「神様も恋をする」その後編「神様がお邪魔します」-2




「もーっ、アオギ押さないでって言ったのにー!」
「悪い悪い、シマにゃんこに早く見せたくてよー。」
「え…?」
「な…!」

その時突然、部屋の壁に大きな穴が開いて、そこから人間が飛び込んで来たのだ。
一瞬何が起きたのか、俺も志摩もわからないぐらい、それは突然のことだった。


「わぁ!ご、ごめんなさい志摩ちゃん!」
「あぁすまん、交尾中だったか。悪いなーははは。」
「シ、シマにゃん…!」
「な、何が起きた…。」

始めは驚いていた志摩と、そいつらがお互いを呼ぶ名前で、やっと俺は状況を把握し始めた。
志摩が人間の姿をした猫のシマに、泣きながら飛び付く。


「シマにゃんー!待ってたんだよー?」
「志摩ちゃん!僕嬉しいよー。あのね、アオギが向こうとこっちの道作ってくれたんだ!」
「わーホント?すごいね猫神様!」
「まぁな、ちょろいもんだぜ。」

そいつらのうち一人は猫のシマだということがわかった。
だけど二人が抱き合うのを面白そうに見ているのは…?
猫神様…って、つまりは、そのまんまだよなぁ…?


「これでいつでも来れるんだよ。僕とアオギの部屋と繋がってるの。」
「うわー!猫神様、ありがとうございます。」
「ん、いやいやよかったよかった。そんなに喜んでもらえるとはな。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…。」

俺だけがよく事情を理解出来ないまま、勝手に皆が盛り上がる。
いくら志摩が喜んでいても、こんなこと許すわけにはいかない。


「全然よくないんだけど…。」
「おおぉー!これが隼人くん、ってのか?」
「そうですけど…。」
「俺がシマにゃんこの恋人だ。なんとなく猫の神様もやってるけどな。」
「はぁ…。」
「いやしかしカッコいいなお前。背もデカいし。さぞかしあそこもデカいんだろうなぁ…ひゃひゃ。」
「な…!」
「ぶはは冗談冗談、挨拶だ。」

な、なんて奴…。
シマにゃんこ?なんとなく神様?…デカいって……。
ひ、人の股間ジロジロ見た挙げ句、最後に下からひと撫で…!
俺はその、アオギという猫神様の初対面であるまじき態度に、呆然としていた。


「悪いなー志摩ちゃん、交尾してたんだろ?よし、シマにゃんこ、ちょっと外で待とうか。」
「うん!待つー!」
「や、あの…!そそそんな…!」
「ん、気にするな、いいぞ、思う存分やってくれ。」
「していいよ志摩ちゃん。」
「シ、シマにゃん、恥ずかしいよー!」

思う存分やってくれなんて言われても出来るわけがない。
そんな外で待っていられて、落ち着いてやれるか。
猫のシマはすっかりアオギと同じペースだし、志摩も志摩で便乗しそうな勢いだ。


「今後も心配しなくていいぞ。ほらここにボタンがある。」
「アオギなぁにそれ?」
「ホントだ…。なんかボタンあるー。」
「交尾中はこれを押しておけ。そうすれば出入り出来ないから。」
「すごーいアオギ、交尾ボタンだね。」
「えぇっ、そんなぁー!恥ずかしいよー!」

俺は、呆れて物が言えなくなる状態だった。
猫のシマは何も知らないで言っているんだろうけれど、そんな神様がどこにいるって言うんだ。
もういい加減にしてくれ、出て行け、そう言おうとした時に、志摩と目が合う。


「隼人!これでシマにゃんといつでも会えるねー。」
「そ…、そうだな…。」

あまりに嬉しそうな笑顔を目の前に、負けてしまった。
情けないけれど、俺は志摩の笑顔には敵わないのだ。
笑顔だけじゃない、志摩という人間そのものに敵わない。
こういうのを惚れた弱みと言うのだ、と俺も志摩と出会って初めて知ったのだった。


「よかったー。シマにゃんもお菓子が好きなんだね。」
「うんっ!好きー。ねー?アオギ。」
「ん、よかったなシマにゃんにゃーん。」
「…………。」
「あれ?隼人どうしたの?」
「隼人くーん?」
「ホントだ。よーしなでなでしてやるぞ、隼人にゃーん。」
「やめて下さい…。」

それからの俺は、すっかり他の三人にのペースに負けてしまった。
猫のシマは志摩に出された団子に夢中で、そのシマにアオギは夢中で。
そんな二人と会えて志摩も夢中で。
俺だけがその楽しい雰囲気に入らずに黙って見ていた。
それでもやっぱり、許せてしまうのは、志摩がずっと笑顔だからだ。
こんな風に楽しくなってくれるなら、黙認するしかない。


「まぁそんな怒るなよ。んな頻繁には来ねぇし。ボタンは冗談だって。出口も別んとこにするし。」
「別に怒っては…。」

帰り際、終始不機嫌だった俺にアオギが耳打ちする。
そこではい怒ってます、出来れば来るななんて言ったらまたペースに巻き込まれると思った。
それでいて話す内容が俺に対しての気遣いだったりするから、余計ペースが崩れる。
ニヤリと笑って俺の肩を叩くアオギは、神様というより、普通の人間みたいだ。


「んじゃあな、志摩ちゃん。」
「はいっ!」
「今度来る時はメールするからよ。あ、アドレス教えてくれ。」
「えぇっ!猫神様はメールなんかするんですか?」
「おっ、猫の世界をナメんなよ?ネットでお取り寄せだってするぞ。」
「すごーい!隼人、すごいねー!」

メールにネット…。
俺が想像していたよりもずっと神界というところは進んでいるらしい。
多分、前の猫神様、銀華さんがそんな感じではなかったから勝手なイメージが膨らんでしまっていたのだろう。
ごく普通に話すアオギに、可笑しさと親しみが込み上げる。


「また来るね、志摩ちゃん、隼人くん!」
「うん、またね。」
「またな…。」

志摩と猫のシマが抱き合ったのには、少しだけ嫉妬心が湧いた。
でもそれは恋愛感情なんかは一切ない、純粋な心なんだ。
本当の親子みたいな繋がりとしての、好きだという感情。


「すごいよねー、猫神様。」
「そうか…?」

二人が扉から帰った後、志摩が感動冷めやらぬまま、呟く。
まるで夢でも見ていたかのように、とろんとした目をして。


「シマにゃん、いい人と結ばれてよかったー。」
「そうでもな……、あー…そうだな…。」

そうでもない、どころかとんでもない。
あんな奴、俺はシマの相手なんて認めない。
そう言おうとして、ハッとしてしまった。
二人が来る前に、志摩が抱いた感情にあまりにも似ていたからだ。
こんな奴なんかに娘はやらん、そう言いそうになる自分に、また吹き出しそうになってやめた。
なんだ…、俺も同じか…。


「えへへー、隼人ー。」
「甘ったれだな…。」

俺達は他人で、シマは猫だったけれど、ちゃんと家族になれていた。
そう思ったら、吹き出すことなんか出来なくなった。
嬉しさで満ちている志摩が、俺の傍へやって来て、抱き付いて来る。
こうしてくっ付いて触れ合ってキスをして、もっと家族になれたらいいと思った。
志摩になら、どれだけ甘えられてもいい。
甘ったれなのは俺なんだから。
そして途中だった行為を再開しようと、志摩を床にゆっくりと押し倒した。







END.






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