」
「そ、そういう意味じゃなくって…!あっ、そうじゃないわけじゃないけど…!や、やぁー!恥ずかしいよー!」
「………。」
恥ずかしいのはこっちの方だ。
朝からそんなことを言われて、早速無茶をしたくなってしまうじゃないか。
さすがにこんな状態の志摩を目の前にして実行はしないけれど、俺は再び燃え上がる欲望を抑えるのに必死だ。
「あの…、隼人、バッグの中から青い袋取って下さい…。」
「青い袋?これか…?」
「はい、それです…。」
「……?」
志摩は何とか起き上がろうとしていたけれど、なかなか上手く身体が動かなかった。
俺は志摩の痛みが増幅しないように気を付けながら、そっと肌に触れて助けてやる。
「これ、隼人にです…。」
「え……?」
「隼人にプレゼントだよ?クリスマスの。」
「あぁ…ありがとう…。」
「あのね、隼人いつも帰って来ると手が冷たくなってるから…。」
「手…?」
自分では気にしたことなんてなかったけれど、志摩はそんな小さなことにも気が付いていたのだ。
さり気ない優しさに感動を覚えながら袋を開けると、やっぱり志摩らしいことをしてくれたことに、俺は何とか笑いを堪えた。
「これを…俺にはめろって言うのか…?」
「あの、それが一番あったかそうだったから…。」
「確かにあったかいかもしれないけど…。」
「う……。」
それは毛糸で出来た、人差し指から小指が繋がっているタイプの…カニのはさみみたいな、女や子供が好んでするような手袋だった。
おまけによく見ると可愛らしい雪だるまの絵柄になっていて、とてもじゃないけれど成人した男がはめるような手袋ではなかった。
「あっ、じゃ、じゃあ今日ここ出たら買いに…!一緒に買いに行こー?隼人の欲しいもの選んで!」
「いい、いらない。」
「がーん…!ど、どうしてですか…!隼人、プレゼント欲しくないの?!」
「欲しくないと言うか…。」
買いに行こうだなんて、その身体で行けもしないのに無理なんかして…。
志摩が形ある物にこだわるのは知っているけれど、それだけがプレゼントではない。
俺はもう、志摩がくれた形のない物に、十分過ぎるぐらい満足している。
「志摩が一緒にいてくれたらそれでいい…。」
こういう特別な日も、何もない普通の日も、俺にとっては志摩がいてくれればそれでいい。
それ以上望むものなんて何もない。
ベッドの中で丸まって落ち込んでいる志摩を後ろから抱き締めると、振り向いた志摩がぎゅっとしがみ付いて来た。
「えへへー、俺もー。俺も隼人がいればいいー。何もいらないです!」
「こんな豪華なホテルに泊まっておいてか?」
「う……そ、それはその…ごにょごにょ…は、半分…。」
「半分?何?」
「は…半分お金出しま…。」
「お金?どこから出すんだ?」
俺は志摩が好きだ。
志摩に意地悪をするのが好きだ。
志摩が困って慌てている姿を見るのが好きだ。
他人からすれば悪趣味かもしれないけれど、これだけはやめられそうにない。
だけどそれが逆に、志摩がとんでもないことを口走って自分の方が参ってしまうことが多々あることを、忘れてはいけなかった。
「ごめんなさいっ!お、お金ないから身体で返しますっ!!」
「ぶ……!」
「あのっ、隼人の言うこと何でも聞く!何でもしてあげる!隼人、どうしたの?隼人っ、大丈夫?」
「いや…その……。」
志摩がそういう…いやらしい意味で言っているのではないとわかっていても、俺の中では見事にそういう方向に行ってしまった。
何でもしてあげると言うなら何をしてもらおうか…なんて考えが止まらなくなった時には、志摩の顔をまともに見れなくなってしまっていた。
「隼人、大丈夫ですかー?」
「いや…大丈夫…じゃないかも…。」
「ええぇっ!ど、どうしたの?どこか悪いの?!隼人、隼人大丈夫?!」
「………。」
全部お前のせいだ、そう言ってやりたかったけれど、俺は志摩を責めることが出来なかった。
クラクラと眩暈を起こしてしまった俺の背中に志摩がしがみ付いて、その体温を感じると余計に興奮してしまって、欲望を抑えるので精一杯だったから。
そんな俺をよそに志摩はぴったりとくっ付いたまま、心配そうに何度も俺の名前を呼んでいた。
END.