「LOVE MAGIC」番外編4「ウェディング・ドリーム」




「結婚?」
「あぁ、披露宴ド派手にやるらしいぜ。」

6月のある日、仕事から帰った俺は、床に寝そべっていたシロにそれを知らせた。
その日、仕事先で会った柴崎から、明美と結婚する、と聞いたのは 突然のことだ。
元彼女と友達が結婚ってのはちょっと複雑だけど…。
でも俺は今はシロが好きだし、素直にめでたいことだと思う。


「へぇ〜、いいなぁ〜。」
「いいなぁって、お前も行くんだぞ?」
「えっ、オレもいいのか?」
「当たり前だろ。」

シロは自分が招待されるとは思ってなかったみたいで、瞳を大きく開けて驚いた後、嬉しそうに俺に抱き付いてきた。
膝の上でごろごろ言って、最近また猫に戻ったみたいに
甘えてくるシロが可愛くて愛しくて仕方ない。


「お前仕事休めるか?…って、新郎あいつの弟だもんな、大丈夫か。」
「ヨシフミさんケーキ作るのかな、オレも手伝いたい!」

俺と出かけるのが嬉しいらしいシロは、今から決まってもいないことに張り切ってるみたいで、その一生懸命さが可笑しい。


「…あ、でもお前スーツなんか持ってなかったか、俺のじゃデカいし…。」
「スーツ??うんオレ持ってない。」

まぁ、いいか、直せばなんとかなるだろ。
ちょっと今からその着た姿、想像できるけど。








「だからってねぇ、その結婚する当人に直させるってどうなの?」
「だってお前もう仕事辞めたんだろ?」

翌日、俺は明美に電話して、明美の自宅へと出向いた。
確かにここで明美に頼むのもどうかと俺も思ったけどよ。


「まぁいいけどね。」
「そうそう、頼むわ、な?」

文句を言いながら、器用に俺の持ってきた服を見て、裾を解いていく明美は、幸せそのものの表情だ。
まだ籍は入ってないらしいが、若奥さんって感じだ。


「子供でもできたのかお前ら。」
「何言ってんの突然。」
「いや、だってお前まだ若いし。」
「違うわよ、ただ一緒にいたいと思ったから。」

ただ一緒にいたい、それは俺も同じだ。
ずっとシロと一緒にいたい。
俺の知らない間に、柴崎とそこまでになってたのか。
お前も幸せなんだな、よかったよ。


「彼、社長の息子って知ってた?」
「いや、知らねぇな、初耳だ。」
「洋菓子店とか。お兄さんは作るほうに夢中で、経営に関して興味ないんだって。 だからうちの人が継ぐみたいよ?」
「マジかよ、お前社長婦人?」

うちの人、なんて、恥ずかしいこと言ったの、気付いてるんだろうか。
お前もう立派なあいつの奥さんだな。
あいつがそんな家系ってのはあんまりよく知らなかったけど、いつだったか、なんでここでバイトしてるか聞いたら、社会勉強のため、とか言ってたな。


「あのな、明美、幸せにしてもらえよ。」
「あんたに言われなくても。」

俺と付き合っていた頃には見れなかった穏やかな笑顔で、それが現実になっていく未来ということはよくわかった。













「ぷ…、やっぱり…。」
「わ、笑うなよー!」

結婚式当日、直してもらったスーツを着たシロを見て、あんまり予想通りで、俺は思わず吹き出してしまった。
悪いとは思ったけど、七五三で無理して着てる子供みたいで…。
でもバカにしてるんじゃないんだ、それがあんまり可愛くて、ホントは外に出したくないぐらいで。


「褒めてるんだよ。」
「ホントかぁ〜?」

疑いの眼差しを向けるシロの首元で、上手く結べてないネクタイを一度解いて綺麗に結び直した。


「ホント、すぐ脱がせたくなるぐらい。」
「えっ、そ、それはその…。」
「今はしねぇよ。」
「りょ、亮平もカッコいいぞ!」

シロは真っ赤になって俺を褒めて誤魔化す。
バレバレなんだよ、恥ずかしくなってんの。
お前は嘘がつけない奴で、そこが俺は好きなんだから。




「おぉシロ、今日はまた七……もがっ!」
「可愛いだろ?なぁ?惚れるだろ?でもダメだからな。」
「あ、あぁ、似合ってる、シロ、来てくれてどうもな。」
「シバサキ!おめでとう!」

会場で会った新郎の口を塞いで、俺は無茶苦茶なことを言ったりする。
惚れるだろ、って今日結婚する奴にそれはねぇよな。
シロは笑顔で柴崎に祝いの言葉を言って、この空間は幸せムードでいっぱいだ。


「亮平っ、メロン、メロン。」

シロは披露宴の間ずっと主に食い物に関して喜んで俺に報告してくる。
俺の袖をまわりにわからないように引っ張って、メロンだの刺身だの、肉だのって…。
それじゃあ俺がいいもん食わしてやってねぇみたいじゃねぇかよ。
いいもんじゃなくていいってシロが言うから気にしてなかったけど。


「亮平〜。」
「ん?お前また…。」

コーラ片手にとろん、となっているシロが、俺の凭れかかってきた。
こ、こいつまたコーラで酔ってる…!!
なんでそんなに可愛いことすんだよ。
今にも眠ってしまうんじゃないかって感じのシロを、俺は酔い(?)を覚ますために、誰もいないロビーへ連れ出した。


「大丈夫かよお前。」
「うん…、あの、俺…。」

エンジ色の光る素材に金色の装飾がされた豪華なソファー にシロを寝かせて、俺は隣で煙草をふかす。


「俺も結婚したい〜…。」
「はぁっ??だ、誰とっ??」
「亮平と〜…。」
「なんだそういうことか、ビックリすんだろうが。」

一瞬別の女としたいからもう別れる、なんて言い出すかと思っただろ。
いや、それはないってわかってるけど。
俺たちは男同士だから結婚は当然できるわけはない。
でも、それ以上にお前を幸せにしたい、それは誓える。


「りょうへ…、けっこ…‥。」

その誓いを胸に、キスしようと近付くと、シロの唇から寝息が洩れた。
こんな時に寝る奴があるか。
きっと今頃、シロは幸せな夢を見てる。
それは寝顔でわかることで、ずっとそれが見たいと思った。


「シロ、結婚しような…、まぁ…、法律が変わったらだけど。」

わかってるか、気持ちの上ではもう結婚してるんだ、俺は。
そう幸せに浸りながら、コーラの香りがする唇に、誓いのキスをした。






END.







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