「ベジタブル・ラブバトル」番外編「ベジタブル・ラブハウス」-2
「やっぱり…!!」
「えっ、何?なんだよ?ちょ…、待てよ大樹っ!」
大樹は少し考えた後、俺を置いて部屋から飛び出した。
俺は下半身を出したままでどうすればいいって言うんだ…。
どうするも何も、すぐにズボンを上げて大樹の後を追い掛けるだけだ。
それにしたって普通最中にほったらかしにして行くかよ…。
ブツブツ文句を言いながら大樹の向かった方に行くと、そこは大樹の父ちゃんの部屋だった。
「絶対おかしいと思ってたんだよな、これ。」
「な…、なんだこれ!」
「隠し部屋だろ、彩、行ってみようぜ、面白いもんが見れるかもしんねぇぞ?」
「はぁ?なんだよそれ…。」
大樹の父ちゃんの部屋には和室の一角があって、そこの掛け軸を捲ると、なんとドアが現れたのだ。
一体どこの忍者屋敷かとも思ったけれど、その理由を俺達はその後すぐに知ることになる。
大樹に手を引かれながら、俺達はその奥へ進んで行った。
「な…、なんだこれ…!」
「しっ、静かにな?」
そこには普通に生活が出来るだろうスペースがあったのだ。
この家の4階と言ってもいいほどきちんとした作りになっている。
驚きっ放しの俺をよそに、大樹は前々からこのことを知っていたみたいだった。
そして俺は、驚愕の現場を目にすることになる。
「ほら、一夫、あーん。」
「そんなものより俺は梢介が食べたいんだがな…。」
「えー?さっきもしたばっかりだろー?一夫ってば食いしん坊さんなんだから。」
「ふ…、梢介は何度食べても飽きないんだよ…。」
「もうっ、一夫のエッチー。」
「おいおい、エッチな俺がいいって言ったのはどこ誰かな?ん?ほーら梢介だってここ…。」
──────…!!!
俺は一瞬、心臓が止まって死んでしまうのではないかと思った。
部屋の中で思う存分イチャイチャする二人…。
その声はどう考えても俺と大樹の父ちゃんだった。
じいちゃんに大反対されて別れさせられたものの、俺達の付き合いをきっかけにまた付き合い出したらしいのだ。
らしい、というかこの場合本当にそうだということになる。
「くっそ、あのバカオヤジっ!!」
「あっ、彩待てよ!」
「止めるな大樹っ!頼むからあいつの首絞めさせてくれ!!」
「待てって彩っ!」
俺は大樹が止めるのも聞かずに、その部屋の中に乗り込んだ。
声の持ち主はやっぱり俺と大樹の父ちゃんで、ソファにもたれかかって二人はべったりくっ付いていた。
それだけじゃない、俺の父ちゃんは…。
「と、父ちゃん…!な、なんつー格好してんだよ!!」
「彩っ、どうしてここが…!」
「なんだバレたか…。」
「いいから脱げよそれ!てめぇ幾つだよ!!」
「歳のことは言うなよ…、気にしてんだから。それにこれ脱いだら裸なんだけどいいのか?」
「こらっ、彩、いくらお前が梢介の息子でも梢介の裸は見せないぞ?」
「み、見たくもねぇよ!!」
「うわ、聞いたか一夫?ひどい息子だよなぁ…。」
「梢介…、可哀想になぁ…でもこんなに裸エプロンが似合う奴は梢介だけだからな?俺を信じろ。」
俺の父ちゃんが裸にエプロンで向かいの父ちゃんのイチャイチャ…。
どこの乙女だよっていうぐらい目を輝かせて甘ったれた声なんか出して…。
しかもさっきの言動からするとあのドタバタ聞こえたのは間違いなくセックスしていたからで…。
俺の頭の中はパニックを通り越して一切の処理が出来なくなってしまっていた。
「やっぱり隠し部屋なんか作ってたんだな、親父。」
「ははは、さすが親子だな、大樹。お前も勝手に自分の部屋に鍵付けただろ?」
「いやぁ…、鍵と部屋じゃレベルが違うけどな…。」
「まぁそう怒るな、仕方ないだろ、じいさんどもがうるさいんだよ。」
確かにじいちゃん達がうるさいのはわかる。
父ちゃん達が別れたのもそのせいだっていうのも。
だからってこんな家まで改造して…いや、黙って工事なんか出来るわけがないんだから、この家が建て替えられる時に既にこの部屋も作っていたことになる。
「いやぁー、梢介との復縁を夢見て作っておいた甲斐があったよな。」
「か、一夫…なんて嬉しいことを…。」
「スーパーにするのも家建て直すのにいい言い訳になったしな。大樹には感謝だ。」
「そうだったのか…?どうしよう一夫、俺嬉しすぎて死にそうだ…!」
「当たり前だろ?俺の人生で愛する奴はお前だけなんだから…。」
「一夫…、嬉しい、一夫、好きだ…!!」
「だーっ!!やめろー!!」
まさか自分の父親が男とイチャついている現場を見ることになるなんて…。
俺達の目なんかまったく気にならないらしい。
本当にこれが自分の親だと思うと情けなくて涙が出そうだ。
大負けに負けて幸せなのはわからないでもないけど、やり過ぎだ。
しかも大樹の父ちゃんは大樹に言い包められてスーパーにしたと思っていたのに自分のためだったなんて。
俺の罪悪感なんてまったく必要のないぐらいだ。
こんなんでじいちゃん達にバレたら大目玉だ。
「わ、わしに黙ってこんなもんを…!!」
「げ…!大樹のじいちゃん!!」
「一夫っ、あれほど別れろと言ったのがわからんのか!!」
「嫌なこった!あぁそうだ、じいさんも彩んとこのじいさんと付き合ったらどうだ?」
「わしゃ向かいのくそじじいなんぞ大嫌いじゃ!」
「あーあ…もう…。」
大樹と俺の行動を監視していたのか、大樹のじいちゃんが現れた。
父ちゃん達も父ちゃん達で、やめればいいのにわざとイチャついて。
これじゃあいつか大樹のじいちゃんもうちのじいちゃんも血管か何かが切れて逝ってしまうんじゃないかと思った。
やっていられなくなった俺と大樹は、呆れ果ててそこを後にした。
「まったくあのオヤジ達にはびっくりだよな…。」
「そうか?俺は確信はしてたけどな。ほとんど毎晩上でドタバタされたんじゃあなぁ…。」
「うわ…マジかよ…。」
「仕方ねぇよ、今盛り上がってんだから。それより彩…。」
仕方ないで済まされる問題でもないような気がするけど…。
それでも今父ちゃん達に目が行っているせいで、俺達は二人きりになれた。
顔と口に出すのは恥ずかしいからしないけど。
「俺達もどっかに作るか、隠し部屋。」
「バカじゃねぇの?そんなのじいちゃんにバレたら…。」
「だってそうでもしなきゃうかうかエッチもしてらんねぇ…。」
「バカ大樹…。あ…っ。」
バカだバカだと俺は言うけれど、本当に大樹はバカなんだ。
俺のためとか俺と二人になるためだとか。
そういう意味でも大樹と大樹の父ちゃんは間違いなく親子だと思った。
そして俺もバカみたいだけど、そんな大樹だから好きなんだと思った。
ゆっくりと重なる大樹の唇に応えるようにして目を閉じて、押しかかる体重に身を任せる。
「こらー!彩!!お前達何をしとるんじゃあ!!」
「げ…じいちゃん…!いつの間に…!!」
「まぁ気にすんなよ、どうせ鍵もかかってるし…な?」
すると今度はうちのじいちゃんがドアをドンドンと叩きまくっている。
気にしないわけはないけれど、こういう時はそんな大樹について行こうと思うんだ。
大樹のためにちょっとだけ無茶してもいいかな、なんて思ってしまう。
「うるせぇ!!邪魔すんなじじい!!血圧上がって死ぬぞ!!」
「彩、やっぱりお前最高だな。好きだよ、彩。」
俺の叫び声に、大樹が吹き出す。
ドアの向こうでじいちゃんが真っ赤になって怒っているのが目に見えるようだ。
「なぁ、やっぱり作った方がいいかもな、隠し部屋。」
「そうだな、作るか!任せとけよ。」
俺はそんな大樹につられるように笑い出して、キスをする。
そしてこの家が隠し5階建てになる日も近いと思った。
END.
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