「MY LOVELY CAT」その後の二人編「MY SWEET DAYS」-1




実は俺は今、とっても幸せなのだ。
だって大好きだった志季が、俺のことを好きになってくれたんだから。
これからは毎日一緒にいられて、毎日ぎゅって抱き締めることが出来るんだ。
俺にとってはこれ以上に幸せなことはないと思っている。


「志季ぃー、志ー季っ、志季ー?志季〜!」
「もーうっ!何っ?!一回呼べばわかるよ!!」

でも志季はとっても恥ずかしがりやさんだ。
その恥ずかしさを隠すために意地悪なことやひねくれたことばかり言う。
俺から見ればそんな志季が可愛いんだけど、それを言うと真っ赤になってまた怒ってしまう。


「志季〜、ご飯は?俺腹減った!」
「い、今から行こうとしてたんだってば!虎太郎もさっさと帽子被って着替えてよ!」
「うん、わかったっ!」
「まったくもう…。」

志季は俺が猫だった時から、隣の家…つまり俺が住んでいた志摩と隼人の家でご飯を一緒に食べていた。
どうやら志季は料理が苦手らしくて、志摩が一緒に…と誘ったらしいのだ。
時々志摩が大事に取っておいたお菓子も食べちゃうことがあって、そんな時志摩は隠れて泣いていた。
俺はそんなことをする志季が許せなくて、顔にダイブして思い切り引っ掻いたのが、すべての始まりだった。
その後もいちいち突っ掛かって来る志季から目が離せなくなって、気になって仕方がなくて、いつの間にか好きになってしまったというわけだ。
こいつにも傍にいてくれる奴がいればなぁ…それが俺だったらなぁ…いつも祈っていた。
その願いを叶えてくれたのが猫神様という奴だ。
色々と変な魔法で苦労はしたけれど、俺達は今こうして一緒にいることが出来るようになった。


「えへへー、志摩ランチだよー。あのね、今日は鶏肉が安かったら鶏肉セットなのー。」
「わー!いい匂い!美味そう!!志季、見て!これ美味そう!!へっへー、志摩の料理は全部美味しいもんな〜♪」
「ふ、ふんっ、別にこんなのただの肉とご飯でしょ?誰だって出来るよっ。」

実は志摩は顔に似合わず、料理がとても上手だ。
俺が猫だった時も、キャットフード以外にも手作りのご飯(志摩特製愛情たっぷりねこまんまがお気に入りだ)をよく出してくれた。
時々ご褒美で人間が食べるおかずもくれたことがあった。
でも志季はそんな志摩のことを相変わらずいじめている。
なんでだろうなぁ…志摩はこんなにいい奴なのに。


「あー、志季、付いてるぞ!」
「え…?うわああぁ!!ななな何すんのっ!!」

ご飯粒が志季の口元にくっ付いているのを見つけた俺は、それを舌で取ってやろうと思った。
近付いてぺろりと舐めると、志季が大声を上げて俺を突き飛ばそうとする。


「えー?だって付いてたから…。」
「つっ、つつつ付いてたってそういうことはしなくていいの!!」

志季はタコさんみたいに真っ赤になって怒っている。
そういう顔も可愛いんだけどなぁ…志季は自分でわからないのかな…?
一緒にご飯を食べていた隼人が少しだけニヤリと笑っているのを見ると、志季は余計怒ってしまった。


「えー、でも隼人も志摩によくやってるよな?!」
「え…!あ…いや……。」
「やぁー!こ、虎太郎ってば恥ずかしいよー!!」
「そ、そんなこといつもしてんの…?!」
「うん、やってたぞ!ペロペロしてそれからちゅーしてそれから…。」
「も…もうやめてくれ…。」
「そうだよー!志季の前で恥ずかしいっ!」
「こ…このバカップル…っ!!」

バカップルっていうのは、その名の通り、バカなカップルのことだそうだ。
人前でイチャイチャしたり、デレデレしたり…幸せというのをめいっぱい出して、周りから見たらバカみたいなカップルらしい。
隼人と志摩がそのバカップルだということは俺もちょっとだけ気付いていたけれど、俺としてはそれが羨ましいと思うんだ。
でも隼人はそういうことを言うと絶対に違うと言うし、志摩は嬉しそうにしながらも恥ずかしいと言う。
どうしていつもみたいにイチャイチャしないんだろう…?
やっぱり志季がいるからかな…?


「ご馳走様!じゃあね!」
「あっ、志季待って…。」
「虎太郎は食べてからでいいよ。別に僕について来なくてもいいから!」
「えー…。志季ぃ〜…。」

志季は機嫌を悪くしてしまって、急いでご飯を食べ終わるとさっさと行ってしまった。
俺はまだこの姿になったばかりで、箸というものが使えない。
手掴みはダメだと志季が言うからちょっと簡単なスプーンというやつでなんとか頑張っているけれど、元々人間だった志季には敵うわけがなかった。
残された俺は大急ぎでご飯を平らげて、その後を追い掛けるようにして隣の部屋を目指した。


「志季ー、外で遊ぼう?」

俺は家に戻ると、志季を遊びに誘った。
台所で何やらゴソゴソやっていた志季は、僕を睨み付け、つんと顔を逸らしてしまった。
まだ何か…怒ってる…?


「勝手に行ってくれば?」
「一緒に行こうって言ってるんだってば!」
「僕は忙しいの!邪魔しないでよっ!!」
「ちぇー…、志季の意地悪…いじめっこ…ひねくれんぼ…。」
「何か言った?!」
「な、なんでもない!行って来まーす…。」

志季はどうしたら楽しい思いをしてくれるんだろう?
志季はどうしたら喜んでくれるんだろう?
志季はどうしたら笑顔を見せてくれるのかな…。
俺の頭の中はいつも志季のことばかりで、何だか俺だけがこうなっているみたいで時々悔しくなってしまう。
いくら志季が素直じゃないってわかっていても、ああいう態度をとられると時々悲しくなっちゃうんだよな…。
志季は俺のことを本当に好きなのかなぁって思っちゃうんだ…。


「あれー?虎太郎何やってるのー?」
「…あ、志摩だー。うんと、ゴロゴロして遊んでる!」

俺が庭の緑の上で寝転がって遊んでいると、大きな袋を持った志摩が通りがかった。
あれはゴミを入れる袋で、志摩がいつも外に出しているやつだ。
薄いピンク色の可愛いエプロンなんか付けて、志摩ってば奥さんってやつだ…。


「えへへ、気持ちいいねーここ。」
「うんっ!でもー…。」
「どうしたの?」
「でも志季はやなんだって。俺と一緒に遊びたくないんだってさ。」
「虎太郎…?」
「志季…俺のこと本当は嫌いなんじゃないのかな…。」

俺は人間になって(まだちゃんとはなってないけど)初めて、恋というやつがこんなに難しいことだと知ったような気がする。
猫だった時も他の猫に恋をしたことがあったけれど、それよりずっとずっと難しい。
俺は猫で志季は人間という分だけ、上手くいかないことが多いみたいだ。
実は最初はこんなに苦労するなんて思わなかったんだ。
志季が言っていた通りそれが壁になったことは、否定出来なくなってしまった。


「そ…そんなことないよっ!」
「志摩…。」
「大丈夫だよ!虎太郎は自信持っていいと思うよ!俺応援してるからっ、虎太郎と志季のこと応援してるっ!」
「志摩ぁ〜…。」

やっぱり志摩は優しくていい奴だ。
短い間だったけれど、俺のことを誰よりも可愛がってくれた。
一緒に寝てくれたし、一緒にお風呂も入ってくれたし、おやつもいっぱい買ってくれたし、美味しいご飯もいっぱい作ってくれた。
虎太郎はカッコいいって言って、いつも褒めてくれた…。






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