「亮平くーん、シロここ?入っていいですか?あれ?どうしたの二人で…。」
「うわっ!シマたん…!!こ、これは何でもねぇ…なっ、水島っ!」
「え…あ……はい…。」
「変なのー。ねーねーシロはー?」
「あっ、えーとシロはそのー…今眠ってるから…。」
「も…もう帰るぞ志摩、邪魔しちゃ悪いだろ…?」
志摩が寝室のドアを開けようとして、確認のために戻って来た。
俺達が揉み合っているのを見た志摩が余計不審に思ってしまったら大変だ。
何とか誤魔化そうとしている俺に水島も加勢して、志摩を連れて帰ろうとする。
「でも……。」
「シ、シマたんが来てくれたことは伝えておくから…な?」
「うーん…でも俺シロが…。」
「た、多分待っててもシロは起きないと思うから…!」
考え込んでしまった志摩を目の前にして、俺はしどろもどろになってしまった。
志摩もシロ同様純粋で無知だから、何だか嘘を吐くのが申し訳ないと思ったのだ。
しかも志摩はシロを心配してくれているんだ、大丈夫だと思わせたいのは当然だ。
「でもあの……。」
「し…、志摩っ!」
本当のことを言おうかどうしようか…。
いや、本当のことは言わなくても、シロの様子を見に行って起きれるようだったら起こそうか…。
俺が迷いに迷っていると、その空気を切るかのような鋭い声が部屋に響いた。
「ひゃあっ!は、はいっ!!」
「でもも何もないだろっ、シロは寝てるんだから待っててもダメだって言ってるだろ!」
「み、水島…落ち着けよ…!」
「ご、ごめんなさい亮平くん…っ、俺…勝手なことして…うっ、えっえっ…。」
「ほら、もう帰るぞ…。あぁ鼻水が…まったくもう…。」
「シ…シマたん、ごめんな?せっかく来てくれたのに…。そ、そんな泣かないでくれよ…。つぅかお前もそんな怒るなよ、可哀想だろうが…。」
水島という奴は、時々よくわからない。
普段は大きな声をあげないのに、こういう時になると志摩を怒鳴りつけるのだ。
冷静な水島がそうなってしまうと俺も口を出せなくなってしまう。
何もそこまで怒らなくてもいいのに…と、志摩が可哀想になるぐらいだ。
「あっ、そうだ…これ…。」
「ん?どうしたシマたん?」
「うんと、シロに元気になってもらおうと思ってご飯いっぱい持って来ました…!二人で食べて下さい…!」
「お~、そうかそうか!ありがとうな。」
志摩が持っていた袋には、大きなタッパがいくつか入っていた。
ちょうど腹も減っていたし、昨日の肉じゃがと一緒に食べればいい。
俺は有り難くそれを受け取って、志摩に礼を言った。
「お、お邪魔しました…。あの、亮平くん、ごめんなさい…。」
「あーもういいって…、そんな落ち込んだ顔すんなよ、な?」
「藤代さん…ちょっと…。」
「あ?何だよ…。」
何とかこの場を乗り切った俺は、志摩と水島を玄関まで送った。
しゅんとした顔で志摩がお辞儀をしている隣で、水島がそわそわと落ち着かない様子で声を掛けて来た。
「その…くれぐれもお互い内緒ってことでお願いします…。」
「ぶ……!!」
俺は水島が耳打ちして来たことに、思わず吹き出してしまった。
志摩に怪しまれるといけないからとすぐに二人は玄関を後にしたが、俺は一人で腹を抱えて笑ってしまった。
なるほど…あんな風に怒ったのは、ムキになっていたということだったのか…。
俺が志摩に本当のことを話して、自分のことがバレるのが嫌だったというわけだ。
ひねくれ者の水島らしいやり方が余りにもツボに入ってしまって、笑いが止まらなくなってしまった。
「亮平~…。」
「え…?シロ……?シロ、起きてたのか?」
「うん…今起きた…。誰か来てたのか…?」
「あー…その、シマたんと水島が…。」
俺が床にしゃがみ込んでいると、シロがふらふらしながら寝室から出て来た。
どうやら二人が来て騒いでいた音で目が覚めてしまったらしい。
「えぇっ!シマが…?!亮平、シマが来たのかっ?!」
「あぁ、うん…でもほら、お前寝てたし…。」
「えー!シマに会いたかった~…。」
「うーん…でもそんな状態で会うのは…な…?」
志摩の名前を聞くと、シロは水を得た魚のように元気になった。
あんなにしょっちゅう電話やらメールやらしていて、おまけに会っていながらも、たかが一回会えなかったのが悔しいらしい。
「あ……。」
「ん?どうした?」
「あの…亮平…。」
「シロ…?」
服を着る気力もなかったせいで、シロは素肌の上にタオルを纏っていただけだった。
急に昨日のことを思い出したのか、その肌が全体的にピンク色に染まる。
「オレ…なんか昨日変だった…。」
「えっ!あ…あー…そ、それは…。」
「うんと…昨日亮平を待ってて…それでジュースを…。」
「シ、シロっ!腹減っただろ?ほら、シマたんがご飯持って来てくれたんだぞ?どれどれ何を持って来てくれたのかな~…?」
まずい…そんなことを突っ込まれたら、すべてが無駄になってしまう。
昨日のはジュースじゃなくて媚薬です、なんて言えるわけがない。
俺はその話題から離れようと、袋の中のタッパをごそごそと漁る。
しかし一番上にあったタッパの蓋を取って、思わず手の動きが止まってしまった。
「あ…肉じゃがだ…!」
「あ……。ははっ、被っちまったなぁ…。」
よりによって同じものを持って来るとは、シロと志摩の仲の良さの証拠なんだろうか。
鍋にたっぷりある肉じゃがと志摩の肉じゃがを足すと、到底二人で食べられる量ではない。
「そうだオレ、昨日肉じゃがを温めようとしててそれで…。」
「あー!シ、シロっ!も、もういいから…!」
「亮平?」
「き、昨日はあれだ…久し振りだったから俺も夢中になっちゃったんだよなー…?」
「そうなのか…?亮平も変だったってことなのか…?」
「そ、そうそう!だからシロも気にすんなって!な?誰でもよくあることだから…!」
「そっかぁ…。」
「そうだそうだ!ほら、美味そうだな~。おっ、唐揚げもある!」
シロは何かある度に昨日のことを聞いて来て、その度に俺はハラハラしながら誤魔化した。
確かに勝手にジュースだと誤解をして飲んでしまったのはシロだが、持って帰った俺が一番悪い。
こんなことになるなら、今度からは絶対に断ろう…俺は胸の中でそう固く決意した。
「へへっ、シマの料理オレ好きだぞ!」
「よし、じゃあ温めて食うか。」
「うんっ!食う~。」
「じゃあ向こうで待ってろ、服着れるんだったら着てろよ?風邪なんかひいたら大変だからな。」
たくさんの料理を目にしたシロはたちまちご機嫌になって、昨日のことを忘れくれたみたいだった。
俺は内心ホッとしながら志摩の料理を電子レンジで温めて、シロが待つリビングへ運んだ。
「亮平~。」
「ん?どうした?」
「スィート・ラブ・ポーションって何だ?これ英語か?オレよくわかんないんだ…。」
「……え!!」
俺はシロの言葉におそるおそる振り向くと、シロの手には昨日のあのボトルが握られていた。
せっかく誤魔化せても大元のそれを処分していないなんて、何て間抜けなことをしているんだ俺は…!!
「これ、コンビニで売ってるのか?明日買いに行って来ていいか?」
「シ…っ、シロ……!」
「新しいジュースだよな!甘くて美味しかったからまた飲みたいんだ~。」
「あー…そ、それはだな…うーん…。」
「亮平?ダメなのか?」
「あー…うーん、ダメっつーか何つーか…。」
果たして俺は今までのことを無駄にしてでもシロに本当のことを言うべきなのか。
それとも水島との協定を守って言わないべきなのか。
何も知らずにボトルに貼ってあるピンク色のいかにも~なラベルを見ているシロを目の前にして、俺は肉じゃがを持ったまま固まってしまうのだった。
END.
■カウント149000番…彩來様リクエスト
novels 2(魔法シリーズ)の亮平とシロの媚薬えっち、ということでした。
媚薬えっちというかそれを誤魔化す亮平のヘタレっぷりがメインになってしまったような気が…(冷や汗ダラダラ)
もうちょっとエロ場面を書けばよかったかなぁと、反省気味です。
この反省は次に生かしたいと思いますので…!(今頑張れよ)
リクエスト、どうもありがとうございました!