「魔法がとけたら…」-1




「シロ〜、ただいまぁ〜。」
「あ、おかえり、亮平。」

新婚ホヤホヤ状態の俺とシロ(元猫)は今日も上手くやっている。
シロは俺がコンビニのバイトから朝帰って来るのを待って、一緒にメシ食って、まぁ…そのたまに風呂も…。
と、恥ずかしい言い方をすれば、ラブラブ順調だった。
そう、だった、んだ。


「シロ…寒かった…。」
「亮平…苦しいってば。」

家にずっといた、温かいシロの身体を抱き締めた。
回した腕から、シロの体温が上がるのを感じる。


「き、今日はダメだからなっ。」
「あぁ?!何、疲れた嫁みてぇなこと言ってんだよっ。」

シロが珍しく拒んだ。
いつもは嫌だ嫌だ、って言っても最終的には俺の言うこと聞くのに。


「やだ…っ、ダメ…っ!」
「誰も来ねぇし。」

そんな風に嫌がられると余計燃えるっつーの。
俺はシロの首筋に強くキスをした。
紅く跡が付くぐらい吸うと、シロの身体は跳ねる。


「来るんだって!猫神様が!」
「───え??」

猫神様…‥って、確かシロに魔法かけて、俺とヤっちまったから、罰として俺の傍にいろ、
とか言った…まぁ、結果的にはいい奴、になるよな。


「定期審査の日なんだってば。今日初なんだって。」

定期審査…‥? なんじゃそりゃ。
そんなの…聞いて、ねぇよな。


「それは、俺に言ったか?」
「‥‥…言ってなかった…かも…。」

俺はシロの頬をキュッと軽くつねった。
シロは下を向いて焦りながら愛想笑いしている。


「まったく、どうしてそういう大事なことを忘れるんだよ。」
「だって、オレ、なんか、亮平のことばっか考えてて…。」

くっそ…。
反則だ、その顔も、台詞も。
小さく呟いたシロがたまらなく愛しくなって、俺はもう一度抱き締めた。


「あ…っ、亮平っ、ホントにやめた方が…。」
「なんでだよ、やめられるかよ。」

ジタバタと腕の中で暴れるシロを黙らせようと、顎を掴んで唇を引き寄せた。


「んっ、ん…っ。りょうへ…っ、ダメ…っ。」

キスで塞いだシロの唇も熱い。
そんな顔してダメ、とか言われても全っ然説得力なんかねぇよ。


「猫神様に…っ、また呆れられ…‥。」
「本当に。呆れたものだな。」
「え!」

俺とシロしかいないはずの部屋。
後ろから、透き通ったような、声がした。


「うっわ…!あ、あんた…!」

銀色の、長い髪。
深緑色の、瞳。
異国の雰囲気が漂っている。


「猫神様!」
「何っ?シロ、こいつがその、猫神ってやつか?」
「失敬な。こいつ、だの、やつ、だの、口の悪い人間だな。」

だって、神、とかっつったら爺さんかと思うだろ。
まだ若いだろ、どう見ても。 皺もねぇぞ。
吸い込まれるような瞳に睨まれる。
こういうのを、神々しいって言うのか…‥。
いや、感心してどーする。


「シロ。元気だったか。」

あ…笑った…。
へぇ、笑うとなかなか。
かなり美人だし。


「は、は、はいっ、お陰さまで。」
「そうか。それはよかった。…ところで人間。」
「な、なんだよ。」

急に顔付きが変わり、俺はまたジッと睨まれた。
負けるな。 怯むな。
例え相手が神だろうとなんだろうと。


「お前は本当にシロを愛しているのか。見た所、身体目当てに思えるんだが。違うか。」

はあぁ? なんだこいつ。
いきなり現われて、いきなりそれかよ。


「どうした、人間。答えられぬか。」

しかもなんっだこの偉そうな態度!
人んち来て挨拶もなしでよ。


「おい、人間。」
「さっきから人間人間て何様だてめー。自分だって人間と変わりねぇじゃねぇかよ!いきなりんなこと聞きやがって、失敬はどっちだよっ。」
「ほう、この私に向かってそのような口を。ならば…。」

あ…‥ちょっと、言い過ぎた、か…?
猫神は、手を合わせて、こっちを見た後、瞳を閉じた。


「う…っわ…!」
「亮平っ!!」

一瞬、部屋の中に閃光が走り、その中で猫神が命じるように言った。

「お前のシロに対する愛、見せてもらおう。」







いってぇ…‥。 頭、打った…。
俺は床に倒れた身体を起こした。


「亮平!大丈夫か?!」
「…にゃ…‥。」(…シロ…‥。)

───へ?


「亮平…ごめん…。」

シロ、いつの間にこんなデカく…。
いや、違う!!


「口で説明出来ぬなら、態度で示してもらおうか。」

俺!! 俺が、猫になってる!!
嘘だろ、おい…。


「私がお前とシロの愛を本物とわかったら、戻してやろう。」

こんのアマ…‥!
ちょっと綺麗だからって黙ってりゃあ…。
どこが神だ! 鬼じゃねぇかよ!
‥…なんて、今の俺には言葉にすることも出来るわけがなく。


「亮平、オレ、頑張るから…。」

わかってる。
俺も、お前のために頑張るからな。


「せいぜい頑張るんだな。」

くっそ! 見てろよ、この。
こうして、俺の猫としての生活が始まった。  






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