「や、やっぱりやめる…!やっぱり返してりょうへ…っ!」
「ダメー。」
「オ、オレ恥ずかしい…!!」
「何だこれ…?マフラー……か…?」
「だ、だからやめるって…!オレ、下手くそでごめん…!」
「ぷ…。」
俺がそのマフラーらしき物を掲げてみると、何とも短くて首に巻ける長さではなかった。
しかも目はめちゃめちゃだし、ところどころボロボロになっているし、何か妙な記号?みたいな文字まで入っている。
「あの…間に合わなくて…亮平って英語?で入れようとしたのにオレ…っ。」
「ぶはは…!シロ、亮平のり、はLじゃなくてRだぞ?」
「えぇっ!!そうなのか?ラブ、っていうのと同じだと思ってた!オレ恥ずかしい!!」
「いや…もう…こんなの初めてだ…。」
俺はとうとう我慢が出来ずに吹き出して、腹を抱えて笑ってしまった。
そして真っ赤になって涙を溜めているシロを、ぎゅっと抱き締める。
「亮平…?」
「こんなに心が籠もったの…初めてもらった…。」
「でもオレ…。」
「すっげぇ頑張っただろ?それが俺には見えるんだよ…。」
不器用なシロが編み物だなんて、想像も出来ないぐらい大変だったに違いない。
ご飯を作るのだってほとんど出来ないし、ケーキ屋の仕事だって失敗ばかりだ。
だけどシロは努力というものを惜しまない。
ボロボロになりながらも、力を出し尽くす。
そういう一生懸命さがマフラーからは滲み出ていたから、強ち「L」は間違いでもない。
「へへっ、亮平…オレ嬉しい…。」
「よし、シロ。明日も仕事終わったら待ち合わせしようか。デートすんぞ。」
「えっ、ホントか?やったぁ、オレ嬉しい!」
「そんで好きなもん食っていいぞ。プレゼントいっぱい買ってやる。いっぱい遊ぼうな?」
実は俺は、シロがプレゼントの準備をしていることを知らなかった。
いつもみたいに「何が欲しい?」なんて聞いて来なかったし、今年は地味にやろうと思っていた。
今日店に寄る前にシロの好きなお菓子を買って来ていて、それをプレゼントにしようと思っていたけれど、やめた。
明日は好きなだけシロの我儘を聞いて、シロと一緒に楽しむ。
それはシロへのプレゼントであり、俺へのプレゼントでもあるのかもしれない。
「うんっ!」
「それでいっぱいセックスしような?」
「りょ、亮平ってば…。」
「とりあえずこれは約束な?」
俺はシロを抱き上げ、ちゅっと音をたてて一度だけキスをした。
明日のプレゼントと、俺達の未来への約束のキスだ。
その後はテーブルに置かれた料理を残さず平らげ、いつもよりも地味なクリスマス・イブを豪華な気分で過ごした。
翌日シロが仕事に行っている間は、デートのために下調べでもしよう。
色々な計画でも立てて、ゆったりとした時間を過ごそう。
自分のバイトが休みだったお陰で、シロを喜ばせる方法を考えさせてくれるいい時間になりそうだ。
…となるはずだったのが、当日になって予定が狂ってしまった。
そのシマの風邪がどうやら水島にまでうつってしまったらしいのだ。
熱で意識が朦朧とする中、水島はシロに電話をして来た。
自分が寝込むとシマが腹を空かせて泣くかもしれない…だなんて、シマはそこまで子供じゃないって言うのに。
普段は冷たくあしらっているくせに、二人きりでいる時はどれだけ甘い顔をしているのか想像もつかない。
案の定シロは心配しなくって、ギリギリまで仕事を休むか悩んでいたのを、俺が代わりに行ってやると言って説得をした。
それから二人の状態を見てみたい好奇心と、からかってやろうかな…なんていう悪戯心もあった。
「つぅかシマたんのは風邪じゃねぇだろ?」
俺はだいたい、シマが風邪だけではないことを悟っていた。
確かに昨日は風邪だったかもしれなけれど、それだけではないはずだ。
絶対にシマと一日中一緒にいた水島は、手を出すに違いないと思っていたのだ。
「そんなことしてな……!」
「ええっ!!亮平くんどうして知ってるの…っ!!」
水島の否定も虚しく、シマが俺の誘導尋問に見事に引っ掛かってしまった。
だいたい俺がそういう質問をするとシマの答えによってバレることが多く、俺としてはそれが楽しくて仕方がない。
あの水島が表情を変えたり慌てたりするのを見るのが、本人には申し訳ないのだがかなり面白い。
「し、志摩っ!」
「ひゃあっ!ご、ごめんなさ…!!でも風邪も本当で…昨日は風邪だったのです…っ!」
シマは墓穴を掘りまくり、水島は激怒する。
そんな二人のやり取りだって、俺から見ればイチャイチャしているとしか思えない。
それでも「イチャイチャもしていないしラブラブでもない」と言い張る水島が、更に面白い。
「藤代さん…遅くまですみませんでした…。」
「亮平くん、ありがとうございます!ご飯もらいますっ!」
「あ?礼ならいいからよ、今日はおとなしく寝ろよお前ら。」
夕方になって二人が目を覚ましたのと同時に、俺は帰り支度を始めた。
シロの仕事が終わるまであと少し、早足で行かなければ間に合わない。
きっとシロは遅れたとしても、怒ったりはしないだろう。
シマのことを熱心に看病してくれたんだな、なんて言って、笑顔を見せてくれるに違いない。
「おとなしくって…。」
「おっ、俺あの…っ!はいっ!おとなしく寝ます…!」
「シマたんは可愛いなぁ~。そんなシマたんに後でプレゼントがあるからよ。」
俺はニヤニヤしながら携帯電話をいじり、シロにこれから向かうというメールを送った。
その携帯電話の中には、二人のラブラブ写真が入っている。
シマがしがみ付くならまだしも、あの水島がシマにぎゅっとしがみ付いているという、熱がひけて本人が見たら大慌てすること間違い無しなレア写真だ。
「………?」
「えー?!なんだろなんだろー!!ねーねー亮平くん、なぁにー?」
「まぁそれはな~。そうだな…あと一時間ぐらい待っててくれよ。んじゃな、俺行くわ。」
不審な表情で俺を見つめる水島と落ち着かないシマをよそに、俺は実に楽しい気分でそこを後にした。
あと一時間、シロと会って落ち着いた頃にこの写真を贈ろうと思っている。
まずはシロにも見せて、二人は大丈夫だということを安心させてやらなければいけないからだ。
その時の水島の顔とシマのはしゃぎっぷりを考えると可笑しくて、俺は心の中で鼻歌を歌いながらシロの店へ向かった。
Happy merry birthday.
END.