俺はすっかり上機嫌で、その後も二人を先導して歩いた。
そして途中でまた別の売店を見つけると、皆で立ち止まった。
「シマ、おっきいのあるぞ。これ、さっきのパンダのやつ。」
「あ、ホントだー!俺これ買って行こー。シロは?」
「うーん、オレは違うの…あ、これにする!」
「ライオンだ!可愛いー。猫みたいだもんね。」
「シマ、動物焼きだって!これも買おう?美味しそう!」
「あー、どうりでいい匂いすると思ったー。」
俺は欲しかったパンダのぬいぐるみを持って、抱き抱えた。
それから近くに置いてあった焼き立ての動物のカステラみたいなお菓子も。
シロはライオンの親子のぬいぐるみを選んでいたから、大きい方は亮平くんにあげるのかもしれない。
「シマにゃん?シマにゃんも欲しいの?」
「あのね、これ、アオギに似てるの。」
「シマにゃん、それオオカミだよ…?猫じゃないよ?」
「それとね、この白いの可愛いの。」
シマにゃんが指したのは、オオカミとヤギのぬいぐるみだった。
他の動物のことなんか知らないのに、そんな物を選ぶなんて、
やっぱりシマにゃんの中にどこか動物の本能みたいなものが残っているんだろうか。
それにしてもそのオオカミが、全然猫とは違うのに青城様の顔に似ていたのが面白い。
「僕これにする!これ下さーい!」
「あっ、シマにゃん…!」
俺はそこでふと疑問に思ってしまった。
俺と一緒に買い物に行ったことは何度もあるけれど、シマにゃんはお金の使い方を知っているのかな…?
通販もするなんて青城様は言っていたけれど、シマにゃんはまだわからないんじゃないの…?
「僕ー?これじゃあ買えないよ。ママ呼んで来てくれるかな?」
「えーダメなのー?ママ?お母さんはいないよ?」
「シ、シマにゃんっ、俺が買ってあげる!これ、これと一緒に下さいっ!」
思った通り、シマにゃんは10円玉を1つだけ握り締めて売店のおばさんに渡そうとしていた。
俺は急いで自分の財布からお金を出して、自分のぬいぐるみと一緒にそれらを買った。
「志摩ちゃんー…ごめんなさい…。」
「え、大丈夫だよ!シマにゃんは気にしなくていいの!」
シロが買い物をしている間、シマにゃんはすっかり落ち込んでしまっていた。
肩から掛けていたバッグの中に入っていたのは10円玉か1円玉しかなくて、しかもそれはシマにゃんがいつも遊んでいる玩具のお金だった。
青城様は別として、向こうにいたらお金なんか使わないのが当たり前だ。
「でも志摩ちゃん、僕のお母さんみたいだったよ!」
「え?!そ、そうかなぁ…。」
「うん、シマカッコよかった~!」
「シロまで…な、なんか照れるよー。」
シマにゃんがまだ猫で、家で飼っている時も何度かそう思った。
シマにゃんは俺の子供みたいだなぁ、って。
それで俺がお母さんで、隼人がお父さん。
でもそれを本人に言われるなんて、なんだか凄く恥ずかしい。
恥ずかしくて、そして、凄く嬉しい…。
「あ~、楽しかった~。」
「うんっ、そうだねー。」
「ねー?」
動物園を十分に楽しんで日も傾いて来た頃、俺達は出口から外へ出た。
たくさんの動物達を見て、シロとシマにゃんとお喋りをして、俺は大満足だった。
そしてあとはもう無事に家に着けばいいだけだった。
「あれ…?なんか…。」
「シロも思ってた…?」
「どしたの?どしたの?」
出口を出てから数分、俺は違和感を覚えた。
シロも同じように思っていたようで、シマにゃんは何のことだかわかっていない様子だった。
「こんなとこ通ったっけ…?」
「うん…通ってないような気がする…。」
どこをどう見ても、それは来た道とは違う道だった。
来た時にあった看板もなければ、お店もない。
いくら頭の悪い俺だって、それぐらいはわかる。
シロだってもうこっちに住んで二年も経つんだ、見た目で違うことぐらいはわかっていた。
「でもオレ達、出口ってところから出た…。」
「うん、多分出口が2つあったか…途中で間違えたんだと思う…。」
俺の額からは冷や汗が滲み始めていた。
せっかくここまで来て、最後の最後に間違うだなんて…!
あんな風に調子に乗ってたからだ…。
シロとシマにゃんに褒められて、最後まで集中することを忘れてしまっていたんだ…。
どうしよう…どうしよう…!
どうしよう、隼人…俺どうしたらいい?
「そうだ、タクシーってやつで帰ればいいんだ!」
「あっ、そっかー。シロ、お金持ってる?」
「え…。オ、オレ…もう紙のやつはない…。」
「どうしよう…俺もあと2000円しか…絶対足りないよ…。」
携帯電話の時計を見ると、まだ隼人は仕事中だ。
それにあれだけ大丈夫なんて言って、隼人に来てもらうわけにはいかない。
タクシーだと俺達の住む街までは1万円以上はかかることが予想が出来た。
シロと俺もお金を足しても到底足りなくて、シマにゃんが持っているのは玩具のお金だ。
「志摩ちゃんー…。」
「シマにゃん?どうしたの?」
「ちょっと待ってー…。」
「あ…。歩くの疲れちゃった?」
一日中動物園の中を歩いて、俺もシロもくたくたになっていた。
歩き慣れていないシマにゃんは、俺達よりももっと疲れているはずだった。
シマにゃんは道の途中で止まってしまって、俺の袖を掴む。
「足が痛くてね…それでね、お腹減ってね…。それでアオギに会いたいの…。」
「シマにゃん…。」
「そうだ、シマ!これ持って!」
俺のせいでこんなことになってしまって、どうしたらいいんだろう。
悩むばかりで何の解決法も浮かばない。
すると俺と一緒になって落ち込んでいたはずのシロが、突然俺に荷物を渡して来た。
「オレに乗っていいぞ!抱っこの方がいいか?」
「ううん、おんぶがいいー…。」
「シロ…。」
「シマ、頑張って駅に行こう!」
「よいしょ、よいしょ。」
「う…、うんっ!シロ、ありがとう!な…、なんかシロカッコいいー!」
シロはシマにゃんを負ぶって、再び道を歩き始めた。
なんだかその姿が凛々しく見えて、こんな時なのに物凄く格好良く見えて、感動してしまった。
そしてシロは俺よりもやっぱり年上なんだと実感した。
このまま頑張れば駅に着くかもしれないと、俺の中で明るい希望が見えた来た。