「ONLY」番外編「friends2」




「ぶーん、ぶーん…、かずほくん、しまのくるましゃんはやいでしょー?」

幼稚園から帰ると、俺は一つ年下の志摩と一緒の部屋で、こうして玩具の車で遊んでいた。
俺があげた車を、大事そうに志摩は玩具の箱にしまっていた。
志摩専用のはピンク色の箱で、うさぎの絵が描いてあった。
箱を見ただけだと、女の子のものが入ってそうな感じだった。
俺が与えられたのは、志摩とは逆に、男の子っぽい水色の箱で、車の絵が描いてあった。


「きょうね、あたらしいのがくるですよ?」
「あたらしいってなに?」
「あたらしいおもちゃ!きょうはしまとかずほくんがいちばんにえらべるの!」
「ふーん…。」

施設では、二ヶ月に一回、おもちゃを買ってくれるらしい。
小さいものから大きいものまで、施設の先生達が選らんだものだ。
大きいものはすぐになくなってしまう。
だから、ちゃんとみんなに公平に行き渡るようにと、部屋ごとにその順番が回って行くシステムになっているのだ。


「うさたんいるかにゃ?くましゃんもー。かずほくんは、なにがいい?」
「みてきめる。」
「そだね、しまもみてきめる!」
「うん…。」

ここに来て志摩と出会ってすぐの時に俺が捨てたぬいぐるみは、全部大きなものだった。
志摩がいつも一緒にいたせいか、汚れや解れがあった。
あれを集めるまで、どれぐらいの時間がかかったのだろう…。
それほど志摩は、ずっとここにいた。
生まれた時からずっと…。


「志摩ちゃん、一穂くん、新しい玩具ですよー。」
「わーい、かずほくん、おもちゃきたよ!」
「うんっ。」

はしゃぐ志摩に手を引かれて、先生が持って来た玩具のところまで行った。
ダンボールに入ったたくさんの玩具を、志摩は瞳をキラキラさせながら見ていた。
大きなぬいぐるみ、小さなぬいぐるみ、車や、積み木のようなもの、茶色の無地のダンボール箱の中で、カラフルな玩具が輝いて見えた。


「しまこれにする!!うさたん!かわいーうさたん♪」
「志摩ちゃん、それはね、猫ちゃんなのよ。」
「そなの?にゃんこ?んじゃにゃんたん!」
「よかったわねー、志摩ちゃんに可愛がってもらってね。」

猫のぬいぐるみを抱き締めて、志摩は走り回る。
連れて行かれたぬいぐるみに向かって先生は挨拶をして、嬉しそうにしている。
うさぎと猫の区別もつかないなんて、面白いよなぁ、と思った。


「一穂くんは?やっぱり車かな?ほら、これなんかカッコいいでしょ?」
「うん…、カッコいい…。」
「先生が選んだんだよ、一穂くんこういうの好き?」
「うん…、これにする…。」

俺の新しい玩具は、真っ赤なスポーツカー。
持って来た中にはあんまりそういうのがなかったから、ダンボールの中で密かに見つけた時には嬉しくて堪らなくなった。
素直に言い出せない俺を助けるように先生が言ってくれて、俺はそれを手に入れることができた。


「にゃんたん、にゃんこちゃん、にゃんにゃん♪」
「………。」

先生が別の部屋に行った後も、志摩はずっとそれを離さなかった。
真新しい真っ白な猫のぬいぐるみ。
あの時のぬいぐるみも最初はこうだったんだろうな、そう思うとなぜだかせつなくなってしまった。


「えへへーかわいー!しまのにゃんたん!」

もう、俺があげた車なんか、必要なくなるんだろうな…。
俺は部屋の端っこで、新しい車と古い車を混ぜて遊んでいた。
たくさん集まったそれは、小さな車屋みたいになっていた。


「かずほくん、あそぼー?」
「いいよ、しまはねこであそんでれば?」
「かずほくん?」
「おれがあげたくるまなんかもういらな……。」

志摩が後ろから誘ってくれているのに、俺は悔しくてその誘いを断る。
こんな風に言ったら泣くだろうな、そう思って確かめるために志摩の方を振り向いた。


「しまのにゃんたん、かずほくんのくるましゃんにのってます!」
「あ……。」
「にゃんたんたのしいですかー?えへへ、たのしいでーす。」
「しま…。」

そこでは志摩が、大きな猫のぬいぐるみを、俺があげた小さな車に無理矢理乗せていた。
楽しいと言いながら遊び続ける志摩を見て、なんだか心の底から嬉しくなってしまった。


「かずほくん、いっしょにあそぼー?」
「うん…!」

こうして、俺と志摩は、車とぬいぐるみでいつも遊んでいた。
いつだったか、どうして志摩はぬいぐるみが好きなのか聞いたことがある。

うさたんとかはやーらかくてあったかいです。
おかーさんにだっこしてもらってるみたいなの。
だからしまはさみしくないのです。

そう言って笑う志摩は、本当はとても寂しかったんだと思う。
その後今は一穂くんがいるからもっと寂しくない、そう言われた。
ぎゅっと手を握り締めながら、嬉しそうに。
言われた俺も多分、寂しかったんだろう。

幼稚園を卒業して、小学校に上がって、思春期を迎えるまで俺は志摩と遊んだ。
施設に帰ると、いつも聞いていた台詞を今でも思い出す。
ぬいぐるみと車を抱き抱えてぱたぱた走って来た志摩の台詞だ。


「かずほくん、きょうはなにしてあそぶ?」

もう遊ぶことはないだろうけれど。
今度会った時には、懐かしいその話でもしようか。









END.







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