「DOLL〜愛玩下僕調教」-6





「雅臣様!!待って下さい、雅臣様!」

どうしよう。
雅臣様に見られちゃうなんて。
僕は本当に馬鹿だ、大馬鹿だ。
扉を開けて出て行こうとする雅臣様を、僕は必死で引き止めようとした。


「雅臣。もう…、許してくれ。」

え……?
知之様……??
泣きながら雅臣様を追い掛ける僕の後ろで、知之様ががっくりと肩を落として辛そうな表情を浮かべていた。


「もうやめてくれないか。お前が俺を恨んでいるのはわかっているけど…こんなのは…。」

ど、どういうこと…?
雅臣様が、知之様を恨んでる…‥?
僕はわけがわからなくて、混乱状態だ。


「お前を捨てたのは悪かったから。」

知之様が、雅臣様を、捨てた??
ますますわからないよ。
雅臣様、知之様、馬鹿な僕にちゃんと教えて下さい。


「あのぅ…。」

僕は思わず口を開いた。
何がどうなっているのか、知りたいから。
雅臣様のことだから。
僕の一番好きな人のことだから。


「穂積、この家から、出てってくれない?」
「え…。」

雅臣様が冷たく言い放った。
こんなに恐い雅臣様は、見たことがなかった。
こんなに恐い雅臣様を、僕は知らない。
いつも僕に、何も知らない僕に、色々教えてくれた雅臣様…。
僕の御主人様は、もうそこにはいなかった。


「荷物は、他の者にまとめさせるから。」
「雅臣様…っ!!」

僕の言葉なんか聞かないで、雅臣様は出て行ってしまった。
僕が、知之様とエッチなことしたから。
僕が、淫乱だから。
僕が、馬鹿だからだ…。
全部僕のせいだ…!


「…‥っく、ひ…っ。」

涙がぼろぼろと溢れた。
こんなに悲しいのは、生まれて初めてかもしれない。
僕はもう、好きだって言うことも出来ないのだと思うと、永遠にこの涙が止まらないような気が した。


「穂積。君にも悪いことをした…本当にすまない。」
「あの…、僕は…っ、う…っ。」

知之様が僕の髪を優しく撫でる。
さっきまでとは全然違う、本当に優しい手だった。
知之様は一体どうしてしまったんだろう…?


「雅臣は…、俺の人形だった。俺が拾って、弄んで、俺が捨てたんだ…。」
「え…。」

知之様は、深い溜め息をついて話し始めた。
その話をする知之様のの表情は、とても暗かった。
今にも泣きそうなぐらい悲しそうで、僕はどうしていいのかわからなくなった。


「あいつの身体をいいように弄んで、自分好みに調教して、飽きて捨てたんだ。」
「でも、お二人は…。」
「血の繋がりは全くない、他人だ。似てないだろう。歳も離れている。…あいつは今ね、重度の心の病なんだ。」
「えっ、そんな…!そ、そんな風には…。」
「あいつが働いているのを、君は見たことがあるかい?もう27になる立派な大人だ。」
「……‥‥‥。」

そういえば…‥。
いつも僕の傍にいて、僕に調教してくれた。
でもそれだけだ。
雅臣様は僕の傍にいただけで、他に何かしているのを見たことなんてなかった。


「俺のせいでね。だから、上條家で引き取ったんだよ。この人形もあいつが用意したんだ。自分だと思って置いてくれって笑いながら。
何をするかわからない状態だったから、逆らえなかった 。」

知之様はすっかり生気がなくなっていた。
僕は、信じられなかった。
信じたくもなかった。


「うちはこの通りの家だ。そんなことが明るみになったら終わりだ。だから仕方なかったんだ。 病院に入れたりしたらどこから洩れるかわからないし…。」

可哀想な、雅臣様。
知之様も泣いているけれど、でもそれは自分でしたことを悔やんで泣いてるんだ。
一番可哀想なのは、僕の好きな雅臣様だ。


「君で4人目だ。」
「え…?」
「雅臣の人形だよ。みんな飽きて捨てられてね…今は…。」
「そ、そんな…。」

だって雅臣様は僕の御主人様で、僕の好きな人で…。
そう、確かに僕は好きだった。
雅臣様もエッチな子は好きだって言ってくれた。
でも僕自身を好きだって言ってもらったことなんか、なかった。
一度もなかったんだ…。


「君は俺が言わなかったら、きっとまたあの子達のようになると思った。
だからその前に、お前だけの玩具じゃないと見せ付ければ解放すると…。すまない、本当に申し訳ないことをした。」

知之様は僕に向かって深々と頭を下げた。
その姿も、瞳も、言葉も、嘘とは思えないぐらい真剣だった。
あぁ、これが、本当なんだ。
僕はただの、愛玩だったんだ。
雅臣様の…、御主人様の、下僕で、愛玩。
好きだという気持ちなんか欠片もなかったんだ。


「君の今後の生活は俺が保証するから、すまないが…。」
「ハイ。出て行きます。」

僕は、即座に答えた。
でも僕はまだ、ううん、きっとこれからもずっと……。
急いで服を着て、知之様の部屋を出ようと立ち上がる。


「でも、お金は要りません。失礼します。」
「要らないって君…?」
「失礼します。」
「君…!」

僕は笑って、扉を閉めた。
僕はきっとこれからもずっと、雅臣様が好きだから…。











「まだ子供じゃない。」
「親はどうしたんだろうな。」
「可哀想にね…。」

冬空の下、道行く人達は僕を見て口々にそんなことを囁いている。
街は明るいネオンで溢れていて、人々も皆楽しそうだ。
僕はそんな中、一人でぽつんと地べたに座っていた。

『誰か僕を拾って下さい。何でもします。調教して下さい。』

自分の胸元に貼られた紙切れが、風でひらひらと捲れている。
時々枯れ葉が舞い落ちて来て、それを拾って掌で温めた。
とても寒いけど、僕は雅臣様のことを考えると身体の芯からあったかくなれるんだ。


「誰かぁ…、拾って下さい…‥。」

座り込んで膝を抱えながら、ぽつりと呟いた。
誰か僕を、拾って下さい。
僕を拾って調教して下さい。
そう、僕は誰かの下僕になって、前より大人になって、そしていつか…。


「お願いします…。誰かぁ…。」

そしていつか、雅臣様に会いに行きます。
だってあの時雅臣様は、さよならの言葉は言わなかったから。

だからきっと会いに行きます。
そしたらまた、雅臣様の思い通りに調教して下さい。
いっぱい、いっぱいして下さい。

穂積を雅臣様のお人形にして下さい。





END.





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