「All of you」番外編「sweet punishment」-2




「う……ふぇ…っ、隼人ー…。」

穏やかになった気分でリビングに戻ると、そこには大きな目にうるうると涙を滲ませた志摩がいた。
もう怒るのはやめよう…、今度から気をつければいいんだ、そう言ってやろう…。
俺は堪らずにその身体を引き寄せ、きつく抱き締めた。


「えっえっ、う…っ、何でもするから許して下さいー!」

それなのに、腕の中で志摩がそんなことを言うから…。
だから俺はすぐに悪巧みをしてしまうんだ…。


「本当に何でもするのか…?」
「はい…っ!あ…でも俺お金は持ってないです…うっうっ。」
「いや…金はいらないけど…。」
「じゃ、じゃあどうすれば許してくれますかっ?何あげれば許してくれますかっ?」

同じ家に住んでいて、おまけに恋人同士なのに金なんか取ってどうするんだ…。
金だけじゃなく、俺がそういう物に対しての執着があまりないということを、まだわかっていないんだろうか。


「それは…。」
「う…何も持ってないよー…。あっ、そうだ!」

持っているだろう?
その小さくて柔らかくて感じやすい身体を持っているじゃないか。
俺はその身体が手に入ればそれでいいんだ。
そう言ってしまおうかどうか迷っている時、俺の腕からするりと志摩が抜けてしまった。


「こっ、これ!!」
「それは…。」

ぱたぱたと走って台所に向かった志摩は、紙箱を抱えて戻って来た。
封が切られたそれを俺の前に差し出し、ぎゅっと目を瞑っている。


「な、内緒で買っちゃたんだけど…、隼人にあげます!高級エビせんですっ!」
「い、いらない…。」
「えー!これじゃダメですか?!」
「内緒も何も隠してたのは知ってたし…。」
「えぇっ?!な、なんでわかったのー?!」
「なんでって…。」

実は数日前、キッチンの流しの下の鍋なんかが置いてある場所で、俺はその箱を発見していた。
しかもそれは志摩が鍋を取ってくれと言ったのがきっかけだった。
普段は見掛けないような物があったら、誰でも目に止まってしまうだろう。
その次の日に見た時には明らかにその中身が減っていて、俺がいない時に隠れて煎餅をかじっている志摩の姿を想像すると、可笑しくて堪らなくなってしまった。
嘘を吐けない志摩がそのことをいつ言うのか、少しだけ楽しみにしていたのだ。


「あっ、じゃあ…。」
「ぬいぐるみはいらないからな…。」
「えぇっ!!俺まだ取りに行ってないのにー!」
「しかもほとんど俺が買ったやつだろ…。」

くるりと後ろを向いてまたどこかへ行こうとする志摩の足が、ぴたりと止まった。
だいたい単純な志摩がしそうなことぐらい、簡単に想像がつくというものだ。


「志摩は本当にバカだよな…。」
「う……。はい、志摩はバカです…。」
「まだわからないのか?」
「え……?あの……は、隼人…っ?!」

どうしてこんなにバカなんだろう。
どうしていつまで経っても俺がしそうな行動がわからないんだろう。
どうしてそんなに可愛いんだ…。
どうして……。


「これがいい…。これくれたら許してやる…。」
「わっわっ!隼人…っ!」

俺は志摩の腕を引っ張って床に倒し、グレーの柔らかな生地で出来た七分丈のズボンを下着ごとずり下ろした。
志摩は突然のことに驚いて抵抗も出来なかったけれど、何とか上に来ている服の裾で剥き出しにされた下半身を隠そうとしている。
そんなことをしても無駄だと言うことも、いつまで経ってもわからないみたいだ。


「これが…。」
「あっ、あの…、隼人俺のズボンが欲しいの?こんなので許してくれるの?!」
「……は?」
「ち、違うの?じゃあ俺のパンツが欲しいとか?!でもこれ隼人も持ってる…。」
「な…、なんで俺がそんなの欲しがらなきゃいけないんだ…!」
「そ、そうだよねっ!えへへー、パンツは全部お揃いだもんねー?」

俺がそんなものをもらっても嬉しいわけがない。
だいたい、志摩の穿いているズボンなんかが俺に入るわけがない。
下着がお揃いなのは志摩が勝手に同じ物をサイズ違いで買って来るからだ。
それを勝手に風呂場の脱衣カゴに入れるから、お揃いになってしまうだけだ。
それより何より、その言い方だと俺がそういうものを収集するマニアみたいに聞こえるじゃないか …!

志摩自身は言葉の通り、深い意味なんか込めてはいないのかもしれないけれど、誰かが聞いていたら誤解を招かれても仕方がないような台詞だ。
確かに本音を言えば、嬉しくないということもないかもしれないけれど…。
って…俺は何を考えているんだ…!


「はぁ……。」
「ほぇ?隼人ー?どうしたの?」
「いや…もう…。」
「それよりあの…、俺寒いです…。」

志摩は少し赤くなりながらもじもじして、俺の下でぼそりと呟いた。
そんなに引っ張ってももう伸びないと言うぐらいありったけ伸ばされた服の下には、俺の欲しいものが隠されている。
その仕草と格好がとうとう俺の欲望に火を点けてしまって、もうこれ以上は何が何でも我慢が出来なかった。


「そうだな…。」
「え…?あの……わっわっ!」
「そういう時は熱くなるようなことをすればいいんだ…。」
「ひゃ……!あっ、あ…ぁんっ!!」

俺は志摩が押さえていた手を無理矢理外し、服を胸の辺りまで捲った。
そんなことだろうとは思っていたが、やっぱり志摩の下半身の中心部は少しだけ変化をしてしまっていた。
俺が手を伸ばしてそれに触れると一気に勃ち上がり、やがて先端から透明な液が溢れ始めた。


「やぁ…っ、隼人っ、も…俺……っ!」

志摩は涙を零しながら俺にしがみ付いて、甘い声を上げ、早くも達しそうになっていた。
いつもならそれを楽しむはずが、今日の俺はあの寂しさに戸惑ったのと嫉妬のせいで、意地悪の仕方までおかしくなってしまっていた。


「はや……ひゃんっ?!」
「志摩…お仕置きだからな…。」
「おしお…き…っ?あ……はぅん…っ?!」
「そうだよ…。」

今にも先端から白い飛沫を上げそうな志摩のそこを指先で塞いで、茎の部分をきつく握り締めた。
志摩は何が起こっているのかわからない様子で、おかしな声を上げて一瞬身体をビクリと震わせた。
バタバタ動いている脚を大きく開かせて後ろの入り口に指をあてると、志摩の身体は床の上を大きく飛び跳ねた。
丸まっているところや跳ね方がそれこそ志摩の大好物のエビみたいで、こんな悪いことをしている時なのに可笑しくなってしまった。


「あー…っ、隼人…っ、ごめ…なさ…俺……っ!隼人ぉ…っ!!」
「志摩はどうして欲しいんだ…?ちゃんと言ったら許してやるよ…。」
「俺…っ、俺ぇ……、もう…いっちゃ……っ!苦し…よぉ…っ!」
「ほら、どうして欲しいんだ…?」
「それや…だぁ…っ、手…っ、隼人おねが……ふぇ…っ。やぁ…っ、も…だめぇっ、おねが…うえぇっ、ひっく…っ。」

志摩は余程苦しいのか、どう頑張っても俺の手に触れることすら出来なかった。
ただ大きな口をあけて泣きながらビクビク震える志摩が、堪らなく可愛い。
それを口にしたら、志摩は呆れてしまうだろうか…。
それとも俺を意地悪だと泣きながら責めるだろうか…。
俺は志摩の下半身を弄り続けながら、そのどちらでもないことを祈るばかりだった。


「お願いしま…っ、ごめ…なさ…っ、ふぇ…うっく…っ、いきたいよぉ…っ、手…おねが…しま…っ!」
「志摩……。」
「隼人お願い…っ、俺もうだめぇ…っ!いっちゃ…っ、いきたいよぉ…っ!!…かせて…ださ…っ!!」
「…………っ。」

我慢が出来なくて苦しいのは、志摩だけではなくて、触れていただけの俺まで下半身はとんでもないことになっていた。
早く志摩の中に入って一つになって、同じ熱を分かち合いたい…。
俺は志摩の後ろからずるりと指を引き抜き、既に限界に達しそうな自身をそこに捩じ込んだ。


「あ…ああぁ……っ!!いた…っ、痛いっ、やあああぁ───…んっ!!」
「………っく…。」

解すのが足りなかったせいか、志摩のそこはいつもより狭く感じた。
熱く蕩けそうなその中で自分自身を動かそうとしてもなかなか上手くいかなくて、もどかしさに顔を歪める。


「隼人ぉっ、おねが………あ……?!あ────…っ!!!」

体勢を入れ替えて上から力一杯突く前に、志摩の下半身を塞いでいた指を外した。
一瞬にして志摩は大きく目を見開いて、俺の腹部めがけて勢いよく白濁を放ってしまった。


「う……ふぇ…っ、あっ!やぁっ、隼人だめえぇ…っ!!」

志摩が真っ赤になって泣き出そうとする暇を与えずに、俺はその身体を激しく揺さ振った。
今放ったばかりだと言うのに、志摩のそこはすぐに次の機会を迎えようとしていた。


「やだぁっ、また…っ、またいっちゃうっ!隼人いっちゃ…っ!!」
「いいから……っ。」
「やぁっ、も…だめぇっ!も…いっちゃ……あ────…っ!!」
「………っ…!」

口を塞ごうとする志摩の手を頭の上で押さえ付け、物凄い速さで上から揺さ振りを繰り返した。
志摩が放ったのとほぼ同時ぐらいに俺も絶頂に達して、熱いその中から白濁液と共に自身を引き抜いた。


「う…っ、隼人…っ、俺…っ。俺のこと…許してくれますか…っ?」
「え……?」

まだ息がきちんと整わない中、志摩は泣きながら俺にしがみ付いて来た。
すっかりセックスに夢中になってしまった俺をよそに、まだそんなことを気にしていたらしい。
本当は最初からそんなことはどうでもよかったんだ。
ただ志摩に触れたくて、俺のことでいっぱいなんだということを確かめたかっただけだ。
それなのにせっかくだから…なんて、この後に及んでまだ俺は意地悪を続ける気でいた。


「えっえっ、隼人ー…。ごめんなさいなのー…。」
「もうわかったから…。」
「ゆ、許してくれるのですか…っ?」
「うん……、ただ…。」
「はいぃー…。」
「またやったら…さっきのするからな…。」

意地悪は素直になれない俺にとっての、一つの愛の表現方法だ。
それはもちろん言い訳や身勝手意外の何物でもなくて、犠牲になる志摩が可哀想だと言うこともわかってはいる。
だけど志摩が俺に潜んだ悪意に気付くまでは、止めることは出来ないだろう。


「お…お仕置きですか…?」
「うん…。」
「うんと…えっと……。」
「志摩…もしかして……興奮しちゃったのか…?」

俺が耳元で囁くと、志摩はまた身体を震わせて真っ赤になってしまった。
濡れた下半身までまた僅かに反応しているあたり、俺の言っていることは図星のようだ。


「ち、違いま……っ!」
「バカ……。」

バカだなぁ…。
気持ちよくなっていたんじゃ、お仕置きにならないじゃないか。
だけどそういうところが、この世の誰よりも可愛いと思うんだよな…。


「あのっ、あの…っ。」
「何…。」
「は、隼人も電話…とってくれますか…?」
「………え?!」

もう一度志摩に触れようとしたその時、俺は全身の血の気が引いて行くのを感じた。
まさか…俺が鞄に入れている間に志摩は…。
そう言えば家に帰って来てからも、俺は携帯電話を見ていない。


「俺…迎えに来てって電話で言おうと思って…っ、でも隼人電話出てくれなくて…っ。一人で帰ろうとしたら洋平くんが送って行ってくれるって…。」
「な、なんでそれを早く言わないんだよ…。」
「さっき言おうと思ったら隼人いっぱい怒ってて…、でもも何もないって…。」
「………。」

俺は本当に何をやっているんだろう。
志摩のことをバカだと言う前に、自分が一番バカじゃないか…。


「でも元は俺が悪いんだもん…。お布団出しっ放しにして行っちゃったから…。」
「いや…もういいんだ…。」
「ホント?もう怒ってない?」
「怒ってないよ…。」

自分のしてしまったことに対する後悔と、溢れて止まらない志摩への愛しさにやられて、俺は言葉も出なくなってしまった。
それでも素直に謝れない俺は、逆に自分がお仕置きされた気分で、優しく志摩の身体を抱き締めながら頬にキスをした。





END.





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