「All of you」番外編「sweet punishment 2」-1




銀華さんがうちに来て、一週間と少しが過ぎたある日だった。
仕事中に何度も鳴る携帯電話が気にかかって、昼休みになったのと同時に屋上へ向かっている途中また鳴って出てみると、それは藤代さんからのものだった。
藤代さんの弟…つまりは銀華さんの恋人が倒れたのだと言う。
本当は黙っているつもりだった俺も、藤代さんの脅しとも言える言葉に誤魔化すことが出来なかった。
うちに来ていることと喧嘩をしたらしいということを、一通り白状することとなってしまった。


「やっぱり……。」

それから夕方になって仕事を終え、帰宅してみると志摩が床の上で寝ていた。
藤代さんが電話をして来た時間帯から考えて、志摩と銀華さんも昼食を取ろうとしていたのだろう。
テーブルには一人分だけ空になった皿が置いてあって、志摩の手には携帯電話が握られていた。
藤代さんか銀華さん、どちらかからの電話を待っている間に寝てしまったというわけだ。
なかなかかかって来なくて不安だったのか、泣いた跡まで見える。


「志摩…起きろ、こんなところで風邪ひく…。」
「んにゃ……猫神様…電話……亮平くん…。」

黙って起こしてやるつもりだったのに、志摩の寝言を聞いて俺の中で何かが崩れる音がした。
どうしてそこで出て来たのが猫神様、なんだ?
亮平くん、なんだ?
いくら意識がないからと言って、どうして俺の名前じゃないんだ…?
いつもなら俺の名前を呟いてくれたじゃないか…。
そんな心の狭い考えばかりが浮かんで、あっと言う間に頭の中を支配してしまった。


「志摩……。」

身体を揺すってみても起きる気配のない志摩に少しだけ苛立ちを覚えた。
ふと向けた視線の先には、柔らかなもの…志摩の特徴的な身体の部位が目に入った。
横向きになって寝ている志摩の一番高い位置にある二つの丘は、弾力があって指で触れると押し返して来るような感触のものだ。
そこに…いや、その肌の奥の熱い部分に触れられるのは俺だけ…志摩の恋人である俺だけだ、そう確かめたかったのかもしれない。


「……はぅ?!」

気が付いた時には俺は志摩のそこに服の上から触れてしまっていた。
指先をその丘の一番低い部分…窪んだところへ一瞬だけ挿入してしまったのだ。
突然のことに驚いて飛び起きた志摩にばれないようにと、すぐにその指を抜いた。


「う……?うーん…。」
「………。」
「ひゃう!あ、あれー…?あ、あれー?」
「志摩…。」

再び眠りに就こうとした志摩のそこに、ほとんど意地のように指を捩じ込んだ。
何が何だかわからない様子でもさすがに目は覚めたのか、辺りをきょろきょろと見回している。


「あっ、隼人だー!えへへーおかえりなさーい…。」
「それはいいけど…。」
「あっ!!猫神様は?!亮平くんから電話!!電話電話…ま、まだ来てないよー!」
「し、志摩……。」

志摩は俺が目に入った途端でれでれと笑い出し、しがみ付いて来た。
そこまではいつもと変わらないのに、銀華さんのことを思い出したのか、すぐに離れてしまった。


「あのね、猫神様が連れて行かれて…それであの、亮平くんが電話くれるって、でも来てなくて…!」
「わ…わかったから…ちょっと落ち着いたらどうなんだ…。」
「それで俺、待ってる間に寝ちゃって…!あー!どうしよう、猫神様が…亮平くんが…!」
「し…志摩っ!!」
「ひゃ…!は、はいっ!志摩ですっ!」
「落ち着けって言ってるだろ!お前はどうしていつもそうなんだっ!」

そんなことを言うつもりはなかった。
猫神様のことなら大丈夫だからとにかく落ち着け、それだけ言いたかった。
藤代さんが何とかしてくれるからお前は心配しなくてもいい、そう言いたかったのに…。
どうして俺はそこからズレてしまっているんだろう…。


「ご…ごめんなさ…っ。」
「人のことはいいんだ、自分のことも出来ないくせに…。」
「う……ごめんなさいです…。」
「人の心配をしている暇があったら…。」

ダメだ…止まらない…。
一度口に出してしまったら止まらないんだ。
そうやって涙目になって俺をじっと見ている志摩の顔を見ると、余計止まらなくなってしまうんだ…。
ごめん…志摩…こんなに嫌な奴でごめん…。


「うっうっ…隼人…怒ってますか…?」
「怒ってるよ…見ればわかるだろ…。」
「お…お仕置き…ですか…?」
「え……?」

志摩の目から涙が零れ落ちた瞬間が来たら、本当に止めようと思っていた。
なのにそんなことを言うから…。
俺の中のおかしな欲望を煽るようなことを言う志摩が悪いんだ。


「ま…前も怒ってお仕置きだって言いました…っ、えっえっ…。」
「志摩は……。」

まさか志摩の口からそんなことを言うとは思わなかった。
それは志摩にとっては大ピンチで、俺にとっては絶好の機会だ。
そのことに気付かないでそんなことを言うなんて、どこまでバカなんだろう…。


「ふぇ…?」
「志摩はされたいのか…?お仕置き…されるのが好きなのか…?」
「そっ、そんなこと…っ!そんなことないです…っ!」
「じゃあなんでそんなに真っ赤になってるんだ…?」
「こっ、これは…あのっ、うんと…その…!」
「この間のこと…思い出したんじゃないのか…?」

ほら、やっぱりバカだ…。
そうやって自分から危険な罠に嵌ってしまうんだから。
俺の欲望に火を点けるような態度をとってそんなことを言ってしまうんだから。


「違いま……んうっ!んっ、んんっ、んー…!あのっ、隼人…んんっ!」

俺は起き上がっていた志摩を再び床に寝かせ、上に乗って動けないようにした。
言い訳をしようとする唇を激しいキスで塞ぎ、言葉を発することすら出来なくしてしまう。


「ここ…、膨らんでるぞ…?」
「や…っ!やぁっ、違…っ。」
「違う?何がだ?ほら、自分で見てみろよ…。」
「や……!ひゃ…やぁっ!」

俺は服の上からそこが変化しているのを確かめると、勢いよくズボンを下ろした。
そのまま下着も一緒にずり下ろして、完全に脱がせるとそれを志摩の手の届かないところへ放り投げる。
恥ずかしくて顔を覆っているのはいいけれど、肝心なところが隠れていないことにも気付かない志摩がバカ過ぎて愛しくなる。


「う…ふぇ…っ、あ…あ…!」
「志摩はえっちだな…こうされるのが好きなんだもんな…?」
「や…やだぁっ、や…ぁんっ、隼人…っ、隼人…!」
「やだ?こんなにしてやなのか?」

少し触れただけでそこは天井を向いてしまい、先端から透明な雫を垂らし始めてしまった。
そんな状態で嫌だの違うだのと言われて、どこに納得する奴がいるんだろう。
そんなこともわからないのか…?


「う…ふえぇー…ダメなの…っ、う…うぅっ、ふえぇーん…!」
「あ……。」

調子に乗ってそれを口に含もうとしたところで、志摩が本格的に泣き出してしまった。
さすがにそこまでされると自分のしていたことが悪いことだと気付いて、触れる寸前で口から離した。


「猫神様…っ、う…亮平くんっ、隼人…ごめんなさ…でもっ、俺心配で…うっ…ふえぇん…っ。」
「ご、ごめん…。」
「違うのです…っ、俺が悪いの…でも心配で…っ、うぅ…えぇ…。」
「いや…違う…。」

違うんだ…志摩は悪くないんだ。
志摩はただ、仲の良い友達の心配をしていただけなんだ。
それに漬け込んだ俺が悪いのに…。
どうしてそうやって謝ったりなんかするんだ…。
どうして、なんて答えはわかっている。
俺のことが好きだからだ…それしかないんだ。
わかっていながら俺は確かめるようなことをしてしまった。
それはやっぱり完全に俺が悪いと言うことだ。


「電話…ひぃっく…っ、電話してみていいですか…っ?」
「あ…うん…。」
「終わったら…終わったらちゃんとお仕置き受けます…っ。」
「え……。」

志摩は多分、物凄く動揺をしてしまっている。
銀華さんのことが心配で、なのに寝てしまった自分がいて、そんな時に俺に触られようとして…。
ただ動揺のためにわけのわからないことを言ってしまっているだけだ。
だけど言ってしまった事実は消すことが出来ない。
俺はこの耳で、志摩の言葉を聞いてしまったんだから。


「あれー?亮平君出ないよー!あっ、猫神様も電源切ってる…。洋平くんいるかなー?」

俺が一人で悩んでいるのも知らずに、志摩は一生懸命になって電話と睨めっこしていた。
俺が銀華さんに言ったことは本当で、志摩は友達というものを大事にする奴だ。
そんな心優しい志摩が好きで、志摩が悲しむ顔は見たくない…それも本当だ。
それなのにいちいち嫉妬してしまう自分が、何だか情けなくなってしまった。


「あっ、猫神様ぁー!俺ずっと心配だったのに亮平くん電話くれないんだもんー!」

果たして俺は志摩の言葉通りお仕置きをするべきなのか。
それともあれは動揺していたんだな、と優しい言葉をかけてやるべきなのか。
志摩が大騒ぎで電話をする中、俺は延々と悩み続けた。






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