「で?どこに行くんだ?」
「章吾、行きたいとこあるか?」
「いや、別に…。決めていいよ。」
出会って二日目でもう呼び捨てかよ。
好きでもない奴、しかも男とデートするのに行きたいところなんて、ある方がおかしいだろうがよ…。
勇二郎、となかなかシブい名前の少年は、昨日と似たような格好で俺を校門で待っていた。
冗談とは思えないとは確かにそうだったけど、いざ実行するとなると結構微妙な気持ちになるもんだよな…。
「じゃあ、遊園地!」
「えっ、マジかよ…。」
「嫌なのか?」
「嫌っていうか…。」
嫌に決まってんだろうがよ!!
この世のどこに、男同士で遊園地なんか行きたい奴がいるんだよ!
あんなメルヘンチックなところ、女とだってなかなか行けないぞ、俺としては。
なのにそうやって睨んでくればなんとかなると思っ……。
「嫌なのか??」
「…嫌じゃない…です…。」
くっそー!なんだよ、なんで俺はっきり言えないんだよ!
そんな悔しさとはまるで逆に、勇二郎は楽しそうだ。
今にもスキップでもするんじゃないかこいつ。
本当におかしな奴だよな…。
「章吾、何やってる。早く行こ!」
「ハイハイ。」
「ハイは一回って学校で教えてもらわなかったのか?」
「ハイっ、わかりましたよ行きますよ!」
何が楽しくて男と遊園地なんかでデートしなきゃなんないんだよ…。
だけどそんな俺とは逆に、勇二郎はかなり楽しそうで、さっきから子供みたいにはしゃいでいる。
近くにある遊園地は、夜は9時まで営業している。
どうせ遠くへは行けないし、わざわざ遠くに行くのも嫌だった。
そこにしよう、と言うとそこでいいと言うので、トボトボと歩いて行った。
「えっ、俺が払うのかよ?」
「俺、金持ってない。」
デートしてくれっつったのはお前なんだから金ぐらい持って来いよ!
なんで嫌々付き合わされてる俺の方が金払わなきゃなんないんだ。
俺じゃなかったら、女なら愛想つかして帰ってるところだぞ。
「金ない。」
「ハイハイわかりましたよ、払いますよ!ホラ、行くぞ!」
「うん、やった!」
「…はぁ…。」
やっぱり変な奴…。
急ににっこり笑いやがって…。
ちょ、ちょっとその顔も可愛いとか思っちゃったじゃんか…。
いや、何を考えてるんだ俺は。
いくらなんでも男と付き合うなんて有り得ないし。
「あれ、乗りたい。」
「観覧車ぁ~?」
「嫌なのか?」
「いや…、別にいいけど…。」
全っ然よくないんだけど!!
よりによってなんで観覧車なんか…女とだって乗ったことないのに。
あぁ言うのは、カップルが乗って楽しむモンじゃないのかよ。
「おお~小さくなってくー。章吾、見てみろよ。」
「あ~?」
あーめんどくさ、とか思いながらも、外を覗いてみる。
どんどん下の人や物が小さくなっていくのを、勇二郎は一生懸命になって見て喜んでいる。
そういうところはなんだか無邪気な感じがするんだけどな…。
「章吾、ちゅーしたい。」
「は?」
「だから、ちゅーだよっ。」
「なななななんでっ!」
しまった…、そういうことを忘れてしまっていた。
その時俺の中で、観覧車=密室、そして、密室+二人きり=エッチ、などど意味不明な数式が浮かんでしまったのだった。
それに気付いた時はもう遅くて、既に目の前に勇二郎の顔があった。
「ここでちゅーしたカップルはずっと一緒にいられるんだって。」
「カカカカップルって…!」
「俺、章吾と一緒にいたい。」
「いや、あの諦めろって……んぅ!!」
ぶちゅ。
ぎゃー!!勇二郎に…、男にキスされてる!!
俺、キスされてるぞ!!
「無理だと思う。」
「そんな…、俺もむ…っ、んんっ!!」
そんな無茶苦茶な…!!
バタバタともがいても、勇二郎はしっかり俺の上に跨って、どうやっても逃げられなくなってしまった。
その前にここは地上で、逃げられるはずがない。
ここから転落死して俺の人生が終わるなんて、それはできない。
「章吾、どうしよう…。」
「な、何…っ。」
「俺、初めてちゅーした…。」
「そんなん知らな…っ、も…やめ…っ!」
初めてのクセにこんな激しいのするなよ!
息ができないぐらい口を塞がれて、苦しい。
…っていうかなんか俺、気持ちよくなって…??
激しいとは言っても、初めてというのは本当らしく、舌を入れたりするわけでもない。
ただ唇を強く擦り付けて来るだけなのに…。
こんなキス、初めてしたかもしれない。
心臓がドキドキして、今にもこの口から出て来てしまいそうだ。
「ちゅー、気持ちいい。」
「わ、わかったからもう…っ!」
もうやめてくれ、そう言おうとしても勇二郎はすぐにまた唇を付けて来て、俺も俺でなんだかクセになってしまったかのように応えてしまった。
こんな、昨日会ったばかりの奴にキスを許すなんて…。
俺はどうしてしまったんだ…。
「章吾、あの…。」
「…え……?」
「もう降りなきゃ。」
「…え?うわっ!!!ここここれはなんでもないんです!!」
なんでもない、そんな言い訳は通じないぐらい、俺はぽーっと熱に浮かされてしまっていた。
そこには、扉を開ける係員が、真っ赤…いや真っ青か?そんな顔で俺たちを見ていたのだった。
あまりのショックに俺はその後のことをよく覚えていない。
勇二郎があっちだ、こっちだ、と言う乗り物について行っただけだ。
そりゃそうだろ…あんなところを他人に見られるなんて!
完全に俺、誤解されたぞ、ホモだって。
あぁ…、もうここの遊園地には来ることはできないんだろうな…。