諦めるって言うからその日は付き合ったのに、
無理だ、なんて言われてキスまで奪われて、挙句の果てに言われたことが、
『諦めるかも、って言ったんだ。』
なんて言いやがって、あれから追いかけられる毎日が続いていた。
放課後になると校門で待ってるし、デートのために教えた携帯にも電話はしてくるわ、メールはしてくるわ…。
だけど番号やアドレスを変えたりはできなかった。
なんだかそれは非情で可哀想な気がしたからだ。
「章吾、また今日もデートか?」
「いや、まぁその…。」
「俺は悲しいよ、友達がホモになったなんてな。」
「ななな、なってねーよ!」
「いや、悲しいなんて嘘だ、いいんだ、幸せになれよ。」
「ちょ…違うってコラっ、誤解すんなって!!」
友人達には毎日こう言われる始末だ。
あーあ…、俺の平凡な毎日はどこへ行ってしまったんだ…。
もう帰って来ないのかよー…。
『テストで悪い点取った。今日会えない。』
ちょうどよく…、いや、都合悪く、勇二郎からメールが入った。
テスト…??今ってテストなんかある時期だっけ…。
ミニテストみたいなもんか?
その俺の小さな疑問は、色々と今までにもあった。
毎日迎えに来るのが、学校が終わった後なのに勇二郎は私服なのだ。
それから、俺と会ったバス、それに乗っているのをこうなってから見たことがない。
強引なクセに恋愛にはまるで慣れていなくて、時々変なことを言ったりする。
ちゅーの次に何するか知ってるか、なんて、今時小学生でも知ってるだろ。
俺をバカにしてんのか、とも思った。
襲われるのが恐くて、その時は疑問とかいう場合じゃなかったけど。
『わかった。じゃあまた今度な。』
…今度って!!
俺、なんて返事打ってるんだ…、今度も会う気なのかよ…。
つーか俺、まさかあいつが好きなんじゃないよな??
それはないだろ、だってあいつ男だぜ?いくらなんでもそんなこと…。
「章吾、顔赤いぞお前。」
「えっ、おおお俺が??どこが??」
「顔だって言ってるだろ。」
「そ、そんなこと…!!」
そうだよ、なんで俺が勇二郎のことで顔赤らめなきゃなんないんだよ!!
だけどこの心臓の速さはなんだ??
もしかして、本当に好きなのか?俺!!!
その後も胸の中で自問自答を繰り返した。
結局答えは見つかったような見つからなかったような…。
モヤモヤした気分で、家に帰ろうと、学校からいつものバスに乗った。
勇二郎に会えば答えがわかるんだろうか…。
あいつ、今頃何やってんだろ…。
テスト、追試でもやらされてんのか?
俺と会わなくて平気なのか?
毎日会っては好きだから付き合ってくれだの言って。
これから毎日会いにくるから好きになれ、とか勝手なこと言って。
だったら何がなんでも今日会いに来ればいいだろ…。
「…げ。」
俺、今何考えてた??
あいつのせいにして、自分が寂しいようなこと…。
まるで俺があいつに会いたがってるみたいじゃないかよ。
溜め息を吐きながら、つり革を握り直した時だった。
「勇ちゃんめずらしいね、居残りなんて。」
「うん。」
「いつもは点数いいのにね。」
「漢字がちょっとダメだった。」
聞き覚えのある、どころか、毎日聞いているその声が、耳に飛び込んで来た。
だけど一緒にいる奴の声がいやに幼いような…。
か、漢字がダメってなんだ??
勇ちゃん、と何度も言う呼び名で、それが勇二郎だと確信できた俺は、
カーブを曲がる手前で、その声の方向に振り向いた。
「あー、勇二郎、今帰りか?」
今帰り、なんてわかってることなのに、わざとらしいよな、俺も。
素直に気付いてた、って言えばいいの……え。
「あ…、あ、章吾…!あの…。」
「ゆゆゆ勇二郎お前…っ!」
「勇ちゃんのお兄さん?」
「いや俺は違…、じゃなくてそれなんだ!!」
「これはその…。」
お前のいつもの私服の背中に背負ってるそれ!!!
黒くて、固いその鞄だよ!!
「それ…ランドセルだよな…。」
その後バスがカーブを曲がったのに耐えられないぐらい動揺していた俺は、つり革から手が離れ、見事にバス車内に転がってしまった。
嘘だろ…、勇二郎が…、小学生だったなんて!!!