「ん………。」
気が付いた時には、部屋の中が明るくなっていた。
カーテンの隙間から差し込む朝の光で目を覚ますと、横にはよれよれになった志摩が眠っている。
たった一回で果ててしまった俺だったけれど、そこはもちろん、それで満足するわけがなかった。
正気に戻っては志摩の中へ入って、気が付いた頃には空が薄明るくなっていたところまでは覚えていた。
「…く……。」
今まで志摩が立てなくなることは多々あったけれど、俺までこんな状態になったのはほとんどなかった。
立ち上がろうとしても身体が思うように動かず、下半身の感覚がおかしい。
揺さ振り続けた腰には鈍痛が走り、とてつもなく情けないことになっていた。
「…んー……?隼人…?」
「志摩…。」
「あー…隼人ー…、隼人だー…えへへーはや………んぎゃ?!」
「し、志摩……。」
薄っすらと目を開けて、隣でもぞもぞと動き始めた志摩の表情が固まったのは、すぐのことだった。
受け入れる側の志摩が俺以上にひどいことになっているのは、一目瞭然だ。
いつもの癖で抱き付いたまではいいが、産まれたての小動物のように全身をぷるぷると震わせて涙を浮かべている。
「う…うっうっ…、隼人……う……。」
「志摩…その……。」
「エビ……。」
「……は?」
「エビ展…。」
「いつでも行けるだろ…。」
そのまま泣き続けるかと思いきや、志摩の口から出た言葉に、俺は思わず妙な声を上げてしまった。
こんな時にエビ展のことなんか言っている場合でもないのに…。
見に行けなくてもいい、そう言ったのにやっぱり諦めがつかないのだろうか。
それはそれで志摩に付き合ってやろう、そう思いかけた瞬間、俺は激しい後悔に襲われた。
「う……でも…今日までなの……。」
「え……。」
「最後の日だからって言えば隼人が行ってくれる可能性も大きくなるかと思って……。」
「………。」
バカ、なんでそれを昨日のうちに言わないんだよ。
それなら少しは加減してやったかもしれないのに…。
これじゃあやっぱり俺が完全なる悪者みたいじゃないか…。
いや、悪者なんだよな…。
たとえ知っていたとしても、加減なんか出来る自信はなかった。
「…そんなに……。」
「ほぇ…?隼人…?」
「志摩は…そんなにエビが好きなのか…?」
「え……?あ、あのー……?」
俺がどうでもよくなったみたいに、志摩もどうでもよくなるぐらい俺に夢中になればいいのに。
そんな展示なんて一生見れなくていい、そこまで極端に俺だけを好きになればいいのに。
俺の中の醜い心はせっかく生まれた後悔の念を食べ尽くし、みるみるうちに膨らんで支配してしまった。
「そんな……。」
「あの…隼人…、もしかして…やきもちですか…?」
「今更寝惚けたこと言うなよ…。」
「え……!あの、あの…じゃあホントにやきもち…?隼人拗ねてるの…?」
こういう時だけどうして頭の回転が速いんだ…。
その速さを普段どうして出せないんだ…。
言いたいことはたくさんあるのに、本音を言い当てられると、俺は何も言えなくなってしまった。
「べ、別に拗ねてるわけじゃない…。」
「えへへー、隼人ー!隼人、隼人ー!」
「何デレデレ笑ってるんだ…。」
「えー…?デレデレしたいー!隼人、デレデレしよー?」
志摩は相変わらずバカだ。
言っていることもどこかズレているし、幼くてとても年相応には思えない。
そんな志摩と一緒にいるうちに、俺までバカになってしまったみたいだ。
「バカ……。」
「えへへ、隼人とデレデレー…ラブラブだねー?」
だけどそれでもいい。
二人でバカをやって幸せに生きていけるなら、それはそれでいい。
だってこんなにも志摩が笑ってくれて、俺までつられて笑いたい気分なんだから。
END.
■カウント170000番…みーこ様リクエスト
novels 2(魔法シリーズ)の隼人と志摩がお互い勘違いですれ違ってしまう話、ということでした。
志摩と隼人の嫉妬や大喧嘩…でも最後は仲直り、までは何とか書けたかな…と思っていたのですが、調子に乗って頼まれてもいない仲直り後のエッチ☆(何このゴキゲンな☆マーク…)まで書いてしまいました。
しかも隼人の言動もエスカレートしています…。
少々(どころかかなり)ズレてしまいましたが、よければまたリクエストして下さい。
この度はありがとうございました!