「fragile」-7




「やっぱ…風呂でそのまますりゃよかったかもな…。」
「は…ぁっ、何を…っ。」

途中から本降りになってしまった雨に、走りながら戻って来た。
銀華が嫌だと言うから仕方なく風呂も別々に入った。
普段から、一緒に入ろうとすると極端に嫌がられる。
それも全部、恥ずかしさのせいだとわかっているから、俺も無理にはせがまなかったけれど。


「だってこんな濡れて…。」
「…あ!……んっ、やめ…っ。」

後から入浴した俺が上がった途端に、二人で布団へと傾れ込んだ。
お互い同じシャンプーと、石鹸を使っているのに、銀華の身体から漂うのは別の匂いに思える。
厭らしくて、ずっとその肌に触れていたくなるような、妖艶な蜜の匂いだ。
俺はその匂いに惹きつけられてそこから離れることが出来ない何かの虫みたいだ。


「舐めていいか…?」
「訊くな……っ。」

下半身から漏れる液体を絡めた手で、銀華の脚をぐっと開く。
その股間に顔を埋めて、膨張した銀華のそれを口に含んだ。
同じ男の、同じものなのに、俺は迷うこともしない。
同性だと言うことは気にする必要もない。
俺は銀華が好きなだけで、それが男だとかは関係のないことなのだから。
わかっていたつもりでも、どこか気にしてしまっていたのかもしれない。
それが銀華にもわかられてしまって、遠慮して俺に気を遣わせてしまっていたんだ。


「……ん…ふっ、ん……っ、洋平…っ。」

自分の唾液を絡ませながら、口内を出し入れする。
銀華ふは時々溜め息混じりに高い声を上げながら、身を捩る。
腰元が動くのを目の前にして、俺自身も既に完勃ちになってしまっていた。


「あ…っ、もう…っ、もうっ、洋平…っ。」
「え…、でもまだ…。」

震える銀華の手が俺の頭を掴んで無理矢理剥がした。
まだ口淫を始めてものの数分も経っていなくて、俺は動揺してしまう。


「いいから…っ、早く…来い…っ。」
「い…いいのか…?」

確かに俺ももう限界だった。
しかし慣らしてもいない後ろに入れるのは容易いことではない。
いくら今まで何度も挿入したからと言って、何もしていない状態でしたら、俺もきついけれど、それ以上に銀華がきついに決まっている。
運が悪ければ、その内部に傷でも付いてしまうかもしれない。


「早く…、お前に入って来て欲しいのだ…っ。」

銀華の身体を気遣っても、当の本人にそんなことを言われては堪らない。
その震える手で自らの後孔を開いて見せるように誘われたら、理性なんかどこかへ吹っ飛んでしまう。
涙目になって、俺が欲しいなんて訴えられたら。


「………っ!!洋平……っ!ああぁっ!!」
「ごめん…っ、解してなかったから…っ。」

圧迫感に何も言えなくなった銀華が、俺の言葉に対して首を横に振る。
それはいつもこういう時にする仕草で、大丈夫だ、を意味しているのだ。
普段は冷静で、表情もあまり変わらない銀華が唯一見せるあからさまな表情の変化。
それを見ることが出来るのは、こうして銀華とセックスが出来る俺だけだ。


「銀華…っ、好きだ…っ、銀っ、好きだ…っ。」

俺は何度も好きだと叫んで、銀華の隅々まで味わった。
それに応えるようにして銀華の身体は何度も俺を受け入れた。
幾度となく達してお互いの全身がもう何で濡れているのかさえわからなくなる。
最後は意識もなくなりそうな程、激しい行為の後、ぱったりと眠りに就いた。












「……ん…。」

眩しい朝の光で、目を覚ました。
隣にはぴったりとくっ付いて眠る銀華がいる。
普段も、ましてや他人の前なんかじゃ絶対にこんなにくっ付いたりしないのに。
それもまた俺だけが知っている銀華で、俺としては嬉しくて堪らなくなってしまう。


「銀……。」
「…洋……、ん……。」

うわー…、どうしよう、可愛い…。
絶対怒られると思うけど、口に出して言ってしまいたい。
携帯のカメラで撮影して待ち受け画面にだってしたい。
兄を始め、皆に自慢して回りたい。
こんな時は少々変態の入った考えまで浮かんでしまうのだ。


「銀華…、おはよ……。」
「大変だ…。」
「え…?何どうした…?」
「洋平、時計を見ろ…。」

妄想に耽っていると、銀華がぱっちりと目を見開いた。
長細い指先で指された時計に目をやると、店に着いていなければならない時間だった。


「うっそ…!!うわっ、どうしようっ、マジかよ!!」
「急げばまだ何とかなるので……つっ!」
「うわっ、ごめん…!だから昨日…。」
「よいから…、私のことはよいから早く行け…っ!」

なんて間抜けなことをしているんだろう。
今まで寝坊なんてほとんどしたことがなかった。
朝起きるのは癖になっていて、休日だってきちんと朝に起きているのに。
仕入れがある時なんかは夜明け前に行くことだってある。
それだって苦になることもなく、当たり前に起きられたのに。
こういうのを、恋でバカになるって言うんだろうか。
それならそれで、楽しいなんて思ったら、また銀華に怒られるだろうか。


「あ…、そうだ…。」
「何をしている?早く行かぬか。」

急いで顔を洗って着替えをして、玄関へ向かった。
銀華が痛む身体で無理して見送りに来る。
靴を履きながら、俺が迷っていたもう一つのことを切り出した。


「今度からもうちょっと遅くなってもいいか…?その、残業とか多くなるかもしれないし…。」
「それは…、あの話を受けるということか?私は構わぬ、気にするな。」
「うん、そんでさ、頑張って稼いで金貯めて二人の新居とか建てたいよなー。」
「ば…、馬鹿者…っ、朝からそのような…。」

いつになるかなんてわからないぐらい夢みたいな話だけど。
夢見るぐらいはタダだし、夢見てたら叶う気もする。
バカだ、って言ってもいいよ、でもそんな俺でも好きだって言ってくれるだろう?


「んじゃ、行って来ます。」
「………!!な、何をする…!!」
「はは、行って来ますのちゅーだよ、んじゃ行って来る!」
「馬鹿者…。」

調子に乗った俺は、銀華の頬にちゅっと音をたてて軽くキスをした。
真っ赤になって怒る銀華はやっぱり可愛いと思ったけれど、それは帰ってから言うことにする。
少しずつでいい、何かが変わって行けたなら。
変わりながら、続いて行けたなら。
そして俺は、もっと銀華を守って行ける強い男になれたらいいと思った。






END.







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