「魔法がとけたら…」番外編2「コール・ユア・ネーム」




シロが家に来てから、随分経った。
実はずっと気になってることがある。


「シロ、もう昼だ、起きろー。」
「ん〜…‥。」

ある休みの日、隣で眠るシロの頬を軽く指先で突きながら、声を掛ける。
まだ瞳も開けないで、返事だけして。
あーあ、口の端、ヨダレの跡か?
枕の跡まで付けて。
まったく、なんて呆れながらも、そんなところまで可愛いと思ってしまうのは、俺だけなんだろうか。


「…おはよ…‥。」

シロは瞼を擦りながら、俺に寄って来る。
ボサボサの髪の毛が、俺の鼻の辺りを擽る。


「なぁ。」
「ん?」
「お前って、ずっとシロ、じゃねぇよな?」
「へ?どういう意味だ?」

俺は腕の中にシロを収めて、その寝癖だらけの髪を弄んだ。
七分ぐらいしか開いていない瞳が、やっといつものように大きく開いて、黒く濡れて光っている。


「え?だから、俺が付けたんだろ、シロってのは。それまではなんだったんだ、って聞いてんだよ。」
「シロじゃないけど…どうでもいいんだ。」
「どうでもいいってな…。」

美幸はなんて呼んでたのか、気になってたんだよな。
どうでもいいって言われても、俺がどうでもよくねぇから聞いてんだけど。
もしかしてすげぇ変な名前だった、とか。


「亮平が付けてくれたから、今のがいい。」

うっわ…やべぇ、俺、そんな愛されてんのか?
俺が付けたからって、そこまで言われたらそう思っちゃうだろ…。


「美幸ちゃんの話すると怒るし。」

すっげぇ愛されてる…みてぇだな。
恥ずかしげもなくそんなことを口に出来る素直で一途なシロが、俺も好きで仕方ない。
多分こいつはずっと俺を好きでいてくれる。
もちろん俺もだ。
ずっと…‥‥あ。


「あー…、でもなぁ、藤代シロ、ってどうよ?」

いや、別に自分の名字にしなくてもいいんだけど。
だってまさかこんな非現実的なことが起きるなんて思わないし。
ただ白いその外見だけで付けた安易な名前なのにな。


「う…。じゃ、じゃあ亮平が名字変えるとか?」
「バカ、お前、俺が名字変わるっつったら、俺が結婚して婿入りするぐらいしかねぇだろ。それか養子か。」

どっちも有り得ねぇよな。
俺もシロに一途でいるつもりだし。


「それはやだからいい。」
「シロ…。」

腕の中のシロは、俺を離すまいと、ぎゅうっとしがみ付いてくる。
顎に手を添えて、上向きにさせる。
何をされるかわかってるシロは、瞳を閉じて唇が重なるのを待っている。
瞼と睫毛と頬に触れると、自分の唇で、シロが熱くなっているのを感じた。


「ん…‥ん。」
「シロ…。ぁ…っ、ダメだ、って…っ。」

待っていたかのように僅かに開かれた上下の唇の間から、舌を滑り込ませる。
なんだその顔…、ヤバ過ぎるだろ…。
一気に盛り上がってセックスに持っていこうとした。
だけどその時、パジャマの中に忍び込まれた俺の手を、シロは息を乱しながら震える手で止めた。


「誰も見てねぇって。」
「あ…う…、でも猫神様が。」
「またあの女来んのか?」

ムカつく女だな。
なんでんな邪魔すんだよ。


「いや、用があるって…‥って、亮平今女って言ったか?」
「あ?」
「猫神様、オスだけど。」
「ああぁっ?!あれが?」

嘘だろ…‥。
俺は忘れもしない、憎たらしい猫神の姿を頭の中に登場させた。
まぁ、言われてみれば男に見えなくもないか…?


「お、そうだ、あいつの魔法かなんかで俺の名字変えらんねぇかな。」

俺もわけわかんねぇ世界に慣れて来たよな。
平気でこんなこと言うしな。


「うーん、でもいい。このままがいい。」

最近いつもしてくるシロの軽くて小さいキス。
俺も応えるようにシロの柔らかい耳朶にキスをして、囁く。


「シロ…。」

俺が付けた、俺の大好きな、お前の名前を。














END.








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◆おまけ◆
結局シロの前の名前が何だったのかという感じですが…。
実はこの話には、別バージョンがあったりします。
よければどうぞ…。