「恋人は、サンタクロース?!」の後日談です。
今年の冬は凄い変化があった。
隣に住んでいる一也が、実は職業がサンタクロースだったということ。
その一也が、恋人になったこと。
どっちのことも誰にも言えない、内緒のことだ。
「お、また雪だ、柊、雪だるま…。」
「えーやだよ寒いもん。それに俺、今課題やってるんだよ?」
「そんなもんは冬休み最後の日でいいんだよ。」
「ダメだよそんなの。いいから黙っててよ。」
課題を後に残すのは嫌いだ。
焦って後で何もできなくなるのは嫌だから。
我儘だって思われるかもしれないけど、自分の部屋で斜め向かいにいる一也に鬱陶しい素振りをする。
だけど雪が降ると必ず雪だるま、雪だるまなんて、本当に子供みたいだなぁ…。
そんなところも好きだなぁ、なんて、ちょっとだけ浸ってしまう。
「どれどれ、教えてやるよ。いいかこの公式を…あれっ?おかしいな、なんだこれっ。」
「もーう!わかんないならいいってば!」
テキストに向かって近付いて来た一也の手を払い除ける。
手伝いに来たのか邪魔しに来たのかわからない。
一緒にいられるのは、嬉しいけど…。
「柊、キスしようか。」
「な、何突然っ!そんな顔近付けな…。」
「顔近づけないとキスできないんだけど。」
「う…。あの、一也……。」
手を握られて耳元でキスを誘う一也の台詞が、心臓に響いて身体が熱い。
そんな風に直接的に言われると逆にどうしていいかわからなくなる。
でもそこで許してしまうのは、やっぱり一也が好きだから。
なんだかもう、病気みたいだ…。
俺は断ることもせず、黙って瞳を閉じてキスを待つ。
「柊ー?入るわよー?あら一也くん来てたのね。」
「わわわっ!かかか母さんっ!!入る時はちゃんとノックしてって…。」
「したわよぉ、その後入るって言ったじゃない。」
「そ、そうだっけ…。」
何言ってるのこの子は、なんて母さんは呆れ顔だ。
その母さんと一也が楽しそうに会話する中、俺は真っ赤になって俯いて、何も言葉が出て来なくなってしまった。
一也はそんな俺を見て意味ありげに笑っいてる。
「母さんっ、何しに来たの?俺今課題やってんの!」
「あらぁ、お茶持ってきたのよぉ。じゃあ一也くんの分持ってくるわねぇ。」
「おばさん、ありがとね。」
母さんは一人分のお茶だけ置いて、また1階へ降りて行った。
これはかなり、心臓に悪い。
こんなんだったら、キスするのも大変そうだ。
俺は笑いを堪えて震えている一也を恨めしそうに睨む。
「ごめんごめん、柊があんまり可愛くて。」
「可愛いって…、なんかやだな…。」
「そう?可愛いと思うから言ったんだけど。」
「一也…っ、母さん来ちゃう…っ、んっ。」
今度こそ、一也の唇が重なった。
母さんが来る前に、この唇と離れるのは惜しい。
出来るなら、もっとたくさんしたいのに…。
「だから雪だるま作ろうって言ったんだ。」
「何それ?それがどうしたの?」
「外出たついでに、うちに呼べるだろ?」
「そうだったの…?」
それならそうとはっきり言えばいいのに。
一也はこういう時だけ、はっきり言わない。
ぎゅっと抱き締められて、一也のドキドキと自分のドキドキが重なる。
「だってここじゃ、いつまで経っても先に進めないもんな。」
「えっ、さ、先ってあの…。」
キスの先がなんなのか、キスが初めての俺だって知ってる。
イブの日に布団に潜って来た時も、一瞬そういうことするのかな…なんて勝手に思って恥ずかしかった。
でも一也、やっぱりしたいのかなぁ…。
俺、そういうのもわからないけど、どうしよう…。
「ウソウソ。しないって。柊がちゃんと大人になるまで待ってるから。」
「また子供扱いする…。」
優しく笑う一也が、頬にちゅっと音をたててキスをした。
母さんが上がって来る音が聞こえて、仕方なく離れた後、二人で笑った。
END.