「All of you」番外編「sweet punishment 2」-3
結局俺はそれから止まらなくなってしまい、夜遅くまで志摩に無理をさせてしまった。
次の日が仕事だとかいうことはどうでもよかった。
ついでに言うと銀華さんには申し訳ないが、あの二人のこともどうでもよくなってしまっていた。
志摩も志摩でもう何も考えられないぐらい疲れてしまって、あの電話のことも忘れてしまっていたようだった。
「あぁ水島くん!よかった…!」
「また連絡をする」と言っていた銀華さんではなく、その恋人の藤代さんの弟から電話があったのは、翌日俺が会社で昼休みを取っている時だった。
それほど頻繁に連絡をすることのない人物から電話が来ると、なぜだか嫌な予感がして仕方なくなる。
だからと言って無視するわけにもいかず、会社の屋上に出て辺りを確認しながら電話に出た。
「心配かけてごめんなー?銀華のこと…色々ありがとう。ちゃんと仲直りして、もう大丈夫だからさ。」
「あぁ…。」
「ところで志摩のやつどうしたんだ?いつもならはいはい志摩ですっ、って言って一発で出るんだけど…。」
「そ…それは…。」
どうやら志摩はまだ寝ていて、何度電話しても出なかったらしい。
電話の向こうの藤代さんの弟の口調があまりにも志摩そっくりで、思わず笑ってしまいそうになった。
「あ、もしかして…。」
「いやっ、あれは色々あって…志摩が…!そういうつもりじゃなかったんだけど…。」
「み…水島くん…?俺まだ何も言ってないけど…。」
「あ……ご、ごめん…!」
人はどうして、疚しいことがあると焦って言わなくていいことも言ってしまうのだろう。
藤代さんの弟がまだ何も言っていないのに、俺は妙なことを口走ってしまった。
おまけにその言い方だと、また志摩のせいにしてしまっている。
「えっと…ごめん、何かわかった…。」
「………。」
「き、気にしなくていいって!俺も時々しちゃうし…っていうか俺もその…昨日あれで無理させたって言うか…。」
「え…?あ、あぁ…。」
なるほど、それで銀華さんが電話をして来なかったというわけか。
気にしなくはないけれど、別に自分達だけが特別なわけではないようで、俺はなぜか安心してしまった。
「っていうかさ…そのー…昨日志摩何か言ってなかったか?電話の後とか…。」
「え…?仲直りしたみたいって…。」
「それだけ…だよな…?」
「あぁ…うん…。そ、そうだけど…。」
つい今しがた判明した藤代さんの弟と銀華さんの昨夜のことと今の状態と、この言葉で俺はピンときてしまった。
こういうことに敏感な自分も何だか嫌になるが、気付いてしまうとそれしか考えられなくなる。
「そ、そっか…!それならいいんだけど…。」
「えっと…もしかして志摩が電話した時って…まずかったってこと…?」
実は俺は昨日の電話のことが、少々腑に落ちていなかった。
電話をして銀華さんはきちんと出たのにもかかわらず、「明日また電話をする」と言ったということは、あの時何か忙しかったのだ。
志摩も確か、「忙しかったですか?」と聞いていた。
それで仲直りをしたと聞いたら、二人で盛り上がっているんじゃないか…と考えるのは自然なことだろう。
「いっ、いやっ!!そんなことは……!う…うわー…。」
「な、何かごめん…。志摩にはやめろって、明日にしろって言ったんだけど…。」(※大嘘)
「べっ、別に謝らなくてもいいんだけど…!しっ、志摩はほら、心配してかけて来てくれたわけだし…!っていうか…やっぱ気付いてたんだ…ブツブツ…。」
「あぁ……な、何となく…かな…。ごめん、志摩にはよく言っておくから…。」
気付いてしまうと何だか面白くなってしまって、藤代さんの弟に喋らせたくなってしまった。
志摩に電話をするのをやめろだなんて一言も言っていないのに、嘘まで吐いて聞き出そうとする自分のやり方は汚い。
今まではそんな風に他人のことが気になることなんてなかった。
それこそどうでもいいと思っていたし、何の興味も湧かなかった。
それも志摩と恋人同士になったお陰かな…なんて、温かな気分に浸っていたのがいけなかった。
「ははっ、何?またお仕置きすんの?」
「え……!」
「何だったっけ…悪いことすると隼人にお仕置きされちゃうー(志摩の物真似)って言ってたから…。」
「いや…それはその…っ!」
しまった…調子に乗りすぎてしまった…。
志摩のバカ…そんなことまで藤代さんの弟に話していたのか…!
いや、こんな風にサラッと言うぐらいだから、そのお仕置きの内容までは話してはいないのかもしれない。
だけどもし全部事細かに話していたとしたら…。
俺は藤代さんの弟の中で「水島くんは物凄く変態な奴」みたいになってはいないだろうか…。
しかしだからと言って「どこまで聞いた?」なんてことは自分からは聞けない…。
「でもホント気にしないでくれよ?志摩はただ心配して電話くれただけなんだし。怒んないでやってくれよ?」
「あ…う、うん…。」
「でも志摩嬉しそうだったしな…やっぱりお仕置きされちゃうのか?」
「あ…そ、それは…えっと……。」
俺は藤代さんの弟の腹を探るような、ぎこちない会話しか出来なくなってしまっていた。
しかし何にせよ二人が仲直りをしたという事実だけは良いことだと思う。
電話の向こうの藤代さんの弟は本当に幸せそうな穏やかな声で、惚気にも聞こえるようなことを繰り返していた。
その声が掠れているのはあの電話の時にしていたことに夢中になってしまったせいだろう。
「あっ、ごめん!仕事中だったんだよな?」
「いや…今は大丈夫だけど…。」
「じゃあ志摩にもよろしく言っといてくれるか?」
「うん…。」
俺は頭の中で「よかったー」と言いながら涙を滲ませて笑顔になる志摩を思い浮かべた。
それからまたお仕置きしてやろうか、それとも藤代さんの弟の言う通りやめておこうか…そんな悶々としたことを考えながら電話を切った。
END.
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