「シロたんものがたり」

あるところに、シロたんというひとりぼっちなこねこがいました。
だいすきだったみゆきちゃんがいなくなって、おうちからにげてしまったのです。
そんなときおなかをすかせていたシロたんにエサをくれたひとがいます。
「シロたん〜。」
「…み〜。」
シロたんとなまえをつけてくれたりょうへいくんは、それからいつもエサをくれました。
シロたんはやさしいりょうへいくんのことがだいすきになりました。
りょうへいくん、いつもありがとう。
シロたんはそのことをいいたくてもねこなのでいうことができません。
そこで、ねこがみさまにおねがいをしてまほうをかけてもらいました。
ねこがみさまのまほうでシロたんはにんげんのすがたになりました。
これでりょうへいくんにありがとう、ということができます。
ほんとうはだいすき、っていうのもいいたかったんだけど、
りょうへいくんにはなかよしなおんなのこがいたのです。
こうして、ありがとう、だけいってさよならするつもりだったのに、
なんと、りょうへいくんもシロたんのことをすきになってしまいました。
なかよしなおんなのことはさよならしていて、そのあとシロたんのことをすきになったのです。
ふたりはあいしあいました。シロたんはしあわせでした。
でも、それはねこのせかいではしてはいけないことでした。
ねこのせかいのおきてをやぶったシロたんは、りょうへいくんのまえからすがたをけしてしまいました。
りょうへいくんはとてもかなしくてないていました。
それをみたねこがみさまは、さいばんでシロたんにこういいました。
「ばつとして、あのにんげんのそばにいなさい。」
それはシロたんにとってもりょうへいくんにとっても、うれしいばつでした。
それからシロたんはりょうへいくんのところにもどって、
ふたりはまたいっしょにくらせることになりました。


きょうもふたりはしあわせです。

おわり。

 






 

「つーかこれなんだよ…。」
「ん?うちの奥さんがね、書いたんだ、絵本にする原稿だよ。」

ある日、柴崎の兄貴・佳史さんが、仕事が終わってから店に来いっていうから、
シロと一緒に帰りたい、ってのもあって、俺はそこに直行した。
佳史さんの奥さんはまだ売れてはいないけど、絵本作家なんかもやってたりして、
わりと俺とシロの話なんか信じてくれてる、ありがたいっちゃーありがたい人なんだけど、
まさかこんな話まで書くなんてな…。
まぁ実際出版することはないだろうけど。
シロだってこんなん読んで嬉しいわけねぇだろうが。


「ん…?シロ…?」
「おぉ…。」

まさかこいつ感動してるんじゃ…。
いや、何も知らないシロのことだ。
それもあり得るか??


「お前嬉しいのか?」
「だってこれ、しあわせ、って書いてる。」
「あぁ、そっか…。」
「オレ嬉しい。」

何も知らないほうがこんなふうに素直に喜べるんだな。
まったくお前って奴は、なんて奴だ。
もっと幸せにしたい、って思うだろ。


「シロ…。」
「もし売れたら印税、ってのちょっとくれるって!」

俺が思わずケーキ屋ということも忘れてキスしようとした時だった。
今印税っつたか…?


「お前金欲しいのか?」
「もらえるもんはもらわないとな!」

参った、もう降参。
お前には敵わない。
そんな無邪気な顔してちゃっかりしてんだから。
もう俺の嫁じゃねぇかよ。
できれば本当に嫁にしてぇぐらいだ。
うん…でも…そうだな…。


「シロ、ずっとしあわせにするからな。」
「うん、オレもする!」

一生しあわせにしてやるよ。
まるでプロポーズのような言葉を吐いて、
佳史さんに見られないようにそっとキスをした。






めでたし、めでたし。




●こんなところまでありがとうございます!
これは以前Web拍手御礼で書いたもので、当然絵本にする予定はありません。(当たり前だろ!)
あまりにアホ過ぎてサイトにも載せれない、とか言いつつこっそり…。









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