「innocent baby」その後「innocent heart」-2




「隼人……、えへ、あの俺…。」
「志摩っ??」
「ふにゅ〜……。」
「志摩っ!」

放熱した後、志摩はでれんと笑って、なんと鼻血を出して倒れてしまった。
鼻血出しそうなったのはこっちだと言うのに…。
いや、この場合はただ単に逆上せたんだけど。
二人分の身体をしっかり拭いて、 志摩を抱えてリビングまで運んだ。
絨毯の上に志摩を寝かせて、上にタオルケットを掛けて、
とりあえず足が高くなるようにクッションで上げて。
そんなことをしながら、俺は落ち込んで仕方なかった。
俺ってなんでこう見境なくなるんだ…。
普段は冷たい振りして、質悪いよな…。
自分を責めながら、志摩の額に手を乗せて、優しく撫でた。


「…あ、あれ…??隼人…??」
「ごめん、志摩。」
「わ…俺バカだー、鼻血まで出して!うー恥ずかしいよー…。」
「ごめん俺のせいで…。」

再び真っ赤になってしまった志摩は顔を手で覆ってしまった。
いくら志摩でも恥ずかしいのは当たり前だ。
俺はなんてことをしてしまったんだ。


「違うよ、隼人のせいじゃないもん…。」
「俺のせいだろ。」
「違うの、俺、俺もその、し、したかったの!」
「…え?」

だって隼人はえっちな人は嫌いだと思ったから。
自分から言うと嫌われると思ったんだもん。
それに俺変になっちゃうし、言えなかったの。
もごもごと志摩は告白してくれた。
俺ってなんて幸せな奴なんだろう。
こんなに思われて、ここまで自分を捨てて俺のために身体を預けてくれて。
胸がいっぱいになって、何も言葉が出て来ない代わりに、今までで一番優しく蕩けるようなキスをした。
鼻にティッシュを丸めて突っ込んだ間抜けな顔なんて、どうでもよくなるぐらい。
それぐらい志摩が好きだと思った。
ずっと一緒にいたいし、何度でもしたいと思った。

だから志摩、俺の頼みを聞いてくれ。













次の日、俺はバイトに出かけて、志摩は家にいた。
帰るといつもあるはずの姿がなかったから、荷物だけ置いてもう一度外へ出た。
どうせ行くとしたら隣だろうな…。
今日は藤代さんは俺より2時間早く上がったし、迎えに来たシロもいるはずだ。
時々こういうことがあって、隣で話に夢中になってたりする。

「え〜!シマ結婚すんのか?」
「うん、えへへ、隼人がね、プロポーズしてくれたの。」
「お、水島、お前なかなかやるなぁ。」

インターフォンを鳴らしても誰も出て来ないし、
玄関のドアの鍵が開いていたから仕方なく開けた。
そこでは3人が喋るのに夢中になっていた。
しかもその話題はなんなんだよ…。
溜め息を吐いて、頭を抱えてしまった。


「結婚できるわけないでしょう、ただ志摩を俺の籍に…。」
「えー!隼人、昨日、俺の名字になれって言ったのにー!」
「バカ、変なことバラすなっ!」
「だって嬉しかったんだもん!あれプロポーズでしょー??」

志摩、お前、もうちょっと世の中勉強したほうがいい。
今の日本では男同士じゃ結婚はできないんだ。
まさか自分を男ってわかってない、なんてそこまでじゃないよな。
昨日あの後、限りなくプロポーズに、結婚に、近いつもりで言ったのは確かだけど。
こんなところで何から何まで話すのはちょっとやめて欲しい。
俺は藤代さんと同じところで働いてるんだ。
それをもうちょっと考えてくれよ…。


「へええぇ〜、俺の名字になれ、ふ〜ん、ほお〜。」
「いいなぁ、オレも亮平と結婚したい〜。」
「なんだシロ、俺たちは俺たちでいいだろ?俺は結婚してるつもりだし。」
「う〜…そうだけど…。」
「あーいいないいな!隼人、俺もいちゃいちゃしたいー!」

も、もう勝手にやってくれ…。
最初はニヤニヤ笑って俺をからかっていた藤代さんはシロといちゃつき出すし、
それ見て志摩は羨ましがって俺にくっついてくるし…。
なんだってみんなしてそんな感情剥き出しなんだ。
俺のこの恥ずかしいのとか、物凄い小さい悩みに思えてくる。
バカらしいって言えばそうだし、嬉しいっていうほうが大きいかもしれない。


「いいから志摩、ほら帰るぞ。」
「えー、もうちょっとー。」
「ご飯は?腹減ったんだけど。」
「あ、そっか、ハイ、帰ります!」

俺は亭主関白気分な発言をしてしまい、 それを聞いた藤代さんとシロがまた俺を見て、
もう他人の目なんかどうでもよくなってきてしまう。
それは志摩がこんな性格だからで、それに影響されてきたからだ。
たった隣の部屋までの距離を志摩の手を握ったり、 前よりもずっと口数が多くなったり。
俺も志摩みたいに純粋で素直になっていけるといいけど。


「なんか隼人、旦那さんだね。」
「バカ、いいから早くしろ。」
「はぁーい。」
「…バカ……。」

…まぁそれはまだ完全には無理ってことで。
気付いてるか?志摩、俺のバカってのはお前のあの妙な敬語と同じってこと。
恥ずかしくて、でも嬉しくて。
きっとその意味じゃなくても、志摩はいいって言うだろう。
隼人ならなんでもいい、なんでも好きだって。

キッチンではまたいつものいい匂いがする。
フライパンで何か焼いている志摩の背中を見る。
お気に入りのエプロンをして、時々下手くそな鼻歌を歌って。
こんな生活がずっと続いて欲しい。


「…好きだよ。」

焼いている音に紛れて、わざと志摩に聞こえないようにして呟いた。
後でちゃんと言うための練習を。










END.






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