「神様と元神様」のおまけです。
ある日、桃の奴が言い難そうに俺に質問して来た。
「あのぅ…、青城さまと銀華さまは知り合いなんですか…?」
突然そんなことを尋ねて来た理由を実は知っている。
日中、桃だけでどこかへ行っていたようなのだが、それは間違いなく銀華のところだ。
残っていた紅がやけにそわそわしていたし、俺に知られたくないということは、銀華以外には会いに行く奴はいないだろうと思ったからだ。
しかもこの態度から言って、銀華が俺のことを何やら脚色して喋ったのだろう。
「そりゃまぁ…、何度か会ったことはあるぞ。」
「へえぇー…、そうなんですか?」
「で?それだけか?」
「あっ、いえあの…、ただ、会った時どんな感じだったのかなーと思ったんです…。」
桃なりに考えたんだろうが、これはまたダイレクトな言い方だ。
いつもの悪い癖で、ちょっと面白くなってしまい、からかって遊んでやろうと思った。
「よし、じゃあ話してやろう。」
「はい!」
あれは、俺が神様になって、何年か過ぎた頃だった。
今いる東の方で神様の異動があって、俺はそちらへ向かうことになった。
面倒だなぁと思ったが大猫神には逆らえないし、異動先に可愛い猫でもいれば天国!ということで、言われた通り行くことにした。
そこで、隣の区域にいたのが、銀華だった。
どこの世界でもお隣さんへご挨拶なんて面倒なことがあるもので、何かあった時には世話になるかもしれない、そう思ってこちらから挨拶に行ってやったのだ。
「あー、どもども。」
「誰だ…っ!」
その時、振り向いた銀華は何かに神経を尖らせているようだった。
自分以外は受け入れない、信じない、そんな雰囲気があった。
神独特の風貌と、周りに浮遊するオーラが、一瞬俺の目線を釘付けにした。
「いや、隣に異動して来たんだ…。青城っつうんだ、よろしくな。」
「そうか…すまぬ、大きな声を出して。」
何かあったらよろしく。
そんな親しみを込めて会話を交わそうとしたのに、銀華はそれも受け入れてくれない感じがした。
そこですぐに帰ればいいのに、何を思ったのか、俺の目線は再び後ろを向いてしまった銀華の腰の辺りに集中してしまっていた。
「まぁまぁ仲良くしようぜ?」
「な…、何をする…っ!!」
筋肉の付いた形のいい尻(あくまで着物上からだが)を、俺は厭らしい手つきで撫で回していた。
ほんの挨拶変わり、と思ってしたのだが、やはり冗談というものは通じる奴と通じない奴がいるのだ。
思い切り頬を打たれて、あまりの勢いに地面まで吹き飛んだ。
「いってー、何すんだよー。」
「馬鹿者!それは私の台詞だ!ふざけるにも程がある。」
「えーなんだよいいじゃねぇかそれぐらい。」
「五月蝿い。帰れ。二度と此処へは来るな。」
そこまで拒否されると何だか気持ちがいい。
家の中に戻ってしまった銀華に、俺はそれ以上何も言えなくなって仕方なく自分のところへ戻った。
だけどその後も何度か、顔を合わせることがあった。
それは同じ神という職なんだから、仕方がない。
「よっ、元気かー?」
「五月蝿い。寄るな。」
「なんだよまだ怒ってんのか?尻触ったこと。」
「…っ、私はお前のそういうところが気に入らぬのだ!」
その後も顔を合わせるとこうだった。
せっかくの美人が台無しと思うぐらい、俺に対しては冷たくていつも怒ってばかりだった。
銀華がどうしてあんなに他人を受け付けないのか…それは銀華がこの世界からいなくなってから知ることになる。
「信じられません…それは銀華さまは怒りますよ!」
大まかに俺と銀華とのことを話した俺に、桃は呆れ顔だ。
そういえばあの時はまだ、桃も紅もいなかった。
今度は逆に、その話でも聞いてみたいものだ。
「仕方ねぇだろー?俺はあいつの事情なんか知らなかったんだよ。」
「でも会っていきなりそれは失礼です!」
「それは挨拶だっての。しっかしあいつ、いい尻してるよなーウヒヒ。」
「……!!」
「なんだよ、だって今はそのなんとかって人間に触られてんだろ?」
「信じられませんっ!青城さまなんか嫌いですぅー!うあん紅ぃー!!」
自分から切り出して、これか。
いつものことだが、桃のからかった結末はあいつが逃げて終わりだ。
まぁそんなところが楽しいんだけど。
「アオギー?いるー?おやつだよー。」
「シマにゃんこーこっちこっち。」
「あーアオギー!へっへーおやつ食べよ。おだんごー。」
「ん、そうだなぁ…。」
どうやらシマは、この間志摩ちゃんのところへ行ってから甘いものにはまっているらしい。
桃や紅に、菓子の作り方を教えてもらっているところをよく見かける。
いつも失敗作ばかりだけど、笑顔で差し出すシマに、俺も笑顔で受け取ることにしている。
でも、今はそれよりも…。
「アオギ…?」
「んー、それよりシマにゃんこが食べたいなー、お・れ♪」
「えぇっ!アオギっ!あの…。」
「ん、甘いな…、可愛い口だな…。」
驚いたシマの唇をぺろりと舐める。
台所にいたせいで身体中から甘い匂いがして、つまみ食いしたせいなのか唇が甘い。
これから一気に交尾に縺れ込もうと思った時、シマが一生懸命になって俺の胸を押す。
「ダ、ダメだよアオギ…!」
「なんでだよ、いいだろ?な?交尾しようぜ…。」
「そ、そういうのせくはらって言うんだよ!」
「え……。」
唖然として動きが止まった俺の隙を見てシマが逃げてしまった。
セクハラって…。
一体そんな言葉どこで覚えたんだよ…。
そんなシマの成長を見守る俺は、嬉しくも複雑な気分だった。
END.