「永久性微熱3─灼熱」-2







「椿、お風呂沸いてるけど。」

食後暫くその無言な時間を過ごして、床に座っていた椿に蛍はタオルを差し出した。
いつもと違う、洗剤の匂いが鼻を掠めて、さっき蛍が呟いたような関係に思えて胸の辺りがくすぐったい。


「うん、じゃあ先に入る。」
「ごゆっくり。」

微笑んだ蛍に名残りを惜しみながら、バスルームへと向かった。
部屋には当然ベッドが一つしかない。
引っ越しの前に来客用と言って買っていた布団があるのは知っている。
やっぱりそれを使うんだろうな…当たり前だけど。
何かされるのをきっと蛍は恐れている。
卒業前に行った海岸で、それがわかった。
一緒に寝たりしたら…抱いてしまうに違いない。
それで嫌われるぐらいなら、でも、したくてしょうがない、そんな相反する思いが脳内で喧嘩する。
一般健康男子が思い悩むことに、椿はずっと苦しんでいた。


「じゃあ俺も入ってくるね。」

もやもやしながら風呂を出て、今度は待っていた蛍が向かった。
まだ、布団はひかれていない。
そんな性的欲望ばかりが浮かんでしまう自分に嫌気が差す。


「蛍…。」

床に座ってベッドに顔を伏せる。
そこも蛍の匂いで溢れていて、余計に欲望は膨らんで しまったことに後悔していた。


「椿、眠い?」

風呂から上がった蛍が、椿の傍に座った。
濡れた髪から仄かにシャンプーの香りがして、またしても欲望に拍車がかかり、もはや抑えることができなくなっていた。


「蛍…。」
「何?…ん…っ。」
「蛍、好きだ…。」
「ふ…ぁ、椿…っ。」

腕を掴んで、一気に激しいキスをした。
湯上りの蛍の体温が、更に上昇するのが合わせた唇から伝わる。
舌が口内の隅々まで這い、苦しさに耐え切れない蛍の口の端から流れ出る唾液の生温かさに興奮を覚える。


「椿…っ、あの…っ。」

舌を滑らせ、首筋をきつく吸い上げ、白い肌に紅い花弁を次々に散らす。


「やっぱり嫌だよな、こんな、兄弟でマズいよな…。」

最初にキスした時と同じ、蛍の瞳の端から熱い雫が零れるのを目にして、我に返った。
否定してきたはずの罪悪感がこの時になって強く生まれた。
今までも思わなかったわけではない。
いざ身体を繋げるとなって、一番強く感じてしまった。
同じ母親から生まれて、同じ血が流れて、こんなの、誰も許すはずがなかった。
もっと早く気付けばよかったのに…浅はかで、馬鹿だった。
その自分の馬鹿さ加減に自嘲まで洩れそうだ。

それなのに…。
それなのに、お前はそういうこと言うから。


「嫌じゃない…本当はずっと、して欲しかった…。」

離れた椿の首にしっかりと巻き付いた腕が、その決心を証明してるかのようだった。


「椿、あの海の時以来、恐くなってた?」
「うん…だって…。」
「ごめん、あの時はちょっとびっくりして…、は、初めてだったから。」
「え…。」
「だからその、誰ともそういうことは…。」
「そっか…ごめん…。」

胸に埋まった蛍が籠もった声で言って、顔なんかきっと真っ赤で、どうしようもなく愛しくなる。
頬を両手で包んで、真っ直ぐに自分のほうを向かせた。
潤んだ瞳が視界に飛び込んできて、自分まで泣きたくなるほど好きだと思った。


「俺、後悔とかしてないから、椿のこと、本当に好きだから。」
「うん…。」
「椿が嫌なら仕方ないけど、俺は多分ずっと好きだと思う。」
「うん…。」

こんなに綺麗なものは見たことがない。
でももう二度と、そんな悲しい涙は見たくない。
不安にさせて、ごめん、もうそんな思いはさせない。
言葉にならずに熱いキスをした。
ずっと潜んでいた罪悪感も溶けてなくなってしまうぐらいのキスが、身体中に痺れをもたらす。


「あ…っ、椿っ、ベッドに…っ。」
「いい、我慢できない。」

すぐ傍にベッドに上がるのさえこの瞬間が勿体ない。
早く一つになって、その体温を確かめたい。
無茶苦茶なこと言ってると思うけれど。
床の絨毯に押し倒された蛍の上半身の至るところに跡をつける。
できればずっと消えないで欲しいぐらい。
胸の先端を優しく唇で噛んで、舌先で転がして、硬く腫れたそこを執拗に愛撫する。


「あ…っ、んん…っ。」

刺激を与える度に蛍の身体はびくん、と揺れて、高く甘い喘ぎが何度も洩れる。
パジャマの上からでもわかる、下半身に手を伸ばし、下着ごと脱がせると、海岸に行った時以来、そこを口に含んだ。
熱くなった蛍の中心から、先走りが染み出て、自分の唾液を絡めながら、口内を出し入れした。


「や…椿っ、出ちゃ…っ。」
「うん、いいから、蛍。」
「んんっ、あ…っ、やっ、んん………!!」

激しい動きに合わせるかのように、 蛍は椿の口内に温かい白濁液を放った。
それは一気に喉を通り過ぎて、 蛍の身体に付着した分を指先で集めて、白い腿を大きく開かせた。


「椿…それやだ…、見な…で…。」

明るい室内で初めて開かれる部分に、椿の視線を感じて蛍が涙を溜めて訴える。


「大丈夫、蛍の感じる顔しか見ないから。」
「それもっと恥ずかし……あっ!」

優しく瞼にキスを落としながら、その入り口に指先を挿し入れた。


「蛍は俺だけ感じてて。」
「んん…っ!あっ、ん…!」

濡れた指を段々と進めて、きつく目を閉じた蛍そのものまで解していくようにその中を優しく撫でた。
テレビのとっくに消された部屋では、その音だけが響いて、蛍のその部分と同時に鼓膜まで溶けそうだ。
時間をかけて指の数が増やされ、体内をそれぞれに動かして、徐々に激しく掻き回す。


「椿…っ、も…、ダメ…はや…っ。」
「うん、わかってる…。」

快感に泣きながらその先を強請る蛍に、深いキスをして、形の変わった自身で入り口に触れた。


「蛍、好きだよ。」
「椿…俺も…、好き…、あっ、やぁ───…っ!」

見つめ合って思いを確かめて、蛍の中にゆっくりと入った。
その圧迫感に蛍は苦しい声をあげて、涙が流れる。
一瞬やめようかと思った。 でもきっと蛍は望んでいない。
自惚れなんかじゃない、それが本当で、 自分もそうしたいと思った。


「…あっ、椿っ、んんっ、あっ。」

完全に自身を沈めて、最奥を突くように揺さ振る。
弱い箇所付近に当たって、蛍が跳ねる。
その表情に欲情し過ぎて、全身の血が逆流するかと思った。
こんな思いは、初めてだ。
支配して、その中に自分の跡を残したい。


「や…、もうっ、イ…くっ、椿っ、もう…っ!」
「蛍の中に…っ。」
「うん…っ、おねが…っ、椿おねが…っ!」
「蛍、好きだ…っ。」

脚を高く持ち上げて、揺らす速度を上げる。
一層濡れた音が繋がった部分から響き渡って、もう言葉にならない蛍がぎゅっと目を閉じた。


「…椿────…っ!!」

愛しい人の名前だけなんとか口にして、蛍は勢いよく二度目を放って、椿も同時にその灼けるような体内に放った。











「蛍…、蛍…。」

まだ熱いままの頬を掌で優しく叩く。
行為の直後、蛍が一瞬だけ意識を失って、何度か名前を呼びながら叩くと薄っすらと瞼を開いた。


「俺…、弱いね…。」
「いや、俺もつい夢中で、ごめん…。」

乾いていない瞳が、自分だけを見ている。


「謝らないで…、椿、好きだよ…。」

痛みに耐えながら笑う蛍が愛しい。
かれた声で精一杯の告白を受け、濡れた身体を優しく包んだ。
その声も身体も心までも、全部自分のもの。

生まれた時から傍にいた。
多分生まれた時から好きだった。
そのために生まれたと言ってもいい。


「蛍、愛してる。」

蛍だけが好き。
これからもずっと愛してる。


もう、微熱なんかじゃない。
これはずっと続く、灼熱そのものだ。







END.





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