部活動を特にしていない生徒にとって、放課後というのは、
友人達と街をブラブラしたり、速攻帰宅したりして、自分の思う通りの時間が過ごせるものだ。
俺もその一人で、毎日そんなことの繰り返しだった。
それが当たり前で、別に嫌でも面倒でもなかったから。
平凡に暮らして、もうすぐ高校を卒業して適当に決めた大学に入って、サラリーマンにでもなって結婚して子供を作って爺さんになって一生を終える、そんなもんだと思っていた。
それが、一転したのは、秋深まる放課後のことだった。
校門を友人達と下らない話をしながら出た瞬間、それはやって来た。
俺が話しているのを遠くからじっと見つめていた歳の頃同じぐらいの少年が、俺の方目掛けて突進して来たのだった。
「付き合ってる人、いるのか!!」
「……は??」
突然大きな声で、そいつは突拍子もないことを口走る。
初対面の相手に向かってその言葉遣いもどうかと思う。
辺りに目当ての女の子でもいるのか、とキョロキョロ見回した。
「どこ見てんだよ、お前だよっ!」
「え、俺?俺??付き合ってる人は…いないけど…何?」
「じゃあ付き合ってくれ。」
「誰と?誰が??」
話が全然理解できないぞ。
なんなんだこいつは…。
一緒にいる友人達までその迫力に圧倒されて、誰も何も言えなくなっている。
俺…なんか変なことに巻き込まれてんのか??
「俺と、お前。」
「は??俺??ちょっと待て。」
「なんか問題あるか?」
「いや、俺、男だよな??」
「自分でわかんないのか?」
「わかってるけど…おかしいだろ、それは。」
まさかこいつが女ってことはなさそうだ。
ちょっと幼さが残るけど、どう見ても凛々しい顔した男じゃないか。
背だって俺と同じぐらいあるし、声もちょっと高い方かもしれないけど、どう聞いても男の声に間違いない。
「おかしくない!俺、お前が好きだ!!」
えーと…、、、一体何が起こったんだ、これは。
「どっかで会ったっけ…??」
***
周りが固まっていたので、そこから逃げるようにして、近くの公園までそいつを引き摺って来た。
さっきの告白?と今の走って来たので、喉がカラカラみたいだった。
仕方なく制服のポケットから小銭を出して、自動販売機でジュースを買ってやった。
なんだって俺は見知らぬ奴に奢ってやってんだ…。
だけど俺だってそこまで心の狭い人間じゃない。
どちらかと言うと広い方だと、自分では思ってはいる。
思ってはいるけれど…。
「いつもバスで一緒だった。一目惚れした。」
「ひ、一目惚れってな…。」
ゴクゴクとジュースを飲み干して、とんでもないことを言っている。
俺の方が今度喉渇いてくるだろうが。
だけどこんな奴…見たことあったっけ…??
結構男から見てもカッコいい方だと思うし、顔立ちもハッキリしていて目立つ方だと思う。
いつも、って言ってるぐらいだから、頻繁に会ってたってことだよな…。
「学校どこだよ?うちじゃないよな?東か?南か??」
俺の通う西高の近くには、東高と南高という似たような高校がある。
バスを使う生徒もいるだろうし、そこの生徒かもしれない。
「み、南…。」
「ふーん、あそこうちより頭いいんじゃなかったっけ??」
「た、多分…。」
「多分?変な奴だな。」
落ち着いて話すと別に普通なんだけどな。
さっきの勢いもどこかになくなったみたいだし。
黙っていれば変な奴には見えないんだけど…。
「それより!付き合ってくれるのか?」
「いや、それは無理だろ…、だってなぁ…。」
「わかった。」
「え…。」
なんだ、割と諦めがいいな。
そんなだったら最初から言うなよ、付き合え、だなんて。
って…、別に付き合いたいわけじゃ…、じゃなくて!絶対ないし!!
頭の中で妙な思考が浮かんでしまって、急いで打ち消した。
だけどそれは、打ち消されることなんかない、俺の人生が大幅にずれてしまう第一歩だったのだ。
「じゃあ明日デートしてくれ。」
「いやだから付き合えないって…。」
「デートしてくれたら諦められるかもしれない。」
「だけどなぁ…。」
こんな奴、知らない振りして逃げればいいのかもしれない。
でも、俯きながらそんなことを言う顔は真っ赤になっていて、同性を好きな奴からしたら、ちょっと可愛いとさえ思ってしまうかもしれないぐらいだった。
俺をじっと見る目も、冗談とは思えなかった。
それに、男とデート一回するだけで、もうこんなことがないなら、そうする方がいいと思ったから、仕方なく承諾した。