なんだか最近…でもないけど俺はどうかしている。
気が付けば賢一のことばっかり考えて。
これじゃまるであいつのこと好きみたいじゃね……。
ま、まさかそれはないだろ!
だってあんなビン底でガリ勉でいじめられっ子で、つーかその前に男だろどう見ても!
こんなこと考えるのももうおかしい証拠だ。
何かされる度にいちいち考えて、女じゃねぇんだから。
もっと男らしく堂々としてりゃいいんだ。
しかも俺は総番だぞ、男の中の男なんだからよ。
「…ん?」
そんな俺が進もうとした先に何やら目つきの悪い奴らが待ち構えていた。
あの制服を見る限り隣の学校だから、多分というか確実にそこの生徒だろう。
『隣の総番変わったらしいんスよね、挨拶がてら三鷹さんを狙ってるって…。』
あぁ…ありゃ本当だったのか…。
一人のところを狙って来たってわけか。
「へぇ、隣の総番は随分と可愛い顔してんなぁ。こんなのにやられてたなんてな。」
「誰だよてめぇ、まずは名乗るのが常識だろ、さすがボンクラ高校だよなぁ。」
「あんだとてめぇ、そのツラ傷だらけにしてやろうかぁ?」
「汚ぇ手で触るんじゃねぇよ。」
ゴリラみたいな顔した新しい総番とやらが、俺の顎を取る。
俺はこういう奴に見下されるのがすっげぇ嫌いなんだよな。
そんな顔は総番っぽくねぇ、とかおちょくりやがって。
「喧嘩じゃなくてもいいんだけどなぁ、なぁお前ら。」
「は?何言ってんだてめぇ。」
ニヤニヤとそいつが笑って、一番考えたくないことが浮かんでしまった。
いや、でも賢一じゃあるまいしそれはないだろ。
こんな時まだ俺はあいつの名前が浮かんでるのか。
6人…こいつ入れて7人か…。
こいつがどんなもんかまったくわからないからな。
でも俺が覚えてないってことは、今までそんな高い位置じゃなかったってことだ。
っつーことはなんとかなるか…?
「んじゃ、美味しく頂くとするか、なぁ?」
「はあぁ?!?!てめっ、ふざけ…っ!」
「いいんですかね、何しても。」
「あぁ、その代わり俺が一番先だからな、まずは慣らせ。」
「よくねぇよ!触んな!気持ち悪ぃんだよ!!」
マジかよ…マジでそうきたのかよ…。
なんで俺、こんなところで男にヤられなきゃなんねぇんだ。
俺は女が好きだっつーのに。
鳥肌まで立ってるぞ俺…マジでヤバくねぇか??
だってなんだか吐きそうなぐらい気持ち悪い。
なんでだ?なんでこんなに…、賢一に触られた時は嫌だけどこんなんじゃなかった。
まだ喧嘩してボロボロなるほうがマシだろ!!
「へぇ、脅える顔も可愛いなぁ…。」
「変態かてめぇは…!」
くっそ…こんなの一発殴れば済むのになんで俺動けないんだ…。
冗談じゃねぇぞ、ヤられてたまるかってんだ…!!
「俺の純ちゃんに触るな!!」
「賢一…。」
拳を握り締め、殴りかかろうとした瞬間、背後から賢一の叫び声が耳に飛び込んで来た。
「純ちゃん、大丈夫?キスとかされてない?」
「賢一なんでてめぇは…。」
隣の野郎共は一気に俺から離れた。
ボンクラ総番はさっきよりニヤニヤしてるし。
「おいおい、マジでホモだったのか~。」
「そいつとデキてるから触らないで、って?こりゃおもしれぇ!」
たちまち爆笑の渦に巻き込まれ、俺は完全にそっちの人だと思われているようだ。
こんな目に遭って、おまけに誤解されて…なんでこの俺が…!
なんでこの俺がここまでされなきゃならねぇんだ!!
「なんで来た!バカかてめぇは!俺はお前のものじゃねぇんだよ!!」
「そんな…純ちゃん…、なんで俺怒られるの?」
「純ちゃんって呼ぶなっつってんだろうが!」
「おいおい、痴話喧嘩かよ…、二人仲良くボコボコにしてやるよ。」
待て。なんでそうなる?どこが仲良いんだよ、何が痴話喧嘩だよ。
「うるせぇ!てめぇら全員まとめてぶっ殺してやる!!!」
「ダメだよ純ちゃーん!!」
***
こうして、俺は、まぁ仕方なく賢一も入れるとして…。
隣の学校の奴等7人相手に殴り合いの大喧嘩になった。
が……。
「カッコつけたクセにボロボロじゃねぇかお前…。」
「うん…。」
奴等が俺にボコボコにされたのはいい。
それは俺が勝ったってことだから。
それはいいとして、なんで賢一がこんななってるんだよ。
「だから来るなっつったのによ…。」
「うん、でも純ちゃんの顔…、傷付いたら大変だし…。」
「バ、バ、バカじゃねぇのか?俺は男なんだぞ、しかも総番でお前より…。」
「でも好きな子ぐらい守れるよ。」
ヤバい…、俺、なんかドキドキしてないか??
賢一相手に?嘘だろ??
こいつはビン底でガリ勉でいじめられっ子で…。
そして俺のことが好きだ好きだって…。
も、もしかして…俺って…いやでもまさか…!
流血までして見るも無残になった賢一を膝に乗せたまま、俺の心臓はさっきからおかしいぐらい動いている。
「純ちゃんさぁ、よく俺のこと助けてくれたよね?」
「そ、それはお前が助けてって言うから…。」
「でも嫌いなら助けないんじゃない?嫌いの逆は好きってことで…。」
「お、お前はどうすればそう自分に都合よく…。」
思い出してしまった。
俺がどうして誰より強くなりたかったか。
女にモテるためなんかじゃない。
本当は、こいつを守ってやりたかったんだ。
最悪だ!俺のほうが好きだったんじゃねぇか!!
「俺のこと好きだよね?」
「ちょ、調子乗ってんじゃねぇ!!そ、そんなのわかってるっつうの!!!」
ヘラヘラ笑ったままの賢一の襟首を掴んで、こんなになってるのにまた殴ってやった。
何が守れるだ、全然守れてねぇじゃねぇか。
こんなカッコ悪い奴を好きだなんて、俺までカッコ悪い。
仕方なくその立てなくなったカッコ悪い奴を、負ぶって自宅へと歩いて帰った。