「innocent baby」番外編「innocent heart」のおまけです。
シロの様子がおかしい。
おかしいというか…なんか機嫌が悪い…?
俺…なんかしたっけ…??
思い当たる節がない俺は黙ってその様子を見ていることもできずに、部屋の隅っこで小さく丸まっているシロに近寄った。
「おい、シロどうし…。」
「いいなぁシマ…、ミズシマも…いいなぁ…。」
…そう、さっき隣のシマが来てその恋人の水島と結婚するんだー、と自慢をして騒いでいたのだ。
そのシマは迎えに来た水島に連れられて隣に帰って行った。
あぁ、なるほどな…。
そういえばその時シロは物凄く羨ましがっていた。
正確には結婚じゃないけれど、オレも亮平と結婚したい~っと何度も言っていた。
「なんだよ、拗ねるなよ。」
「す、拗ねてなんかない!」
「んじゃふて腐れてんのか?機嫌直せよ、な?」
「こ、子供扱いするなっ!」
俺は思わず吹き出してしまった。
確かにそんな扱いに思われたかもしれないけれど、それはシロが子供みたいに純粋で無邪気と思っているから、無意識にそんな風に出てしまった。
だからシロに対してじゃなくて自分に対して、吹き出してしまったのだ。
「ごめんごめん、悪かった、な?」
「なんだよ…、亮平なんか…。」
これはもしかして…ここから倦怠期突入だろうか?
それは嫌だ…どうすればいいんだ…。
亮平なんか、というのはちょっとどころじゃなく聞き捨てがならない。
俺は今シロの中で「なんか」と言われてしまう存在ななんだろうか?
「亮平なんかシマのほうが、か、か、可愛いと思ってるんだ。」
「は?」
待て…どこから俺がそんなことを思うんだ?
しかもそれは今の話題と関係ないんじゃないか?
ぷいっとそっぽを向いてしまったシロの隣で、俺は固まってしまった。
「お、俺…シマのこと可愛いっつったか?」
「言ってないけど時々頭撫でたりしてるし、シマのこと可愛いって目で見てる…。」
「目って…。でもお前だって言ってるだろ、シマ可愛い~って。」
「う……。」
あぁ、そうか…。
シロのこういうところを見たのは初めてだった。
多分シロも出したことはないし、気付いていないかもしれない。
今までなかった、恋の醜い部分というやつだ。
シロの頬が膨れているのは見えなくてもわかる。
俺からしてみればそういうところも可愛いんだから、シロというのはどこまで俺を刺激するつもりなんだろう。
「なんだ、嫉妬してたのか?」
「え…嫉妬…?オレそうなのか?」
「だってシマの話聞いて悔しいって思ったんだろ?」
「うん、思った。」
「で、俺がシマに触るのとか嫌なんだろ?」
「うん、やだ。」
やっぱりシロはわかってなかったらしく、大きな瞳をくるくるさせている。
その顔は想像通りで、今すぐにここでめちゃめちゃにしてやりたくなった。
その前にシロを納得させてからじゃないとそれはさすがに出来なくて、膨れた頬を指先で軽く摘んで優しく動かした。
「だからそれは嫉妬なんだって。わかったか?」
「う~、そんなのやだ…オレ、バカみたい。」
「バカじゃねぇよ、当たり前のことだから。」
「ホントか?」
ホントだよ、と口にする代わりに、唇でシロに触れた。
摘まれて紅くなった頬に、同じく紅くなっている耳朶に、大きくて潤んだ瞳に、最後に柔らかい唇に…。
いつまで経っても変わらない嬉しい反応に、愛しさが堪らなく込み上げた。
「でもオレ、シマみたいにちっちゃくないし…。」
俺に言わせればシロも十分小さい。
シマが特別小さいだけで、最初見た時は中学生…小学生でもいけると思ったぐらいだ。
しかも水島がデカいから余計小さいのが目立っている。
俺が撫でたりするのは本当に子供に見えるからで、確かに可愛いとは思うけど、別にそれだけだ。
「でもほら…な?」
「…あ……。」
俺にとってはシロ、お前が一番抱き心地がいいんだ。
ちょうど抱き締めるとすっぽり収まるぐらいのシロの身体が好きだ。
もちろんその中身も全部…。
「へへっ、オレ嬉しい…。」
腕の中ですっかり機嫌を直したシロは、俺の胸へ頭を擦りつけて甘えてくる。
きっと、いや絶対に、シマよりも可愛い。
もちろんそれも水島にの前では言えない。
言ったとしてもあいつは、あぁそうですか、なんて平然と答えるだろう。
だけど実は心の中では俺の文句を言っていたりして…なんて、ちょっとやってみたくなってしまった。
「亮平?」
「ん?」
「なんかどっかに行ってた。」
「あぁ悪ぃ悪ぃ。」
俺より温かい身体を、ぎゅっと抱き締め直した。
これはシロの存在を意味する体温だ。
結婚なんかできなくても…ちゃんと俺の傍にいるという証拠だ。
出来るならなんとかしたいけれど、それにはまずは日本を変えてもらわないいけない。
それから魔法でシロを…いや、それは俺が怒ったんだ。
バカだな俺…、俺も少しはそんなことが頭の端にあったなんて。
そうだ、ここにシロがいると感じられたらそれでいいんだよな…。
「さっきのナシ!オレ、シマのこと可愛いし、仲良くしたい。」
「そうだよな、お前の弟みてぇだもんな。」
「オレの弟か~…へへっ。」
「あぁ、そう見えるぞ。」
シロの頬はもう膨らんでいない。
元からの膨らみは抜きにして、さっきの拗ねていた顔はどこにもない。
弟という今までいなかった存在を意味する言葉に、瞳の端を垂らしている。
そのでれっとした顔はちょっとシマと似ていて、やっぱりシマは弟みたいだ、と思った。
「よかったな、シロ、弟みたいのできて。」
「うん!」
俺以外に仲のいい人間がまた増えて本当によかった。
あんまり仲良くし過ぎたらさっきのシロみたいになるかもしれないけれど、そうやってシロは、俺たちの恋は成長していくのだと思う。
お互いを好きだと思う心だけは、変わらずに。
END.