次回予告編「mischief magic」-2
「…ん……、隼人…?」
「志摩、大丈夫か?」
「うん…さっきよりは…、あーお腹減ったー…。」
「あ、あぁ、それなんだけど…。」
それは世にも恐ろしいものだった。
本当に何を考えていたのか、俺は、せっかく途中までうまくできていたおかゆを台無しにしてしまった。
大きなどんぶりの中には玉子と鮭でぐちゃぐちゃになったおかゆに、
飾りなのかなんなのか、言い訳のできない梅干しがぱらぱら載っている。
「隼人作ってくれたの?」
「でもこれは失敗だからちょっと買ってく…。」
「えへへー…、嬉しいーありがとー…。」
「志摩…。」
起き上がった志摩は俺にしがみ付いて、胸の辺りでごろごろ頭を擦り付ける。
寝癖だらけの髪が首の辺りに触れて、くすぐったくなる。
さすがにこんな時に手を出すことはできなかったし、
その背中をぽんぽん叩くだけで俺も満足してしまった。
「大丈夫だよー、なんとか食べれるよ。」
「無理するなよ、腹壊したら大変だから。」
上に散った梅干しを除けて志摩はぱくぱくと食べていた。
なんとか、ってことはあんまり美味しくはないってことだよな。
無理はするなと言っても志摩はきっと全部食べるんだろう。
食べることが好きだし、俺が作ったものだからだ。
また今度こうなった時のため、っていうのはあれだけど、
もうちょっと俺も一般常識程度に家のこと覚えないといけないな。
「じゃあもう薬飲んで寝てろ。」
「うん…、あ、あのー…。」
全部とまではいかなかったけど、粗方食べ終わった志摩に、隣からもらった薬と水を差し出した。
起きてる間頻繁に鼻をかんでいたせいか、鼻まで紅くなっている。
熱はさっきよりは引いたかもしれないけど、まだ頬も染まったままだ。
「寒い…です…。」
「あぁ…。」
志摩は俺の服をきゅ、と引っ張った。
時々出る妙な敬語と、熱のせいではない頬の色で、
俺は志摩の言いたいことがすぐにわかって、布団に潜り込んだ。
「えへ、あったかいー…。」
「ゆっくり寝ろよ。」
いつもならここで興奮して仕方ないところだった。
でも今日は違う、志摩を守ってやりたくて、早く元気な志摩が見たくて。
志摩の頭を腕に載せて、身体ごと抱き締めた。
俺の体温に安心したのか、志摩はすぐに眠ってしまった。
そして俺も知らないうちに眠っていた。
「ねーねー、やっぱりあの人間にかかっちゃったよー。」
「だから言ったのにー、失敗するからやめようって。」
「だって銀華さまのお相手が銀華さまを愛しているのか確かめたかったんだもん。」
「でもぼくたちまだ魔法は修行中なんだよー?」
ふと、朦朧とした頭の中で小さな囁き声が聞こえた。
そう、寝室の窓の辺りから…え、窓??
ここって何階だったっけ…、
志摩もそうやって俺んちに忍び込んで来たんだった。
「…誰だ?」
ぱっと目を覚ますと、窓のところに小さな陰が二つ見えた。
志摩はまだ気持ちよさそうに眠っていて、起こさないようにして俺はベッドから出た。
今度こそ本当に泥棒だろうか…。
志摩が侵入して来た時のように俺は掃除機の棒を持って窓を開けた。
「ごめんなさーい!ぼくたちのせいですぅー。」
「うわんごめんなさいー!」
「…は??」
それは、志摩よりも小さい子供で、
見たことのない服を着ている。
窓から入ってくること自体普通じゃないのはわかる。
それによく見ると耳とか尻尾とか…ね、猫??
いや、人間だよな、一見見た感じは。
「あの、ぼくたち、銀華さまに魔法をかけたつもりだったんですけど…。」
「銀華さまのお相手の人間が心配するのか確かめようとしたんですぅ〜。」
「は…?銀華??」
その銀華様というのは、猫神様のことで、この二人、いや二匹?は、
前に聞いた家来のようなものだったらしい。
時々こうして人間界に来ているっていうのも聞いてはいた。
つまりこいつらが風邪になるような魔法を猫神様にかけようとして、
近くにいた志摩にかかってしまったというわけだ。
なんて人迷惑な奴らだ…。
そのせいで俺は自分を責めまくったというのに。
志摩の風邪は俺のせいじゃなかったってことだ。
それはそれでよかったかもしれないけど…。
いや、よくはないか…。
「ホントにごめんなさい!」
「じゃあそれ早く解いてくれよ。」
「それが〜、解く方法ぼくたちまだわかんなくて…えへへ。」
「なんだと…?」
「うわん、紅ーこの人間恐いよぅ!」
「いやー殺されるー!」
まったく、人聞きの悪い。
いくらなんでも殺すわけないだろうが。
もう小さい子供の悪戯と思って許すしかないか…。
志摩の熱もだいぶ下がって来たことだし。
「あ、その代わり、別の魔法をかけます!」
「目が覚めたら台所へ行って下さいねー!」
「ちょっと待っ……あ…れ…。」
その二人が消える瞬間に、俺は意識を失って、再び眠りに就いていた。
あれは夢だったんだろうか…、目を覚ましてさっきのことを考える。
台所へ行って下さいね、って言ってたっけ…。
さっきと同じように志摩を起こさないようにして、
ベッドから出てキッチンへ向かった。
まだ見えてもいないけど、そこからはいい匂いがした。
あれはやっぱり夢ではなかったらしい。
テーブルには温かい食事が並べられていて、
こんなことを一瞬でできるなら風邪を治すぐらいできないもんなのかと思った。
「隼人、お腹減ったー…。わぁ…!」
志摩が起きてきていつの間にか後ろにいた。
テーブルを見ると志摩は飛び上がるほど喜んで、
さっさと椅子に座ってしまった。
いつもみたいに明るい笑顔で。
「隼人作ってくれたの?美味しそうだねー…。」
「あ…、あぁ、まぁな…。」
さっきのことを志摩に言うべきか悩んだけど、
志摩がこんなに喜んでるなら、ちょっとだけ嘘を吐いてしまおう。
あの人間なんだか猫なんだかわからない二人にも会うことなんてそうそうないだろうし。
志摩がこんなに喜んでくれるなら、
俺はやっぱりもうちょっとだけ家のことを覚えようと思った。
そういう意味では、あの二人の悪戯も、役に立ったのかもしれない。
「美味しいね、隼人、ありがとー。」
でもやっぱり志摩は元気なほうがいいけど。
HAPPY END.
…and NEXT MAGIC coming soon.
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