「ハッピー・バースディ 2」-1




大好きな人の誕生日。
一年に一度しかないその日はその人にとって最高の日にしてやりたい。
そう思うのは恋人として当たり前で、俺だって今年もそのつもりでいた。
しかしその前日になって、恋人であるシロから言われた言葉は、俺の心臓を打ち破るかのショックを与えた。


「明日シマと遊びに行くんだ〜。」
「…は?」

俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
だってシロは絶対に自分の誕生日は俺といるものだと思っていたから。
それが出た名前が俺じゃなくて「シマ」とは…。
シマというのはシロと一番仲のいい友達というやつだ。


「どうしたんだ亮平?」
「い、いや…、そのー、明日って…。」
「シマがオレにケーキご馳走してくれるって!」
「へ…へぇ〜…。」

もしかして自分の誕生日を忘れているのかと思いきや、確実に覚えているようだ。
俺としてもシロはバカでもそれぐらいは覚えているはずだと思っていた。
だけどその平然とシマとのことを言うのはどうしてだ?
一般常識的に考えて俺と過ごすのが普通ってやつじゃないだろうか。


「へっへ〜、楽しみ〜♪プレゼントもくれるって!」

そんなに楽しそうにして…、もしかしてシロは俺よりシマを…?!
まさかとは思うがシマと浮気なんかしてるんじゃないだろうな…?
いや、そんなはずはない、俺が大好きだってしょっちゅう言ってるぞ…?
それに俺とはちゃんと愛の証として…。
俺は自分で自分に自信を持とうと、一番最近シロを抱いたことを思い出した。


「う…っそ、マジかよ…。」
「亮平?どうしたんだ?」

指折り数えてみても、一週間は経っている。
今までは最低でも一週間に二回はしていたはずだ。
ブツブツ呟く俺を心配して、シロが顔を覗き込んで来る。


「シ…、シロ…。」
「ん?なんだ?」
「それ…、俺も行く…、行っていいだろ?」
「え…?亮平もか?別にいいぞ。」

別にいいぞ…?!
俺はその「別」の扱いなのか?!
その言い方だと俺よりシマの方が上っぽいじゃねぇか。
嫉妬に震えながらなんとかこの場だけは抑えようと、努力はしてみた。
だけど近付いて来るシロの顔に、俺の理性の方はたちまち崩れてしまう。


「シロ…、もっとこっちに来いよ…。」
「どうし…んっ、ん…っ!」

目の前のシロの顎を引き寄せて、唇を重ねる。
そう言えばこうしてちゃんとキスするのも前より少なくなった気がする。
舌を絡ませて唾液を注ぎ込みながら、キスは激しさを増していく。


「ほら、もっと…。」
「ん…っ、亮平…っ、ダメだ…っ。」
「え…?!」
「あ、明日歩けなくなったら…っ!」

俺はもう、その先に進めなくなってしまった。
それもシマと遊ぶのためだって言うのか?
キスには応えるのに身体を繋げられないなんて、どうしたらいいって言うんだ。
しかも今のだと拒否されたのと言ってもいいぐらいだ。


「そうだな。明日はシマと遊ぶんだもんな。」
「うんっ!」

そうか…、シロ、お前はとうとう俺を捨ててシマのところへ…。
考えたくもなかったけれど、俺の胸の中をそんな不安が支配する。
俺じゃなくたってこんな風にされたら誰だってそう思うに決まっている。
これ以上無理矢理するのも俺には出来なくて、仕方なくその日は早めに眠りに就いた。






「シロー!」
「あっ、シマ〜!」

翌日、シロの誕生日当日になった。
午前中から待ち合わせをしていたシロは張り切って準備をして待ち合わせ10分前には到着した。
そこにはシマも着いていて、どうやらシマの恋人の水島はいないようだった。
それはつまり、完全に二人で出掛けるつもりだったということだ。


「えへへー、誕生日おめでとうございます!」
「おお!オレ嬉しい〜。」
「あっ、あれ??亮平くんも来たの?それなら…。」
「シ、シマ…!」

亮平くんも、って…。
しかもなんだか二人でコソコソしている。
あくまでこれは二人の計画で俺はついでということらしい。
シロの恋人は俺だって言うのに、これじゃあ俺が二人のデートの邪魔をしているみたいだ。
こんなのって有りかよ…?
しかしそこで帰るのも悔しくて、結局俺は二人について行くことにしたのだった。

その後は最悪もいいところだった。
ショッピングをしていれば二人でお揃いにしようだとか。
俺も、と口を出せば亮平には似合わないなんて言われるし。
ケーキを食いに行ってもメシを食いに行っても、二人で喋りまくってるし。
だんだん俺は情けなくなって来て、これなら来るんじゃなかったと思い始めていた。


「シロー、アイス食べようよ!」
「おお!食う〜!どれにしよう?チョコかな〜、イチゴかな〜、シマは?」

挙げ句の果てに手まで繋いでいる二人を見て、とうとう俺の中の何かが切れてしまった。
俺のことなんかどうでもよくてシマと楽しんでいるシロに、怒りに似たような感情を覚えてしまったのだ。
本当に、どうしようもないガキみたいなんだけど。


「シロ、お前楽しそうだな。」
「うん!楽しいよな?なーシマ?」
「うんっ!」

俺の気持ちなんか知らないでアイスを頬張るシロに、俺のその感情は暴走を始める。
絶対にシロに言っちゃいけないと思っていたことも、平気で言ってしまうなんて。


「だったらシマに拾われろよ…。」
「亮平?どうしたんだ?昨日から変…。」
「そんなにシマが好きならシマに拾ってもらえって言ってんだよ!」
「亮平…?」

周りに人がそんなにいなかったからいいものの、よくこんなところでこんなことを出来たもんだ。
だけどこの時はもう我慢も限界で、どうしていいのかわからなかった。
だからシロに全部ぶつけてしまった。







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