「Lies and Magic」二人のその後編1「星に願いを」




ある日、風呂から上がって、寝る支度をしていた時のことだった。
布団を整えていると、さっきまで床にいたはずの志摩がいない。
いくら小さくても猫のシマじゃあるまいし、いなくなったのを見逃すわけがない。
窓から逃げるなんてこともあるわけな……。


「…志摩。何やってるんだ、風邪ひくだろ。」
「あっ、隼人ー!」

窓のほうへ目を向けると、妙な格好をした志摩がベランダにいた。
足下には猫のシマも一緒だ。
被っていた昼寝の時に使っているブランケットを退けると、
下には半纏を着ていて、その着膨れ具合に思わず吹き出しそうになった。
まるでなんかのお菓子…、餅とかだんごとか…。


「だんご…。」
「だんご?おだんご食べたいの隼人?」
「いやそうじゃなくて…、なんでもない。」
「??変なのー。」

変なのは、お前だよ。
お前が変だから、俺までこんなに変になったんだ。
こんな、誰かに、恋に夢中になるなんて…。


「ねーねー、見て見て!星!!今日寒いからいっぱい見えるよー。」

志摩の指先が指す方には、ここが東京とは思えないぐらい、たくさんの星が瞬いていた。
こんな数の星を見たのは初めてかもしれない。
いや、そもそも星自体見たのが久し振りだった。


「あぁ。」
「それだけ??もっとロマンチックな感想ないのー?」
「ロマンチックってな…。」
「だってさー、こんな綺麗なんだよ?この星空の下で隼人とおでん食べたらおいしいだろうなー♪」

でれでれ笑う志摩の口からは今にもよだれが零れそうだ。
それのどこがロマンチックなんだか…。
相変わらず食べることに関して執着している奴だな…。
そこがまた志摩の面白いところで、可愛いところで、いいところなんだけど。


「なんかお願い事とかしようよー。」
「別にないからいい。」
「ええーー!!ないの?隼人お願い事ないの??なんでー?!」
「…ないよ。」

なんでと言われてもないものはないんだから仕方ないのに、志摩は大きな声で責め立ててくる。


「そっかー…、ないんだー…。」
「うん。ない。」

そんな残念そうな声出すなよ。
だって仕方ないだろ、俺の願いはもう叶ってるんだから。
志摩、お前がここに、俺の傍にいることが俺の願いなんだ。
お前がいてくれているんだから、これ以上何を望めっていうんだ。
仮にそれ以上を願うなら、ずっとこれからもってことだろうけど、
俺は志摩を離すつもりはないし、志摩もそうなんだって信じてるから。


「俺はねー、んっと、隼人ともっとラブラブになりたいです!」

そんなことを目の前で言われて、冷静でいられるわけがない。
ベランダということをいいことに、満面の笑顔の志摩をぎゅっと抱き締めた。
ここならまだ、恥ずかしい表情が誤魔化されるからだ。


「もう中に入れよ、志摩。」
「あ…、ハイ…。」

志摩の冷えた頬に手を宛てて、キスをすると一気にその温度が上がるのがわかった。
ラブラブになりたい、イチャイチャしたい、そう言ってるクセに、実際はキスだけでこんなになってるのにな。
まぁそれは俺も志摩のことは言えないけど。


「お前の願い、叶えてやるから中に入れよ。」
「うんと、えっとそれってその…。」
「嫌ならいいけど。」
「…嫌じゃないです…。」

俯きながら言った志摩にもう一度キスをして、温かい部屋へと戻った。
足下の、猫のシマも一緒に。




END.




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