「ベジタブル・ラブバトル」-1







向かいのスーパーの息子は今日も客に愛想を振り撒いている。
俺は同い年のあいつが、大嫌いだ。
同じ高校に通って、同じ商店街に住んでいるあいつ。
言ってみれば幼馴染みってやつなんだろうけど。

「彩、そこのトマト出しておいてくれ。」
「うんわかった、じいちゃん。」

俺んちはひいじいちゃんの代から八百屋を営んでいる。
あいつんちも昔は八百屋で、向かい同士が八百屋なもんだから、
そりゃあしょっちゅう揉めてた、なんて10年前に他界したひいじいちゃんが言ってたっけ。
なのに5年前、急にあいつんとこの八百屋はスーパーになってしまった。


『彩…、向かいには負けるな…!』


それがひいじいちゃんの最期の言葉だった。
だから俺は絶対あいつんちには負けない!って思ってたのに。


「よう彩、売れ行きはどうよ?」
「大樹には関係ないだろ、スーパーの息子が。」

その息子本人がじっと見ていた俺に気付いて、馴れ馴れしく声を掛けてきた。
なんだよ、今まで近所の主婦相手に笑顔だったクセに。
俺の前ではエラそうにして。


「スーパーだって野菜置いてあるだろ。」
「うちとスーパー一緒にすんな。」
「食ったこともないクセに。」
「食うもんかっ、そんなもん。」

こうしていつも言い争いになる。
ふんっ、急に八百屋やめた奴が何言ってんだ。
うちの野菜とお前んとこの野菜なんか比べる対象にもならないっての。
俺は大樹に無言で睨みをきかせた。


「彩ー、トマト出したのかー。」
「あーうん今!お前に構ってるヒマなんかないんだ、 さっさと行けよおばさん軍団待ってるぞ。」
「ぷ…、相変わらずだな。」

俺が手をパタパタさせて追いやると、大樹はあっさり自分のところのスーパーに行ってしまった。
なんだよ…、毎日毎日一体何しに来てんだよ。
トマトを並べながら、そんなことを考える。
あいつ愛想笑いに疲れてんのか?
嬉しそうにしてんじゃんか。
おばさんっつても綺麗な人とか、中でもさっきいたみたいなまだ若い人も多いし。


「このトマトくれるぅ?」
「ハイっ、毎度…、こんにちは…。」
「お店のサラダに使いたいの〜。」
「いつもありがとうございます…アツコさん…。」

俺はというと、近所にあるオカマバーのオカマさんたちに
大人気で、まぁ彼女たちの売り上げもデカいし…。
このアツコさん(本名は敦)もよく買いに来てくれるオカマさんで、俺のことも昔から知っている。
あいつはあんな美人ばっかにモテモテなのになんで俺は…。
そんなことアツコさんには言えないけど。


「ここの野菜、人気あるのよ〜。」
「そりゃそうですよ、向かいのスーパーとは味も鮮度も違いますから。」
「大樹ちゃんとは相変わらずねぇ。」
「だって俺大嫌いですもん、あいつのこと。」
「そうなの…?アタシてっきり…。」
「ハイ、トマト、いつもありがとう!」

アツコさんが何やら呟いていたのは聞かずに、俺は並べている最中の飛び切り新鮮なトマトを袋に入れて渡した。














『さいー、あそぼー。』
『ひろき!うんいいよ、どこいく?』

あ…、俺と大樹…まだちっちゃい、幼稚園児ぐらいか?


『こらっ、彩、向かいの息子なんかと仲良くしちゃダメだろっ。』
『大樹、お前向かいの息子と遊ぶんじゃねぇっ。』
『うわぁ〜ん、ごめんなさいおとうさぁーん。』
『ごめんなさいぃ〜!』

そうだ、いつも遊ぼうとするとお互いの父ちゃんに怒られたっけ。
遊ぼうと…してたんだよな。
いつからだっけ、遊ぼうともしなくなったの。
あれか、ひいじいちゃんが死んでからか?
多分そうだな、それで俺、あいつのこと避けるようになって、でもあいつが話し掛けてくるからムカついて…。


「彩…、おーい彩。」
「…ふがっ!」

夢…夢だよな。
寝てたのか俺…。
あぁビックリした…って、俺、今思い切り鼻摘まれた?











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