COLORFUL MARSHMALLOW







「では今日の委員会はここまで。」

凛とした声が、放課後の特別教室に響く。
自分の先輩で、この委員会の委員長で、そして、 恋人。
常盤と恋人同士になって、約一ヶ月。
片思いから両思いに変わったきっかけを作ったのは、なんと常盤の方からだった。
バレンタインの日に、告白されて。 キスまでしてしまった。

そして今日はいよいよホワイトデー。


「成田くん…、成田くん?」
「…ハ、ハイッ?」

これまでの一ヶ月間を思い出してボーっとしていたら、先程の声が降って来て、心配するかのように顔を覗き込まれた。


「もう皆帰ってしまったよ。」
「あ、すいません俺、ボケっとしちゃって。」
「いいよ、二人きりになれるしね。」
「あ…、そんな…。」

別に狙っていたわけではないが、やっぱりこういう物を渡す時は、できれば他人はいて欲しくはない。
まず自分も常盤も男だし、そして常盤はちょっとだけ(と思いたい)変わっているのだ。
普段は誰にでも信頼されていて、人望も厚い、しっかり者なのだが…。


「あの、コレ先輩に…。」
「え…。」
「いやあの、バレンタインの時もらったんで、お返しです。」
「えぇっ?俺に?」

思いの外常盤は顔を綻ばせて喜んでくれた。
これならあげた甲斐もあるというものだ。
あとはあの他の人格がでなければ…。


「嬉しい、僕嬉しいよぉ、成田く〜ん、成田くんだぁい好き!」

って、もう出てるし!!
そう、常盤の中のもう一つの人格、乙女ちっくな人格が現れた。
自分が近付いたりして、ドキドキするとそうなるらしい。


「うふふ、マシュマロかぁ〜、なんだかふわふわで、成田くんみたい、な・ん・て!」

っていうか前より乙女になって、ちょっとオカマっぽくないですか?
その恥じらう仕草とか、女っぽいんですけど。
まぁでもこの常盤先輩は乙女なだけに害みたいなのないからな。


「ね、キスしよ。」
「え…っ、あ、う、ハイ…。」

付き合って一ヶ月、まだ数える程度しかキスはしていない。
そういう行為に慣れていないせいもあるが、更にもう一人いる常盤に慣れていないせいもある。


「んぅ…っ。」

乙女なのに、キスはなかなか激しい。
それは別の常盤が出てくる合図でもあった。


「ホラ、もっと舌絡めろよ…。」
「んっ、せんぱ…、も、放して…っ。」
「そんな顔してか?放すわけねぇだろ。」
「や、やめてくださ…っ、んっ。」

ふいに常盤の手が制服のシャツの間に割り込んできた。
キスをしながら、胸の先端を指が探り当て、撫でられた。
このままじゃこんなところで初エッチになっちゃう…!
そんなのは、嫌だ…!


「放せーっ!!」
「うわあぁっ!!」

先輩、ごめんなさい!!
そう思いながら、ありったけの力で常盤を突き飛ばした。
自分より身体の大きい常盤が、一瞬にして離れた。
いつもこうなるから、キスより先には進まないのだ。


「す、すまない、また…。」
「あ、いや、俺の方こそ!」

常盤本人と思われる人格がまた現れ、毎度ながら謝られた。
申し訳ないのはこっちなのに、と思い、ぎゅっと瞳を閉じた。
違うんだ。したくないわけじゃなくて。 嫌なわけでもない。


「まだ、早いもんな。」
「え…?」
「恐いんだろう?」
「先輩…。」

この人はわかってくれているんだ。
だってあの人格が出たら、されるのは(多分)俺だから。
ちゃんとわかって、好きだからそういうこと考えてくれて。
人格が幾つあろうと、俺のことを一番に考えてくれている、ってことだけは変わらないんだな…。
なんだかそう思うと気が楽になったような気さえする。
この人になら、されてもいいかな、とか。
でもそんなこと自分から言うなんて出来ないし…。


「フフ…、わかるよ、その気持ち。恋ってさぁ、そういうモノだよね…。」

ん?? なんか、いつもと違う??


「僕もさぁ、時々不安になるよ。君が好き過ぎて、あぁ恐いぐらいだ…!」

何鏡見てるんですか!!
なんか瞳が酔ってるんですけど。
ま、まさか…。 ゴクリ、と唾を飲んだ。


「でもね、そういうのも恋の愉しみと、きみは思わないかいっ?」

ひえー、多分実際にはないけど、光が見える!
なんか眩しいですよ、先輩!
も、もう一人いたのか…っていうか他にもいるかも??


「じゃあ、僕はこれで。ありがとう、成田くん。いい夢を…グッナイ!」

投げキッス…。
しかもまだ夕方だし…。
そんでこっちが決心した途端、あんなのが現れるし。
これじゃあいつになったら先に進めるのか…。
別に期待してる、とか、すごいしたいわけじゃないけど…。


『そういうのも恋の愉しみ』


そうなのかもしれない。
常盤の中の色んな人格がいる分、味わえると思えば、 かえって得、と思えばいい。
そう、この…。


「あー!先輩っ、忘れてます!待って下さいー!」

常盤にお返しとして渡した、カラフルなマシュマロのように。










END?






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