「チャイルドライク」大和視点の小話です。
いつからだろう、あの人を、目で追うようになったのは。
この心の中を支配されたのは。
それが「好き」という気持ちだと気付いたのは。
最初は偶然だった。
ちょっと調べ物しようと思って、放課後の図書室に行った時、俺よりも小さいその人は、一生懸命になって本を戻そうと手を伸ばしていた。
俺もそんなに背が高いわけでもない。
でも助けてあげたくて、近付いた。
しかし声を掛けようとした瞬間、同じ図書委員だと思われる奴に先を越された。
「悔しい」そんな気持ちがなぜか沸いた。
それから俺は、あの人が当番でいる曜日をわざと狙った。
本はもともと好きだったけれど、あんまり興味がない本でも、会いたいがために借りた。
何度も借りたら、顔ぐらい覚えてくれると思ったからだ。
『3-C 羽野』
丸く囲んだ、受け付け担当の文字。
俺より学年は、一つ上。
下の名前は皐月。
綺麗な名前だなぁ、と思った。
それ以外はわからないから、やっぱり俺は図書室に通い続けた。
彼は当番の曜日以外にも、そこにいることが度々あった。
人のいい羽野先輩は、よく当番を代わってあげていたのだ。
断りたいのに、笑顔で引き受ける。
自分だって受験生なのに…。
だけどそういう苛立ちは羽野先輩に対してではなくて、多分その相手に対してだったと思う。
羽野先輩がちょっとの時間でもそいつだけを見ていると思うと…つまりは嫉妬だ。
子供だなぁ、と思う。
周りからは頭がいいだの顔もいいだの、大人びてるだの…なんだかいいように言われてるけれど、そんなことはない。
「蔦谷、どうした今回のテストは。」
「すいません…。」
参った。
いつも満点だらけのテストが最悪な結果になってしまった。
このままでは、俺はどうにかなってしまう。
重症だ、おかしいと言われてもいい。
どうしても羽野先輩に好きだと言いたい───。
でも現実問題、俺も男で、あの人も男だ。
絶対気持ち悪がられるだろうな…。
それが変化したのは少し経ってからだった。
俺に向けられた、熱い視線。
勘違いとか間違いとかではないと思った。
先輩…。
先輩も俺のこと…好きですか。
教えて下さい、先輩の気持ち。
聞かせてくれませんか、その熱い視線の理由を…。
今日こそ、言わなきゃ……。
「先輩、俺に付き合ってくれませんか。」
END.