「trouble travel」隼人視点のおまけです。
志摩との電話を切って自宅へ戻る途中、藤代さんがブツブツと呟く。
苛々しながら煙草に火を点けて思い切り煙を吐き出して。
「すいません、志摩のせいです。」
「あ?違うだろ、洋平の奴が悪ぃんだよ、あのバカが一緒んなって寄り道したんだろどうせ。」
「でも志摩が海に行きたいなんて言ったから…。」
「んなこと言ったらシロだって同じだろうが。」
責任がどうとかいう問題でもないけれど、実際に志摩聞いたら自分が悪いと認めた。
普段からあんなにシロにベタ惚れな藤代さんは、どれだけシロが心配だろうか。
俺も志摩が心配じゃないわけじゃないけれど、なんだか責任を感じてしまう。
「藤代さんの弟にまで迷惑かけてたら…っていうか絶対かけてますよ志摩は。」
「まぁまぁもういいだろ、無事に帰って来なきゃ洋平に死んでもらうからよ。」
「こ、恐いこと言わないで下さいよ…。」
「バカ、冗談だっての。」
この人の場合、どこまで冗談なのかわからないから恐いんだ。
だけど実の弟のことを信頼しているみたいで、もうこの話はやめようという流れになった。
俺も志摩が無事に帰って来ればそれでいいと思った。
「んじゃまぁ付き合え。」
「え…?」
「シマたんいなくて寂しいだろ?付き合ってやるっつってんだよ。」
「い、いや俺は…。」
途中で寄ったコンビニで、目の前に酒の瓶をどかんと置かれて嫌な予感がした。
志摩がいない今夜は、一人でゆっくり過ごそうと思っていたのに…。
断ろうとしても、藤代さんは年上で、色々と世話にもなっている。
しかもそんな睨まれて脅されたら断れるわけがない。
「あ?嫌なのかよ?」
「い、いえ、嫌っていうわけじゃ…。」
「じゃあいいだろ。」
「は、はぁ…。」
こうして俺は、藤代さんと過ごすことになってしまったのだった。
結婚式に行く時も一緒、帰って来てからも一緒なんて、仲の良い女友達同士みたいではっきり言って気色が悪い。
そんなことは本人に向かっては言えないけれど…。
その後俺は、大失敗をしてしまった。
まんまと藤代さんに乗せられて強くもない酒を飲みまくり、気付いた時には泥酔してしまっていたのだ。
志摩の前で酔っ払ってからあれ程悪酔いだけはしないようにと思っていたのに…。
「おい水島、大丈夫か……うわっ!」
「志摩ー…。」
「バカ!俺はシマじゃねぇっての!気持ち悪ぃから抱き付くなって!!」
「志摩、好きだ…。志摩ぁ…。」
そしてこのことを俺は一生ネタにされることになる。
いつ志摩にばらされるかも時間の問題だ。
END.