「Lies and Magic」二人のその後編3「ハッピー・スィート・ニュー・イヤー」-2




「あの、隼人、初詣…っ。」

羽織っていた猫柄の半纏を剥がし、下の長袖Tシャツを捲り上げる。
いつだったか、どうしてこんなに薄着をするんだ、と聞いたことがある。
そしたら志摩は、イチャイチャしたいから、くっつきたいから、なんて言うから、その時もこうして欲情してしまった。
もちろんそれだけが理由ではない。
背の低い志摩が、長い丈のズボンは似合わないから、といつも半パンツを選ぶことは知っている。
それをわかっていても、俺は意地悪を言ってしまう。
挑発してるだの、誘うためだの。
本当は、自分がそう思いたくてなのに。


「そんなもんいつでも行ける。」
「でも…っ、んぅっ。シマにゃんも見てる…っ!」
「見てない、気にするな。」
「でも…っ、ん…っ。」

この状態になってもまだ初詣のことを言って抵抗しようとする口を塞いだ。
舌を絡めて、生温かい唾液を注ぎ込みながら、口内を隅々まで探るように。
激しいキスでおとなしくなった志摩が、拙くそれに応えてくる。
舌を絡ませようとしても、唇を貪ろうとしても到底叶わなくてそのもどかしい動きが可愛い。
真っ直ぐなこげ茶色の髪を、指に絡ませてくしゃくしゃにして撫でる。


「隼人…っ、びっくりした…。」

びっくりしたのは俺のほうだ。
志摩の一言で、こんなに興奮してこんなことをしてるなんて。
それでも俺のその熱は治まることはなく、ぽけーっと虚ろになった志摩の瞼に、何度もキスをする。


「ひゃ…!」

捲り上げた胸元を、舐め回した。
その先端の突起を舌先で突くと、ぴくりと跳ねた後、固く腫れた。
邪魔になった服を退かせて、何も着けていない状態になった志摩は、
物凄く恥ずかしいんだろう、真っ赤になって目が潤んでいる。
自分で脱いでも俺が見てるし、俺が脱がせても見てるしで、ちょっとだけ志摩が可哀想になった。


「いつからこうなってた?」
「…わかんない……。」
「キスから?それとも触ってから?」
「わ、わかんないです…っ、あっ、やだ…っ!」

変化した下半身に手を伸ばして包み込む。
天井を向いてしまったそれは、膨張して先端から透明な雫が垂れていた。
迷わずにそれを口に含むと、志摩の手が俺の頭を押さえた。


「ダ、ダメです…っ、俺お風呂入ってな…!エッチはダメで…っ。」
「別に風呂入らなくてもしてもいいんだけど。」
「そ、そうなの…っ?!」
「そうだよ。」

絶対どこか抜けてるんだよな…。
本当に、バカっていうか間違った知識信じてて。
本当に面白くて、飽きなくて、可愛くて…。
俺はどうしたら、志摩に似合う男になれるんだ…?
いくら隼人がいい、って言ってくれても、時々そう思ってしまうぐらいなんだ。


「…あっ、あっあっ、やぁ…っ!」

志摩の細い腰を持ち上げながら、口淫を続ける。
自分の出した唾液と志摩の先走り液が混ざり合って、静かなキッチンに異常に響く。
時々志摩が動くと床が擦れて、このままでは背中が痛いだろうと、
一瞬ふわりと軽い身体を持ち上げて、下に脱がせた服を敷いた。


「隼人…、…っちゃう、俺、いっちゃう…っ。」
「まだ…。」
「え…?……ひゃあぁっ!やだぁっ、あっ!やぁ……んっ!」
「嫌なわりには凄いけどな。」

バタバタ動く脚を掴んで、思い切り高く持ち上げた。
後ろの入り口に舌を滑り込ませて、体内の温度を確かめる。
ヒクついたそこが、俺の舌と指を咥え込むようにして中へ入っていく。
十分に濡らしながら、数本指を挿入しては、出して、柔らかくなるまで解す。


「隼人…やだよ、また…、やだ…っ、う…っ。」
「後ろでイッちゃう?」
「ふぇ…、やだよ、やだぁー…。」
「…あ……。」

しまった、と思った。
クリスマスの時、志摩が泣いてしまって、それはやめようと思ってたのに。
このままだとまた泣いてしまう。
いや、 もう半分泣きかけてるし。
このままだと、俺は意地悪で酷い、最低な奴になる。
志摩に、嫌われたら、俺の何もかもがお終いだ。


「ごめん、志摩。ごめん…。」
「う…、でも俺が悪いんだも…、俺がえっちだから…っ。」
「悪くないから…、だから泣くなよ…。」
「ホ、ホント…っ?」

悪くない、と何度も耳元で囁いて、首筋を優しく吸う。
紅い跡は自分のものだとでも言いたいのか、次の日気が付いて恥ずかしくなることがよくある。
すぐに涙を止めた志摩の後ろに、もう一度指を入れて、入り口を拡げた。


「やだ?入れられるの、嫌か?」
「ううん…、やじゃないです…。」

それでも不安で堪らないんだ。
本当は志摩はセックス自体嫌なんじゃないかって。
俺のことが好きだから、俺のために嫌々やってるんじゃないかって。
頭ではわかっているつもりでも、いつもその不安が過ぎる。
しかも俺は、ひねくれた聞き方しかできない。
それでもいつも頷いてくれる志摩が、本当に好きなんだ…。


「───あ!!やっ、あぁっ、あ、あぁ………んっ!!」

我慢も限界に達していた自身を、ジーンズから解放して、志摩の体内へとゆっくりと沈めた。
脚を持ち上げたまま、奥深くまで進めていく。
俺だけが知っている、志摩の一番弱い場所。


「…んっ!あっあっ、ぅう…んっ!」

自分の肩で志摩の脚を支えながら、床に手をついて最奥を突く。
志摩の目からぼろぼろと涙が零れて、口の端からは唾液が零れる。
探るように自身の角度を変えながら、何度もそこを責めると、志摩の高い声が次々に漏れる。


「隼人…っ、隼人…っ、…くっ、…ちゃうっ…。」
「いいよ。」
「でも…っ。」
「俺もだから…っ。」

涙を流しながら、志摩は嬉しそうな顔をした。
激しく全身の力で揺さ振って、一番高いところへ駆け上る。
服を敷いたはずの床まで汗と体液と唾液で湿っていて、 動く度に布の擦れる音が聞こえた。
こんなに俺を好きな奴はいない。
俺がこんなに好きな奴は、志摩だけだ。


「やっ、いくっ、隼人………っっ!!」

叫び声に近いような声を上げて、志摩は俺の腹部に放った。
俺もほとんど同時に志摩の体内にすべてを放っていた。







「志摩、大丈……。」
「…ふぇ……、隼人…、どうしよ…。」
「何?どうした?」
「うぅ…、起きれないです…。」

まだ息をするのもままならないまま、志摩は俺に抱き付いてきた。
熱く濡れた身体が、セックスの激しさを語っている。
朦朧とした志摩を、抱き上げてベッドまで運んだ。
その後綺麗に身体を拭いてやった。
一通り済むと、志摩はいつものように甘えてくる。


「喉渇いた…。」
「甘ったれだな。」

そしていつもの通り俺は嫌そうな顔をして、志摩に水を飲ませる。
ここで口移しなんかできないのは、また欲情する可能性があるのと、
まだそこまでは恥ずかしいという俺の勝手な理由だ。


「初詣、行けなくなっちゃった…。」
「明日でいいだろ。」
「え、でも明日もバイト…。」
「いや、休みだけど。」

知らない振りをして、俺は嘘を吐く。
ちょっとだけ、志摩のために世の中に対して我儘になろうと思った。
明日は藤代さんもいるし、俺なんかいなくてもいいんだ。
社会人としてはどうかと思うけど、志摩にいいことをしてやりたい。
違う、本当は俺が一緒にいたいんだ。


「えへへー。ねーねー、おみくじ引こうねー。」
「俺はいいよ。」
「えー、引こうよー。出店とかあるかな?たこ焼き食べたいー。りんご飴もー。」
「お前何しに行くんだ?」

志摩は心から嬉しそうな笑顔で、俺にまたひっついて来る。
さっきまで泣いてたくせに、すぐに食べ物の話だ。
でも、この笑顔が見られるなら。
志摩が笑ってくれるなら、俺は他人に嘘吐くことだって平気でできる。

もうちょっとだけでいい、それを口にするのが、今年の俺の目標だと、改めて思った。





END.






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