「魔法がなくても」-7
なんだか、懐かしく感じてしまう。
まだ、人間界で言う、三日しか経っていないというのに。
それ程まで、私は洋平が恋しかったようだ。
本心を言うと、迎えに来て欲しいと思ったのは皆無ではない。
扉を開けて、室内へ入ろうとした。
この人間の生活の匂いがした。
それは短い期間で、私に染み付いた。
「何してんだ?入れば?」
暫く立ち止まっていた私を洋平は促した。
背中を軽く押され、洋平が扉を閉めたのを確認すると、静かにその中へと入った。
「あ、兄貴と史朗、いや、シロにも報告しとかないとな。」
洋平は携帯電話なるものを服から取り出し、そのボタンを押した。
聞き慣れないこの電子音も、いずれは自然になるだろう。
そういえば…。
「お前は、シロとあの人間からどこまで聞いたのだ?桃と紅からは?」
私の過去の恋や、シロの魔法の話。
洋平はどこまで私を受け入れてくれるのか。
私はほんの僅かだが、恐怖に襲われた。
「うーん、どこまでだろ?つーかそんなんどうでもいいし。」
「どうでもよいとはどういうことだ。」
私に興味がないのか。
私は危うくまた人間を疑ってしまうところだった。
次の瞬間、それは全く無くなったが。
「お前が何して来たとか、どういう人なのかは今関係ないし。」
「……‥。」
過去に全く拘らないというのも考えものだが、洋平はこういう人間で、私はそこが好きなんだろう。
愛しさが、込み上げて、言葉が出なかった。
その代わりに洋平の胸元に、凭れかかった。
他人に、ましてや大嫌いだった人間という生き物に、信頼を寄せ、あろうことに甘えるなどと、誰が予測出来ただろう。
「私はもう、何も持っていない。」
神という上の立場も、生活してゆくための金銭も。
持っているのは、心と身体だけだ。
試すつもりなどなかったが、私は冷めた表情に反して情熱的なのだ。
もちろん、今迄は表に出すことは出来なかったのだが。
「お前が居ればいい。」
洋平の腕が、私を包んだ。
私はその体温を感じながら、瞳を閉じた。
心臓が一定の速度で脈打って、心地よい。
この人間の傍に居られるなら、何もなくていい。
私という存在があれば。
何故なら、私の恋は叶ったのだ。
魔法などなくても、だ。
そしてそれは永遠に続くと信じている。
END.
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