「はぁ…はぁ……りょうへ……オレ…っ。」
「シロ……。」
しかしあの液体を飲んだからには、それだけで済むはずがなかった。
ぱったりと床に倒れ込んだシロの目が、何かを言おうと必死で訴えかけている。
「どうしよ…亮平…っ、オレ変だ…っ!」
「変…?」
始めはこんなことになって困っていた俺も、シロのそんな目に見つめられると、欲望が止まらなくなってしまった。
弾けてしまった何かは俺の中で暴走をし始め、この状況を楽しんでしまっている自分がいた。
シロには申し訳ないと思いながらも、こんな機会は滅多にないと、どうせならシロと同様に夢中になってしまえばいいと思ってしまった。
「だって…っ、オレ…亮平が好きで…それでいっぱい好きで…っ。」
「うん…。」
「亮平…っ、もっと…。俺…亮平にいっぱい触って欲しい…っ。」
「え……?」
とうとうあの液体はシロの言動にまで影響を及ぼしていた。
普段は言わないような恥ずかしい誘いの台詞も、面白いぐらいにするりとシロの口から出て来る。
「オレ…亮平がいっぱい欲しくて……あ…!」
「いいよ、いっぱいしような…シロ…。」
「うん……っ!亮平…好き…っ、大好き…っ!」
「俺も大好きだよ、シロ……っ。」
こうして俺達は、久し振りに箍が外れたように一晩中セックスに溺れてしまった。
途中で何度かシロが気を失って倒れた時はここでやめようかとも思った。
だけどもう俺の方が止まらなくなってしまっていて、シロの頬を叩いて無理矢理起こした。
それもいつもなら怒ってしまうか拗ねてしまうところのシロが、起きた途端に何度も何度も強請って来た。
そして何度目かもわからないほどの絶頂を迎える頃には、窓から眩しい朝日が差し込んでいた。
「りょうへ……。」
「シ、シロ……。」
もうまともに喋ることも出来なくなったシロの隣で、俺まで一緒になって伏せていた。
朝までしたことなんて何度もあるけれど、ここまでノンストップで繰り返したことはなかったかもしれない。
シロだけでなく俺も全身が軋むように痛んで、起き上がろうとしても身体が動かない。
「オレ…もう…ダメ……。」
「うん……。」
俺はシロが目を閉じたのを確認するのがやっとだった。
その後すぐに俺も目を閉じて、二人でそのまま眠り込んでしまった。
***
深い眠りに就いてからどれほど時間が経った頃だろうか。
もうすぐ闇に沈もうとしている太陽の光を全身に浴びながら、俺は目を覚ました。
隣ではまだシロがぐっすりと眠っていて、静かに起き上がって風呂場へ向かった。
そして自分の身体を軽く流した後タオルを湿らせて、シロの身体も拭いてやった。
「ん…亮平……。」
幸せそうな顔をして…。
昨晩から朝にかけて、あんなにいやらしいことをしていたのが嘘みたいに思える。
それほどまでにシロという奴は純粋で無垢だ。
どれほどセックスを繰り返しても、汚れることを知らない処女みたいだ。
いや…男に処女と言うのもおかしい気がするが…。
「シロ…好きだよ…。」
俺はシロに大きなタオルをかけてやって、抱き上げてベッドまで運んだ。
温かい布団に寝かせて柔らかい頬にキスをすると、その気持ち良さにまた眠気がやって来る。
シロの隣でもう一眠りしようかと布団を捲った瞬間、インターフォンの電子音と大きな声が聞こえて来た。
「こんにちはーっ、志摩ですっ!シロー?亮平くんー?いますかー?」
そこで叫んだらインターフォンの意味がないだろう。
何度そう言っても志摩はいつも外で叫びながら訪ねて来る。
その頭の悪さが志摩の可愛いところでもあるけれど、こういう時は困ってしまう。
「あれー?いないのかなぁ?シローっ、亮平くーん!志摩だよー!」
志摩相手に居留守なんて使うのも気が引けるし、だからと言って本当のことを言って帰ってもらうわけにはいかない。
そんなことをしたら絶対に志摩は家に帰って水島に喋ってしまう。
そしたら俺は水島にバカにされて…そんなのは俺の小さなプライドに関わってくるというか…何か嫌だった。
「よ、よぉシマたん…。」
「あー!いたー、よかったー留守かと思っちゃったー!」
「シロは?!シロの具合は?大丈夫なのですかっ!」
「え……?」
玄関のドアを開けた瞬間、志摩はわーわーと喚きながら俺に詰め寄って来る。
シロの具合…?
どうして志摩がそんなことを言うんだ…?
俺はまだ何も言っていないはずだぞ…?
「オ、オレ心配で…!!でも具合が悪いんだから夕方まで待てって隼人が…。ねぇ隼人ー?」
「み、水島…。」
「ど、どうも…。」
何がどうなっているのかはよくわからないが、昨日の電話が絡んでいることは確かだった。
後ろに隠れていた水島が志摩に呼ばれて出て来ると、やたらと気まずそうにしている。
「シロはー?亮平くん、シロそんなに悪いの?」
「いや…悪くはねぇけど…。まぁいいや、入れよ。」
「はいっ!お邪魔しますっ!」
「何やってるんだ水島、お前も入れよ。」
俺がギロリと睨み付けたことに気付いた水島は、申し訳なさそうにして部屋の中へ入って来た。
志摩はもう頭の中がシロのことでいっぱいで、俺達のやり取りには気付いていない。
「み~ず~し~ま~…。」
「お、俺は何も言ってませんって…!」
「嘘吐け!じゃあなんでシロが具合悪いことシマたんは知ってんだよっ!」
「昨日電話の後シロがどうかしたのーっ?てしつこく聞かれたから仕方がなかったんです!」
「やっぱり言ったんじゃねぇか!!」
「違いますって…!シロが熱出して寝てる…って適当に言っただけですよ…!それを志摩がまともに信じて…。」
水島の性格から言って、俺を陥れるようなことを喋るとは思えない。
しかも相手はあの志摩だ、そんなことを話してしまえば自分がしていることだってバレるんだから。
「ふんっ、そんなカッコ付けて中身はエロ魔人のクセによ…。」
「な、何ですかそれ…!」
「シマたんは知らないんだよな~?魔法のくすりが本当は何なのか。」
「そ、それは今関係ないでしょう…?!」
仕事の帰りに真っ直ぐ来たのか、ようやく見慣れて来たスーツ姿の水島のネクタイを引っ張って脅し文句を突き付ける。
そんなきっちりした格好をしているクセに陰ではとんでもないことをしているのを、されている当人の志摩は知らない。
そんなのは不公平じゃないか…なんて逆恨みもいいところだ。