クリスマスを楽しみにするかな~…?
一也はもう、あの言葉を忘れてしまっているのだろうか。
俺が初めて手伝いをした日、キスの先に進もうとしてやめた時のこと。
仕事で忙しい一也はその時我慢すると言って、疲れて倒れるように眠ってしまった。
柊のここも元気になっちゃう?
一時間後に起きた一也が言った言葉も、俺は忘れてなんかいない。
びっくりし過ぎて「エロオヤジみたい」なんて酷いことを言ってしまったけれど、それは本当にびっくりしただけなんだ。
その時も結局拒否をする形になってしまったけれど、心底拒否をするつもりはなかった。
クリスマスまではしないから安心しろよ。
俺の酷い言葉にも、一也は笑ってそう言ってくれた。
つまりそれはクリスマスになったらするかもしれないということだ。
俺はそういう意味でクリスマスが来るのを複雑な思いで待っていた。
一也の大好きなクリスマスなのにそのことを考えると緊張してしまって、だけど本当は嬉しくて、一也もそのつもりでいると思っていた。
一也が欲しいって言ってくれたら、俺はちゃんと心の準備をするつもりだった。
でももう待てなくなっちゃったのかな…。
待たせる俺に呆れて、好きなんて気持ちはなくなっちゃったのかな…。
そりゃあそうだよなぁ…だって半年以上も待たせてしまったんだから。
いくら一也が優しくて大人な男でも、普通は呆れるだろう。
もう間に合わないのかな…、一也に触れてもらえないのかな……。
「柊……、柊…?」
「…え……?あ…一也…?」
「柊のことが心配で来ちゃったんだ。」
「一也…あの、俺…、俺……。」
気が付くと俺のすぐ傍に、いつもの笑顔の一也がいた。
クリスマスがもうすぐだって言うのに、こんなところにいていいはずがないのに…。
「大丈夫、呆れてなんかないから。」
「え…?」
「柊のこと嫌いになんかならないし。」
「一也…。ホント…?」
俺…まだ何も言ってないのに…。
頑張って言おうとはしたけれど、どう切り出すか迷っていたんだ。
一也はどうして、俺の考えていることがわかるんだろう。
俺が単純だから?それとも子供だから?
いくら俺自身が顔に出しているつもりはなくても、一也には皆見えてしまっているのかな…。
でもそれだけ俺のことを見ていてくれているみたいで、凄く嬉しいかもしれない…。
「うん、ホントだって。だからさ…柊……。」
「あ……!」
近付いた一也の唇が、俺の首筋に触れる。
まず始めはキスをすると思ったのに、一也の行動は意外だった。
でもどうしてだろう、いつもよりはびっくりしなかった。
もしかして俺は、嫌じゃないというだけでなく、本当待っていたのかもしれない…一也とこういうことをするのを。
それなのに一也に言わせてしまうなんて、俺はなんてずるい奴なんだろう。
「柊、好きだよ…。」
「うん…っ、俺も…っ。俺も好き…っ。」
「いい?この先…しても…。」
「うん…っ、だって俺……俺も本当は…っ、あ…っ!」
俺も本当はしたかったんだ。
一也とキスの先がしたかった。
心だけでなく身体を繋げて、一也を感じたかった。
俺に勇気がなくてごめんなさい。
でももう大丈夫、恐くなんか…。
そりゃあ確かに恐怖感は完全には消えないけれど、大丈夫だよ。
一也のことが好きだから、一也のことだけ考えてると、そんなのどこかに消えて行っちゃう気がするんだ。
だから一也、もっと俺のこと触って欲しいんだ……。
「かず………っ、あ…あれ……?!」
肌蹴た服の隙間から、一也の手が俺の胸の突起を探っていた時だった。
ビクリと震えた俺は、勢いよく身体を起こした。
「なんだ……、夢…?」
母さんが言っていた通り、この日の夕ご飯はトンカツだった。
そう言えば一也も家に来て、三人で食べたんだっけ…。
揚げ物をするとついたくさん作ってしまう母さんは、残りは卵とじにして明日の弁当にすると言っていた。
俺はその弁当がいつも楽しみなはずだったのに、どうでもよくなっていた。
目の前で美味しそうに箸を突く一也のことが気になって仕方なくて…。
自分の部屋に帰っても、お風呂に入っている間も、布団に入っても一也のことが離れなかった。
一也のことしか考えられなくて、だからこんな夢を見てしまったんだ。
なんだか変な病気にでもなってしまった感じがする…。
「はぁ……。」
俺は今まで見ていたその夢の内容を思い出して、思わず溜め息を洩らした。
だって夢の中だと俺は、あんなに素直になれるんだ…。
一也も思っていることをちゃんと口にしてくれた。
大丈夫だよって言って、俺を安心させてくれた。
それならあの夢がそのまま現実になればいいのに。
俺のことを呆れてないって、怒ってないって、そう言ってくれたらいいのに…。
「え……?う、嘘……っ?!」
そんな夢とはあまりにも違い過ぎる現実に落ち込んでいると、俺の身体に異変が起きていたことに気が付いた。
布団の中の俺の下半身は熱くなっていて、手を伸ばすと明らかに形が変わっている。
まさか夢でこんなことになるなんて…。
これじゃあ本当にしたくて堪らなくて、欲求不満みたいじゃないか…。
「一也……っ、ん……。」
もし今この姿を一也本人が見たら、俺のことを本当に嫌いになってしまうかもしれない。
いつも拒否するくせに何をやっているんだ、なんて言ってそれこそ怒ってしまうかもしれない。
俺だってこんなところは、一也にだけは見られたくない。
一也のことを考えて興奮して、一人でしているところなんか…。
一也は窓から入ってくることも出来るから、見られる可能性はゼロではない。
それをわかっていながらも、俺はその行為をやめることが出来なかった。
「はぁ…っ、はぁ…っ。」
俺ぐらいの年齢で、こういうことをするのは別におかしいことではない。
むしろしない方が珍しいような気がする。
学校の同級生達だってこういう話題で盛り上がっている時もあるから、皆がしていることだ。
だけど俺が皆と違うのは、それをする時の材料が同じ男だっていうことだ。
それだけじゃない、その人は恋人で、一度はその人に抱かれたということ。
それは決して皆に言うことなんか出来ない、俺達だけの秘密なんだ。
「あ…一也……っ!」
その後もいつ一也が来るかわからないという危険な状況で、俺は行為に没頭してしまった。
そして最終的には一也の名前を呼びながら、自分の手の中に白濁を放っていた。
放った後は押し寄せる羞恥心と後悔の波に襲われて、なかなか眠ることが出来なかった。