「depression of a daddy」青城視点のおまけ話です。
ある日の夕飯時、シマが突然言い出した。
「アオギ、父の日って知ってる?」
確かに俺は人間界にも詳しい方だと思う。
その「父の日」とやらの存在も知っている。
この世界にあっても俺の場合父となると、多分世話になった愛猫のおやじだとかになるんだろう。
色々得はしたけれど、さして感謝もしていない。
俺は色んなことと引き換えに身体を預けたんだから。
まぁこの話は純粋でまだ小さいシマには出来ない話だが。
「僕ね、隼人くんにプレゼントあげたいの!」
「そうかーシマにゃんこは優しいなー?よちよち。」
「青城様…、お食事中ですよ…。」
「ったくもういい加減にしろよなアホ城。」
桃と紅は相変わらず煩い小舅みたいだったけれど、そんなものは気にしないに限る。
シマと俺が幸せなら良し、自分さえ良ければいいのかと責められてもいい。
所詮皆自分のことは可愛いに決まっているのだ。
ただそれを出すか出さないか、その欲望が強いか弱いかだ。
俺は遠慮なくシマを抱き上げて頭を撫でてやる。
「でもープレゼントってどこで買えばいいのかなぁ?」
「あぁそれならネットで…。」
「あのね、アオギの変な機械壊れちゃったの。」
「…え?!」
「うんと、遊んでたら動かなくなって叩いたりしたんだけど、なんかびょーんって出てきたの。」
「う、嘘だろ…?!」
俺が普段使っているコンピュータ、いわゆる人間界で言うパソコンと同じだ、それをシマが時々いじっていたのは知っていた。
使い方をわかっているのかと不安だったけれど、まさかその不安がこんな結果になろうとは…。
「う…、ホントに電源入んねぇ…!」
「ア、アオギ…!僕壊したの?!どうしようごめんなさい!!」
2日ほど触っていなかった間に、被せられた布の下で部品が一部飛び出ていたりした。
周りには叩いた時に使ったのか工具まで置きっ放しにしてある。
ある程度のデータは取ってあるものの、電源まで入らないとは…。
これは少々心苦しいがシマを叱らないといけないな、と決意してシマを見た。
「アオギ…ぃ、ごめんなさ…ぼく…ひっく…っ。」
「シマ…。」
「ごめんなさいぃー…、うえぇ…、ふえぇー…。」
「あー、いいからいいから!お前のせいじゃないんだ、気にするな!な?!」
俺はつくづくこの恋人に弱いのだ。
ちょっとでも涙を見せようものなら、何もかもすぐに許してしまう。
惚れた弱みというのか…、嬉しいけれど困ったものだ。
「ホント…?怒ってないの…?」
「俺の顔ちゃんと見てみろよ、怒ってないだろー?」
「うん…。」
「な?だから泣くな?人間界に買いに行こうな、隼人くんへのプレゼント。」
じっと見つめるシマを、愛しくて堪らなくなって抱き締めた。
ネット注文出来ないならば、直接買いに行くしかない。
俺も人間界が好きだから、時々遊びに行くのが楽しかったりする。
こうして俺は泣き止んで笑顔になったシマと、数日後人間界に行くことにしたのだった。
「あー隼人くんだ!」
「おっ、ホントだ。」
「え…?シ、シマ…?」
予定通り人間界へ行き、プレゼントを選んでいた俺達は、その超本人とばったり出会った。
傍に志摩ちゃんはいなくて、彼一人とぼとぼと歩いていたのだ。
それもそのはず、志摩ちゃんはこの隼人くんのために準備をしているのだ。
数日前、それこそコンピュータが壊れる前にもらったメールに書いてあった。
「あのね、アオギとお買い物に来てたのー。」
「たまには人間界の空気も恋しくなるわけよ。なぁシマにゃんこー?」
「あ…そう…。」
シマが駆け寄って声を掛ける。
向こうもまさかこんなところで会うとは思っていなかったらしい。
「後で隼人くんのところに行こうと思ってたんだよー。」
「そうそう、そのために来たんだもんな、街に。」
「え…?どういうことだ…?」
「あ…えっとー、僕にとって隼人くんはお父さんだから…。」
「志摩ちゃんはお母さんってところだよな。」
「……?」
俺達が今日の話をしても、なんのことだかわかっていない様子だった。
もしかして、この人間は今までそういう日を経験していないんだろうか。
人間という生き物には色々な事情があるからな…。
いつまでも戸惑っている隼人くんを見て、二人で顔を見合わせた。
「あの…、もしかして隼人くん知らないの?」
「え?何がだ?」
「今日何の日か。」
「今日…?日曜だけど………あ。」
シマが先に切り出して、やっとわかったみたいだった。
時々見せるこの人間の陰には、多分過去が隠されている。
それは俺がとやかく言うことでもないし、本人も今は気にしていないのだろう。
それならば黙って、自分達のことだけ考えるべきだと思った。
「あのね、あとでプレゼント持っていくね。」
「楽しみにしてろよー。」
「あ…、うん…。」
まだプレゼントが決まらない俺達は、先を急ぐことにした。
志摩ちゃんのところへ戻ったら楽しいといいな、そう願いながら。
何度も同じ店を巡って歩いて、色んなものを見た。
お菓子がいいと言ってシマはきかなかったけれど、お菓子はシマが自分が好きなだけだ。
それでも買うと言って結局買ったので袋で三つ、その他にも服だのなんだのと、抱えきれない程のプレゼントの量になってしまった。
こんなにあっては逆に迷惑な気もするけれど、シマの感謝の思いだと思うと止めることは出来なかった。
「いいか、ここ押したら呼ぶんだぞ?」
「うんっ!隼人くーん、志摩ちゃーん!」
「ぷ…、シマにゃんこ、まだ早いって。」
「えー?隼人くーん、隼人パパー!」
今日ぐらいは玄関から行こうと、俺達はその扉の前に立っていた。
呼び鈴を鳴らす前にシマが叫び出して、吹き出してしまった。
ドアの向こうでは、慌てて出て来る二人の姿が想像出来て、もっと可笑しくなってしまった。
END.