「トラワレ」〜プロローグ
僕は、貴方に、囚われる。
この身体も心も、僕の全てを。
たとえその肉体が朽ち果てても、囚われ続ける。
その魂が僕の周りで浮遊する限り、僕がこの世に生きている限り。
何度も、何度でも。
聞きたいことがあります。
貴方は、幸せでしたか?
僕を、玩具にして。
「ホラ、ちゃんとやるんだ。」
「ん───っ、っぐっ。」
口から溢れる程に猛ったものを愛撫させられる。
苦しさにむせて、涙が流れ、口の端からだらだらと唾液が滴る。
「なんだ、ちゃんとしゃぶれないのか、玲は。ホラ、こうやるんだっ。」
頭を強く掴まれて、喉の奥まで押し込められた。
口内に溢れ出した先走りが少しずつ染みてくる。
手で扱いて、舌先を使って舐め回して、達するのを待つ。
早く終わって欲しい、脳内に浮かぶのは、その願いだけだ。
「う…‥っ。」
やがて口内にその男の精液が勢いよく放たれたる。
その不味さと生温かい感触の気持ち悪さに、顔を歪めて吐き出そうと手を口に持っていく。
閉じた瞼の裏に、苦惨と屈辱の涙がじわりと滲む。
「何をやっているんだ?」
鋭い眼差しと、怒りを含んだ低い声が責める。
恐い。
どうして。
どうして怒るの。
どうしてこんなことさせるの。
ねぇ誰か助けて。
僕を助けて、お願い、助けて。
そう叫んでも、誰にも届くことなどない。
自分とその男以外、誰もいないこの場所では、辺りに声も響かない。
「ごめんなさ…、ごめんなさい…。」
恐くて、謝ることしか出来ない。
「お仕置きだ。」
その言葉に、背筋が凍った。
お仕置きと称してされるセックスは、男が自分の快感のためにやっているだけのもの。
恐ろしい拷問そのものだ。
逃げたい、どこかへ、この人のいないところへ。
「じゃあお尻、出しなさい。」
男は顎でその先を指示する。
これから何をされるのか、今日はどんなことをされるのか、恐怖に怯える。
「誰が育ててやっていると思っているんだ?」
脅し文句に、仕方なく尻を突き出した。
男は白い双丘を鷲掴みすると、顔を近づけてにやりと笑った。
後孔に熱い息がかけられ、ぞくりと全身に鳥肌が立つ。
「いい子だ。」
「ひぁ…っ!」
ずぶり、と濡れた指が数本挿入された。
また何か妙な薬物でも仕込んでいるのだろう。
あっという間におかしな感覚が、慣らされた後孔から広がり、身を捩る。
「あぁ…ん、あっ。」
快感に耐え切れずに、自らの下半身の中心を握り擦った。
先走りで滑らかになったそれに、自慰行為を続けた。
情けない、こんなことをさせられている自分が。
「次はなんて言うんだ、玲。」
言いたくなんかない。
次なんて、続きなんて求めてはいないのに。
なのに、身体が求めてしまう。
汚され続けたこの身体が、その快感を覚えているから。
「僕の…っ、僕のお尻にっ、おちんちん挿れて下さい…っ!」
こう言えば殴られずには済むから。
そのうち殺されかねない、とも思ったぐらいだ。
「お願いします…っ。」
ひくついたそこを舐めるように見られ、身体を震わせた。
その男が自分を凝視する目が、恐ろしかった。
「お願いします、お父さん…‥っ!」
聞きたいことがあります、お父さん。
貴方は、満足でしたか?
自分の実の息子とセックスなんかして。
セックスし続けて。
幼い頃から、僕の身体を汚し続けて。
よかったですか?
楽しかったですか?
僕を、愛していましたか。
父が病に倒れた時、確信した。
これは罰だ。
自分にあんなことをした罰だと。
数日後呆気なく逝ってしまった時も、全然悲しくなんかなかった。
笑いまで零れそうになったぐらいだ。
皆の手前、さすがにそれは出来なかったけれど。
心から嬉しいと思ったし、喜ばしいことだった。
もう無理矢理犯されることもない、あんな辛い思いもしなくていい。
そう心から信じて疑わなかった。
だけどきっと自分はこれから先、恋なんか出来ない。
汚れた身体。
汚れた血に侵されている。
誰も自分を愛してくれはしない。
一生そんな寂しい道を歩むのだ。
そう、思っていた。
あの人に、会うまでは。
貴方がいなくなったお陰で、あの人に巡り会えた。
感謝するよ。
僕は幸せだ。
僕は人を好きになれた。
僕は愛してもらえた。
ねぇ、僕の愛しい……。
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