「そらいろ」-6
「あきちゃん…?」
「ん…?」
思いを告げて抱き締めて、それだけで終わるはずがなかった。
この二週間、触れたくて仕方がなかった身体が目の前にあるんだから。
ガーゼ素材の柔らかいシャツのボタンを外す俺を、空が不思議そうに見つめる。
「おふろにはいるの?」
「違うよ。風呂はまた後でちゃんと入るから。」
「くーなんではだかになるの?」
「なんでだと思う?」
その答え、俺がしようとしていることなんて、空にわかるはずがない。
初めて会った二週間前、風呂でしてしまったこと。
それも空は何だかわかっていなかった。
シャツの袖を引っ張って丁寧に外して、その後ズボンと下着も全部脱がせた。
あの時湯気でぼやけていた身体の部分を、はっきりと見ることが出来た。
「わかんな……、あきちゃん…っ。」
「空?どうした…?」
胸を飾る小さな果実のような粒を口に含む。
言いかけた空の言葉が、突然のその出来事に途切れてしまった。
俺はそんな空に対して白々しいことを言ってしまう。
「あきちゃ…、ん…ふ…ぅっ。」
「気持ちいいか?」
「うん…、くーきもちいー…っ、あ…んっ。」
「可愛いな、空のおっぱい…。」
あの時はやめるきっかけになった喘ぎだとわかるその声を、今はもっと聞きたい。
膨らんだその粒を、唾液で濡らしながら執拗に舐め回す。
そのピンク色が、唾液によってつやつやと光っている。
「あきちゃん…、あきちゃん…っ。」
「へぇ…、ちゃんと勃つんだな…。」
「た…?くーわかんない…っ、あぁんっ!」
「可愛い、空のここ…。」
ほんの少し、緩やかだけど変化した空の下半身の中心を、掌で包んだ。
まだ幼いそれは、俺のものとは違って保護するものは何もなくて、薄い皮膚だけが露出している。
何かの食べ物みたいに美味しそうで、思わずそれも口に含んでみた。
驚いた空の身体が、飛ぶようにびくんっ、と跳ねる。
同時に聞こえた高い声に、一気に興奮を覚えてしまった。
「あきちゃ…、だめぇ…っ、ママにおこられちゃ…ぁんっ!」
「うん、だから内緒だからな?」
「でも…っ、あきちゃ…?くーへんだよぉ…、きもちいーの…っ。」
「えっちだな…、こんなとこ舐められて気持ちいいんだ?」
えっちなのは俺なのに、何を言っているんだか…。
こんな子供相手にいやらしいことして、変態と思われて当然だ。
逆にこんな子供だから、そういうこともわかっていないんだと思う。
それにつけ込む俺は最低な叔父なのかもしれない。
「ちがうも…っ、くーえっちじゃな…、あぁ…っん!」
「ママに言っちゃダメだぞ…?いい子だろ?」
「うんっ、いわない…っ。くーいいこだもん…っ!」
「うん、くーはいい子だ…。」
素直な空を利用して悪いとは思っているけれど、それでも止めることなんか出来ない。
含んだ空自身が、俺の口内で脈打っている。
激しく出し入れしては、びしょびしょに濡れるまで唾液を絡ませる。
俺の頭を掴んだ空の手に込められる力が、快感でだんだん強くなっていく。
「あきちゃんっ、あきちゃ…ん…っ!」
空、大好きだよ。
お前が来てから、毎日が楽しくて仕方なかった。
俺がいないと寂しいって言うなら、ずっとここにいてくれるよな。
おばあちゃんのところになんか、行かせないからな。
ずっと俺の傍にいて欲しいんだ。
これから空といっぱいこういういことしたいんだ…。
『それどういうことなの?!秋生?!』
「どういうことって…、言った通りだけど…。」
翌日、俺は母親、つまりは空の祖母に電話で問い質されていた。
空はそっちには行かない、このまま俺が預かる、事実だけ告げた。
二週間経ったら孫の顔が見れると思っていた母親は、納得がいかないらしい。
そりゃあそうだよな…、たった一人の孫とこれから一緒に暮らせるはずだったんだから。
でも俺にとっても空はたった一人なんだ…。
『どうして行かないなんて言ってるのかしら…、くーちゃんったら。』
「さぁ…?俺の方が歳近いから楽しいんだろ?」
『あんた変なこと言って言い包めたんじゃないの?!』
「何だよ変なことって…。」
『それで仕送り増やして欲しいとか思ってるんでしょう?ダメよそんなこと。』
「自分の息子をそこまで疑るなよ…。」
どうしてなんて、本当のことを言えるわけがない。
空のことが好きだから、空と一緒にいたいから。
普通に聞くと別に疑う要素なんかないのかもしれないけれど、
心に疚しいことがあるから、俺は言うことが出来なかった。
まさか母親も俺がこんなことを思っているなんて考えもしないだろう。
疚しくても、嘘を吐いてでも、どうしても空と一緒にいたいんだ。
『せっかくくーちゃんが来るの楽しみにしてたのにねぇ…。』
「大丈夫、ちゃんと責任持って預かるから。」
『本当かしらぁ…?』
「本当だって。息子を信じろよ。」
こんな嘘を吐いて何を信じろと言うのか、自分で自分が恐くなった。
電話の奥で母親が、深い溜め息を吐くのが聞こえる。
途中でやっぱりダメかと諦めかけたけれど、これだけは譲れなかった。
『わかったわ…、何かあったら連絡するのよ?』
「うん、わかってる。」
『くーちゃんの荷物はそっちに送るから。』
「うん、頼む。」
最終的に母親は力尽きたように言って、電話を切った。
受話器を置きながら、心の中でごめんと呟いた。
そしてその後すぐに、手でも叩いてはしゃぎ回りたい気分になった。
「あきちゃん…?」
「おばあちゃんいいって言ってたぞ。」
「くーあきちゃんといっしょにいていいの?」
「そうだ、ここにいていいんだ。」
部屋の隅で待っていた空が、とことこ歩いて寄って来た。
俺と母親との電話を、緊張して待っていたらしい。
抱き付いてきた空の胸のドキドキという音が、はっきりと聞こえる。
「ほんと?あきちゃん、ほんと?」
「ホントだよ、空。」
「やったー!あきちゃんといっしょ♪あきちゃんといっしょ!!」
「うん、あきちゃんとくーは一緒だ。」
笑顔になった空の身体を思い切り抱き締める。
まだ小さくて、幼い造りの身体。
それはこれから育って行こうとしているこの恋と一緒だ。
今はちゃんとわからなくても、俺が全部教えてあげたい。
だいすき、の意味も、キスの味もセックスの快感も。
変態でもおかしくてもバカでも最低でも、俺は空が大好きだから。
「あきちゃん、おこさまらんち!」
「うん、後で行こうな、レストラン。」
始まったばかりのこの恋が上手くいきますように。
空と出会えてよかった。
空が生まれてくれてよかった。
あの日空が俺の甥っ子に生まれてくれてよかった。
すべての偶然…、いや、運命かもしれないそのことに感謝しながら、触れるだけのキスをする。
窓の外を見上げると、あの日と同じ色の青空が広がっていた。
END.
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