「イノセント・ベイビーズ」のおまけです。
ある日仕事が終わって家に帰ると、とんでもない事件が起きた。
シロはケーキ屋でのバイトが休みで、一日家にいた。
そこに水島の恋人であり、シロの一番の友達のシマが遊びに来たらしい。
最近シロは、太った太ったと言っていた。
俺から見たらその理由は明らかだった。
家にケーキは持って帰ってくるのは普通、仕事しながら味見するわ、店で手伝いながら新しいケーキを考えると言って、出来たケーキをほとんど自分で食っている。
飯も普通に食っていたら、太るのは当たり前のことだ。
それでもシロが好きなことをしているのを見ているのは楽しいし、好きなものを食べている時のシロの笑顔が好きだから、何も言わなかった。
それに、太ったとは言っても、まだまだ細身の部類に入るぐらい痩せていると思う。
シロは気にして、最近ケーキを控えていたみたいだけど…。
どうやらそれをシマに言ったことによって、事件が起きてしまったのだ。
俺もシロがシマと同じだとは知らなかったから、ここで発覚してよかったと言えばよかったのかもしれないけれど…。
それにしたって、突然あんなことを言われたら、誰だって驚くに決まっている。
「亮平…、その、オレ、あ、赤ちゃんができたみたいで…。」
「……は?」
真っ赤になってシロが告白した時、俺は固まってしまった。
その後すぐに、シロは男同士でも子供ができると思っている、と悟った。
シマのことを無知で可愛いと思っていたけれど、灯台下暗し、シロもだったのだ。
シロ、それは絶対有り得ないんだ。
お前が妊娠したら世は大変なことになるぞ。
そう教えてやればいいのか?
だけどそれを聞いてシロはショックを受けないだろうか。
それならもうセックスはしない、なんて言い出さないだろうか。
それとももっと間接的ないい説明はないか。
ほんの数分の間に、色々な考えが脳内を巡ったのだが…。
「オレの赤ちゃんってやっぱり猫なのかな…?」
「あー…、シロ…。」
「それとも人間になるのか?亮平?」
「うーん…、どっちだろうなぁ?」
あぁ、俺のバカ野郎…。
シロに負けて、言えないなんて、なんて情けない…。
これじゃあ水島のことなんか言えねぇだろ…。
その時ふと、水島のことが浮かんだ。
きっとシマも、家に帰った後このことを話しているに違いない。
それなら水島と話し合いでもするか、そう閃いた。
そして俺は、次の日になって水島に電話で聞いてみることにした。
「さぁ…?教えてあげればいいんじゃないですか?」
電話の向こうの水島は、含み笑いをしながら答える。
こいつ…俺に前言われたこと、根に持っているんだな…。
「俺はちゃんと教えたんで。」
言い放った水島が、電話を切った後腹を抱えて笑うのが想像できた。
これはもう自分で何とかしろ、そういうことだ。
早かれ遅かれわかることなら、早い方がいい。
俺はシロに本当のことを言う決意をして、急いで家に帰った。
END.