「FLOWER」-1

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俺には今、とても好きな人がいる。
その人は、俺より一年先にこの会社に入った人で、いわゆる先輩というやつだ。
見るだけで興奮してしまうし、話すともっと興奮する。
出来れば、直に触れてみたい。


「鬼頭くーん、お昼にしよっか。」
「あ…、ハイ…。」

あぁ、花園先輩…。
今日も一段と可愛いっすね。
とても男にしとくのは勿体ないですよ。
そうなのだ、俺の好きな花園満先輩はれっきとした男だ。
俺より背が20センチも小さくて、髪なんかサラサラで、声も甘くて高くて、その辺の女より可愛いけど。
名前だってその容姿そのものの、可愛い名前だし。
まるで可憐な花みたいだ。
その声で喘ぐのを、聞いてみたい。
俺の手で感じる顔を、見てみたい。


「今日なんにする？」
「俺は日替わりでいいっす。」
「じゃあ僕も同じにする。」
「あっ、じゃあ俺買って来ますから席取っておいて下さい。」

わかった、と笑顔で手を振りながら、先輩は社内食堂の人混みに消えて行った。


先輩とは同じ部署で、俺は入社当時、一から仕事を教えてもらった。
それと同時に恋に落ちたのだ。
男ってのはそりゃ、見たらわかるけど、あんなに優しくされたら、惚れないわけがない。
以来2年の片思い生活だ。
でも実は俺は、脈はあると思っていたりする。
誰とでも仲の良い先輩が毎日俺とだけ昼を共にしている。
しかも、よく俺と同じメニューにする。
それだけじゃない、仕事帰りに飲みに行ったり、休日に出掛けたりしたことだってある。
その生活や時間から推理して、恋人がいないことは確かだし、俺のことを嫌い、いや、好きなんじゃないか、とまで思い始めていた。
俺からの誘いを断るどころか、嬉しそうにしてるんだ、これは絶対そうだろ、確実に俺を好きだろ…フフフ。


「鬼頭君？どうしたの、珍しいね、笑ってるなんて。」

しかしこんなことは態度には表さない。
表すことが出来ないというか、表れないというか…。
先輩だけじゃなく、周りからも言われるけど、俺は滅多に笑わない。
だって俺の顔、恐いんだよ！
しかも鬼頭猛、なんてそりゃもう似合い過ぎる名前で、先輩とは真逆な人間なんだ。
でも…、でも俺は…、今日こそは！！


「先輩っ！明日の会議の企画書最終チェック、手伝ってくれませんか！！」

箸を置いて、真剣に言った。
今日こそはこの思いを、先輩に言うんだ。
長い片思いから卒業して、先輩とラブラブライフ一直線！
そのためにわざわざやりたくもない、企画書作成まで自分から言い出して、残業になるのを狙ってたんだからな。
これで上手くいかなかったら俺の努力が水の泡になる。


「うんいいよ、喜んで手伝うよ。」

やっぱりな。先輩、俺のこと好きっすね？
じゃなきゃ残業すんのにそんな嬉しそうにするわけがない。
自信を付けた俺は、17時を過ぎるのを楽しみに待った。












「鬼頭君、これ届かないんだけど…。」

ちょっと自信がないところがある、と言って、先輩に資料を取ってもらうよう頼んだ。
資料棚は天井まであって、その上の方。
計算通り、先輩は逆に俺に頼んで来た。
俺はそれが上の方にあると知っていて、わざと先輩に頼んだ。
近付くために…。


「あっ、すんません、俺が今…。」

自分のデスクから立ち上がり、先輩の元へと向かう。
いよいよ行動開始だ。


「ごめんねー、僕、背が低いから。」
「いいですよ、そこが可愛いんです、先輩はね。」

普段は言えないような言葉を言って、自分に意識を向けさせる。
二人きりの室内に、俺の声と先輩の声と、どちらの心臓かわからないけど、ドクンと跳ねる音がする。


「か、可愛いだなんて…。」
「可愛いですよ、凄く。」

真っ直ぐに見つめて、そんな台詞を吐いた後、先輩の顎に手を掛けた。


「ん…っ、ん、鬼頭君…っ？」

一瞬にしてその唇に自分の唇を重ねて、息が苦しくなる程貪った。
思っていた以上に柔らかいその唇は、俺がキスを激しくする度に濡れた音を立てて、真っ赤に腫れ上がってしまった。


「先輩が、好きです。」
「鬼頭君…。」
「入社した時から好きだったんです。」
「鬼頭君、僕…、僕は…。」


先輩は瞳を潤ませて、顔を真っ赤にしている。
一度俺から目を逸らすと、恥ずかしそうに俺に抱き付いて来た。
こ、これは…、これはつまり…。
俺は次に先輩の口から出る言葉に期待して、その細い身体に手を回した。








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